第69話 ふむ
「ふむ」
アンジェは手を顎にあて、考えていた。
アンジェの前にあるのは見慣れたドア。
それはアージスの書斎へと続くドアだった。
いつもなら普通に入るのだが、中からアージスの声に交じってハルとラドアスの声が聞こえてくる。
そして、その部屋の外、アンジェの立っている横でジルが壁にもたれかかって眠っている。
「ふむ」
アージス+ハル+ラドアス−ジル=・・・・・・。
アンジェの中で導き出された公式。
答えは・・・・・・=大事な会議中。
「だって、ジルだけ外で寝てるもんね」
そして、その答えからもうひとつ解ったことがある。
ジルが参加してない会議=アンジェも参加出来ない会議。
ジルが参加したところで意味のない会議。
つまり、中で行われている会議は、政治について無知な自分は参加しても無駄だということだ。
「やっぱ、今、中に入るのやめとこっかな」
ちょっとジルに失礼な判断を下したアンジェは、ジルの熟睡を邪魔しないようにそーとその場を離れた。
そして、次に向かった場所。
「ふむ」
そこでもアンジェは先ほどと同じような格好で立っていた。
今度は王宮の一番広い会場の入り口の前。
いつもならこの時間帯はマリアの休み時間だ。
しかし、今晩の急な舞踏会の用意にみんな休まず慌てて作業をしている。
人があっちへ行ったり、こっちへ行ったりとゴチャゴチャしており、マリアを見つけることも出来ない。
「マリアちゃんも・・・・・・やっぱ、今、会えないよねぇ」
行きかう従者にぶつからないように、アンジェは慎重にその場を離れた。
次に向かった場所。
そこでやっと、アンジェは暇つぶしの相t・・・・・・いやいや、相談相手と出会えた。
「舞踏会の服装?」
「いや、サキは一体、何を着ていくのかな〜と思って」
少し息の上がった声でアンジェの質問を聞き返すサキ。
マリアと会うのを断念したアンジェが次に向かったのは、あの滅多に人の来ない雑木林だった。
そしたら案の定、サキが剣の稽古をしていて、アンジェが来た瞬間、「剣の修行相手になってください」と嬉しそうに勢いよく頭を下げてき、先ほどまで二人で稽古をしていた。
稽古が終ると、アンジェはさっそく聞きたかったことを聞いてみた。
「サキは今日、何着て舞踏会に出るの?」
もちろん、アンジェが女であるとかの大事な部分は伏せて。
「うーん、多分、このままで出ると思うけど・・・・・・」
そう言いながら、サキは自分の着ている服を少しつまむ。
「それで出るの?」
「うん、だってコレ、一応アーリア国での正装だし。
俺、これ以外に服持ってきてないんで・・・・・・」
それを聞いて、アンジェも自分の服を見る。
サキがそう言うなら、今、アンジェが着ている服だって、ハッシュル国での正装だ。
それにアンジェも、今着ている服以外、王宮に来た時の服しかない。
(でも、あれを舞踏会で着るのはちょっと無理があるしなぁ)
「じゃあ、僕もこの服で出ることにしよ!」
っと、ここでアンジェのちっちゃな悩みは解決した・・・・・・のだがっ!!
この後、サキがもうちょい難易度の高い、ちっちゃな問題をアンジェに聞いてきた。
「そういえば、ラウル。
俺、今日、舞踏会に出るの初めてなんだ。
だから、ダンスの踊り方、教えてくださいっ!!」
サキがニコニコしながら言う。
よほど、初めての舞踏会が楽しみなのであろう。
しかし、サキとは対照的に
「えっ」
アンジェの顔は引きつっていた。