第72話 えあっ、ちょっと!
それは、少し肌寒い夜のことだった。
一室で対峙するは、一国の王と一国の王子。
長い歴史の中、いがみ合ってきた両国の王と時期、王はある決断を下した。
しかし、それは余りにも無茶な話で。
実現するのに、余りにも道のりが遠すぎて。
しかも、もうすでに一つ問題があった。
このことを成功させるには、絶対必要であろう鍵が盗まれようとしていたのだ。
その鍵は、とても脆く、触れれば一瞬にして壊れてしまう。
だからそっと、厳重などこかに隠さなければいけない。
しかし、そこで隠してしまえば、この決断が成功するまでの道のりで、寄り道をするように時間がかかってしまう。
もう、時間はないのに。
一刻も早く、物語を進めないといけないのに。
そこで、王子はある提案をした。
とても無謀な提案。
今まで王が、鍵を隠そうと必死にしてきたことを水の泡にしてしまう提案。
その提案は、とても危険で、しかし物語を一気に進めることが出来て。
リスクか、時間か。
民の命か、大事な鍵か。
悩んでいる暇はない。
王ならば悩まずとも選ばなければいけない。
だから、アージスは選んだ。
ウィリアムの提案を。
「わかった。
では、急いで、舞踏会の用意をさせよう。
最悪の場合に備えて、招待客は心構えの出来ている城に使える者たちに限るが・・・・・・これでいいのか?」
「えぇ、上出来ですよ。
僕も・・・・・・僕も、一度は剣を抜かなければいけないでしょうね」
「ああ。
きっと、きっとこの城は・・・・・・」
・・・・・・一夜だけ、真っ赤に染まってしまうのだろうな。
それは、二人の賢王が決めた。
国を繁栄と栄光に導くための、選択。
「あの、ラウル。
あんまり僕も頼りたくないんだけど、ハル殿のような人が僕の知ってる人にいて。
その、あれなんだけど、きっとあの人ならダンス、教えてくれると思うから・・・・・・」
どこかそわそわしているサキの言動から、アンジェは気付いておけば良かったなと、今更ながら後悔した。
ジルの元を後にして、サキとアンジェが向かった先は・・・・・・アンジェの大っ嫌いなあの人の部屋で。
しかも、何故か、二人が来ることを予測していたかのような口ぶりで、もうすでに待っていて。
「やぁ、待ってたよ。
君たち、僕にダンスを教えに貰いに来たんだろう?
そうだね、男性パートなら・・・・・・ロゼッタ、向こうの部屋でサキにダンスを教えてあげなさい」
「はい、ウィリアム様。
サキ殿、では、こちらへどうぞ」
「えあっ、ちょっと、ラウルは・・・・・・」
背中を押されて、隣室へと案内されているサキ。
サキはアンジェの心配をしているようだけれど、アンジェはサキの心配よりも自分の身を心配した。
サキが連れて行かれて、不覚にも一室でウィリアムと二人っきりになってしまったアンジェ。
アンジェが己の身を心配してしまった原因は、ウィリアムが手に持っているものからだった。
「さぁ、姫。
姫はもちろん・・・・・・女性パートを教えに貰いに来たんだよね?」
そう、にこやかに言ったウィリアムが手に持っていたもの。
それは・・・・・・
それは、純白の、どっからどう見たって、誰が見たって、ドレスにしか見えないものでした。