第71話 おっと!
王宮の廊下のとある場所。
音楽はないけれど、そこに流れるのは優雅な雰囲気。
その流れに乗るように、華麗に踊るのは、若い一組の男女。
そのカップルの踊りの、あまりの美しさに、近くで座って見てたサキは、ポーと見入ってしまっている・・・・・・わけがなく、物凄く呆れかえっていた。
「あー、まさかラウルがあんなに踊れないなんて。
ジル殿も・・・・・・ラウルよりはましだけど、やっぱり、ハル殿にレッスン受けさせてもらった方がよかったなぁ」
小さな溜息とともにそう言ったサキの目線の先には、優雅に・・・・・・なんて、到底似合わない、先ほどから口論を続けながら踊っている、アンジェとジルの姿があった。
「おっと!」
「痛ッ!!
ジル、さっきから僕の足、踏みすぎだよ!」
「しょうがないだろ。
お前が踊り方、間違えてるからだろ」
「なっ!!
だって、僕は初心者なんだよ!!
それに・・・・・・それに、何で、僕が女の子のパートを踊らされてるの!!」
そうなのだ。
アンジェは女性のパートを何故か踊らされているのだ。
アンジェはラウルとして、殿方の踊り方を教えてもらいにきたのに、ジルが教えているのは女性の踊り方。
(これじゃあ、嫌いなダンスの授業やってる意味ないよ)
どこかずれたことを思っているアンジェの疑問に、ジルは先ほどから決まってこう返してくる。
「だって、お前、ヒョロヒョロじゃん」と。
つまり、ジルが言いたいことはこうだ。
ジルとアンジェを見比べた時。
どちらが女性役をするかと考えたら、筋肉ムキムキとかそういうのじゃないけど、シャープながらも男の体が出来あがっている自分よりも、十七にしては男として余りにも華奢すぎるラウル(アンジェ)が女性役をするのは必然的なことだということ。
このジルの言い分に対して、ちょっと前にアンジェが「筋肉ぐらいあるよ!!」と腕を巻くって見せたが、「はっ」とジルに鼻で笑い飛ばされてしまった。
「体がヒョロヒョロなことだけじゃなくて、その声変わりしたのか疑わしいくらいの高い声などなど・・・・・・」
そこまで言って、ピシッとアンジェに指を指したジルは、先ほどから何度も言っていることを言い放つ。
「やっぱり、お前以上に女役が似合う奴はいねぇ!!」
それにアンジェは「うっ」となる。
(そりゃ、私は女だけど。
って、ジルの言ってることから、もしかして私、男になりきれてないのかな?)
何か今更なことに初めてやっと気がついたアンジェ。
(よっし!
今度からは、もっとワイルドに、そしてダンディなラウルを目指すぞ!)
そして、ダンスのことから思考が脱線してみたりして。
そんなアンジェにジルは、今度はもっともなことを言った。
「それに、どうせ、ダンスを教える相手は本来、サキだったんだろ?
だったら、俺が女役して、ダンスの『ダ』の字も知らないお前が男役しても意味ねぇーだろ」
それにアンジェは「ううっ」となる。
しかし、ここで言い負けるアンジェではない。
「で、でも、ジルだって、ダンスそんなに上手くないじゃないか。
そりゃ、僕なんかよりは、踊れてるけど・・・・・・今のジルの実力で教える立場にいるのもどうだかねぇ。
ね、サキ?」
サキに同意を求めるアンジェ。
それにサキは「ハハハ」と苦笑する。
サキ自身、本当は「どっちも、どっちだよ」と言いたいところだが、尊敬するラウルと、これでも第二騎士のジルには、とてもじゃないが言えなかった。
サキの苦笑を勝手に同意したと判断したアンジェは、「ほら」という目でジルを見る。
それを見てジルは、今度こそ本当に気分を害したようで、
「なっ、お前らが俺に教えてくれって頼んだんだろ!!」
と、少し怒り口調で言った。
それに対してアンジェは、サキの後ろに回り込み、サキは自分と同意見とばかりにサキの肩を持ち、ジルに向かって言う。
「違うよ。
ジルが勝手に引き受けただけで、僕たちは、本当はハルに教えてもらうつもりだったんだよ!!」
その言葉にジルは本気で怒った様子で
「こっちが親切で教えてやったってのに・・・・・・もういい、お前ら他の奴のところに行っちまえ!」
と乱暴に言い放つと、その場に勢いよく座りこんでしまった。
そんなジルに、アンジェはちょっと言い過ぎたかもと思ったが、こちらも意地になってしまっているため、素直な言葉が出てこなかった。
「わかったよ。
サキ、他の人探しに行こう」
「う、うん・・・・・・ジル殿、あ、あの、一応、ありがとうございました」
サキの小さなお礼を残して、アンジェとサキはその場を去って行ってしまった。
「っちぇ。
せっかく、ラウルに勝てるものが見つかったと思ったのによ・・・・・・」
だれも居なくなり、また静かになった廊下で、ジルは小さく呟いた。
返事のない、ただの独り言。
・・・・・・だと思っていたのだが、アンジェ達が去って行った方とは反対側から、予測していなかった返事が返ってきた。
「ラウルに勝てるものが見つかったって・・・・・・もしかして、ラウル、さっきまでここに居たの?」
「あぁ、居たぜ・・・・・・って、うわっ!?」
返事が返ってきたことに驚いて顔を上げてみると、そこにはマリアの姿があった。
それに先ほどまで下がっていたテンションが少し、上昇する。
しかし、次の言葉に、またテンションが下がった。
「何、驚いてんのよ。
それよりも、私、ラウル探してるんだけど、どっち行ったか教えてくれない?」
ジルはマリアの言葉の中のある単語が気に入らなかったのだ。
「また、ラウルかよ」
そうボソッとマリアに聞こえないように言ったジルが思うに、マリアの口から「ラウル」のことが出ないことはないと思う。
「あっちに行ったぜ」
ふてくされた様に、適当にアンジェの行った方向に指を指すジル。
「ありがとう」
そう言うと、慌てているのか、すぐさまその方向に走り出そうとしているマリア。
そんなマリアの行動に、ちょっとむっとしたジルは、走り出そうとしたマリアの腕の裾を引っ張り、その行動を阻止する。
それに気付いたマリアが、
「ちょっと、私、急いでるんだけど」
と言うが、お構いなしにジルはマリアに話しかけた。
「あのさ、俺、さっきまで、ラウルにダンス教えてたんだぜ」
ジルの言葉を聞いて、マリアはどこか昔を懐かしむように上を向いた。
「あー、あの子、ダンス出来ないからねぇ・・・・・・って、アンタが教えてたの?」
「おう、俺が教えたんだ」
「へへん」とちょっと自慢げに言うジル対して、マリアは少し驚いたように言う。
「へぇー、アンタ、ダンス踊れたんだ」
素直にそう言ったマリアの言葉に、ジルは再びむっとした。
「失礼だな、ダンスぐらい踊れるぞ!!
その証拠に、今晩、一緒に踊ってやるよ」
そう言いながらジルはマリアの手を、紳士が淑女に挨拶するように、しゃがんで取り、マリアを見上げて言う。
ジルの行動に、マリアは一瞬、キョトンとしたが、それがダンスの申し込みだとわかると、ふんわり笑って、
「じゃあ、今晩、楽しみにしてるわ」
と言い、ジルの手から自分の手をスルッと抜くと、アンジェの行った方向に走り去ってしまった。
そんなマリアの姿を、小さく笑ってジルは見ていたのであった。
お久しぶりです、春日まりもです。
「小説家になろう」サイト様、ついにリニューアルしましたねー!!
パチパチパチ~。
それに伴い(どれに?)、春日は、今回から、改行をし始めることにしました!!
・・・・・・本当は、小説書くにあたって、改行するのは当たり前のことなんですがね。
ちょっと、今まで、改行する勇気や自信がなくて・・・・・・。
ですが、今回、久しぶりに長くなったのを見て、「うわっ、改行なしじゃ、読みにくいわ」と思い、改行にチャレンジ。
ただでさえ、文才がなく、読みにくいこの小説ですが、改行により、ちょっとでも「護衛役~」を読んでくださってる皆さまの「読みにくい」を減らせればと思っています。
本当にすみません、読みにくくて(>_<)
今回の改行によって、もっと読みにくくなってたらどうしよう(;_;)/~~~
と、とにかく!!
これからも頑張りますので、どうか、よろしくお願いします!!
以上、春日まりもでございました。