第67話 いいだろう
「・・・・・・はい。
これで僕の昔話はお終い。
アージス様、何か質問ありますか?」
そう言って顔を上げたウィリアムの先には、王にしては少しだらしない口を開けて驚き、声を失ってしまっているアージスがいた。
「・・・・・・アージス様?」
にっこりと作り笑いを浮かべながら再度アージスの名を呼んだウィリアムの声に、アージスはハッと意識を取り戻す。
「う、あ〜」
そして、頭を手で抱えながらそのまま椅子の背もたれに体重をかける。
体を反らして、真後ろにあった窓から見えたのは皆一様に輝く星たち。
すこし唸って、伸びるようにそのまま背伸びをし姿勢を元に戻す。
改めてウィリアムを見た。
まだ笑ったままだ。
「ちょっと待て。
聞きたいことが山ほどあるのだが・・・・・・」
「何でも聞いていただいて結構ですよ。
僕は全てをアージス様に伝えるためにここへ来ましたから」
笑顔と苦い顔が顔を見合わせる。
「それじゃあ、まずはウィリアム王子。
あなたの父、ヘンゼル王の死についてだが・・・・・・はっきり言って、その情報は初耳だ。
もしかするとそのことについてまだ、国外には漏らさず隠しているのではないのか?
そんなこと敵国の王になどに教えていいのか?」
「えぇ、かまいません。
だって、それくらいのことを教えないと貴方は信じてくれないでしょ?
それに、この亡命には僕のこれからがかかっているんです」
そう言ってアージスを強く見る目は本気だった。
この亡命にはウィリアムの未来がかかっている。
もし失敗するとその先にあるのは、絶望と死だ。
そんなウィリアムを見てアージスはそっと思う。
(また、ラドアスやハルに怒られるだろうな)
そう思いながらもアージスが決意したのは・・・・・・
「いいだろう。
ウィリアム王子、あなたの亡命を許可しよう」
ウィリアムの亡命を認めることだった。
「・・・・・・えっと、いいんですか?」
亡命を頼んだ本人、ウィリアムが驚く。
そりゃそうだろう。
今まで仮の形で亡命を許可していたとはいえ、大臣達とも相談せず、独断で、しかもこんなにあっさりとウィリアム達の亡命を受け入れてしまったのだ。
「何を驚いているんだ?
頼んできたのはあなたからだろう。
それにここで敵国の第一王子を保護すれば何か良いことがあるかもしれないからな」
にんまり笑うアージス。
そんなウィリアムに少し苦笑しウィリアムが何かを呆れたように溜息をつく。
「いいですけど、僕にはもう人質としての価値なんてないと思いますよ。
まぁ、今の僕の価値と言えば情報ですかね。
次の質問は何ですか、アージス様?」
次。
次の質問。
これはアージスが一番聞きたかったこと。
アージスがウィリアムを呼び出してでも聞きたかった質問。
「さっきの話の中で婚約者の話があったな。
っで、ウィリアム王子。
その婚約者は見つかったのか?」
あえて誰とは言わない。
誰のことなのかお互い知っているから。
「あぁ、真っ赤なあの子のことですか」
ウィリアムがあたかも今思い出したかのような芝居がかった言い方をする。
そしてアージスの質問に答えた。
「見つけましたよ。
アージス様、貴方の隣にね」