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護衛役は女の子っ!  作者: 春日陽一
いつかのための“着火剤”
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第66話 昔の話

「アージス様、お話って、何でしょう?

アーリア国のことですか?

僕のこと、ロゼッタのこと、サキのこと、それとも・・・・・・それとも、真っ赤なあの子のことですか?」


微笑を浮かべながらウィリアムは聞いた。

そんなウィリアムを見据えながらアージスは答える。

「全部だ」と。

「全部ですか。

アージス様は案外、欲張りでいらっしゃる」

「王が欲張りでないと、国は栄えないからな」

少し、笑ってみた。

しかし、それが偽物だということはお互い、よく知っている。

「では、アージス王。

まずは僕、アーリア国の次期、王の昔話でも聞きませんか?」

そうウィリアムが言った瞬間から、この部屋には、二人の王しかいなかった。



「むかーし、むかーし、あるところに、それはそれは美しい金色の・・・・・・」

「ウィリアム王子」

「あっ、これはいりませんか?」

クスクスと静かに笑うウィリアムは一瞬、十九歳らしいまだ幼さが残る顔をした。

しかし、それはほんの一瞬で、今ではスッと目が細められ、口もとだけにその笑みが残っている。

「そう、これは、本当に昔の話。

僕が生まれた時からの話・・・・・・」




今から十九年前。

アーリア国に念願の王子、ウィリアムが生まれた。

彼の容姿は眉目秀麗な王妃によく似て、碧眼、金髪で笑うと天使のようだとよく形容された。

黒い眼、黒髪の王の容姿にはこれぽっちも似なかったが、徐徐に成長していくうちにウィリアムの雰囲気は王と同じ、覇気が感じられた。

とても仲の良い家族だった。

王は正妻、一人だけを愛し、他の妻を娶ることはなかった。

絵に描いたような家族だった。

しかし、その幸せは、ウィリアムが十七歳の時に終わる。

王、第十一代アーリア国国王ヘンゼルの対ハッシュル国戦中の戦死。

その情報がウィリアムに伝わった瞬間、すぐに彼は王に即位しなければいけなくなった。

ヘンゼル王の死に悲しむ兵や国民、何より愛する母、ヘンゼル王の死を聞いてショックのあまりか病に伏せてしまったマーテル王妃を守るためにも、不安はあったがウィリアムは即位することを自ら決意した。

しかし、そのことに「待った」がかかった。

何でも、ウィリアムに一人、王位継承権を持った弟がいたと言うのだ。

普通ならば、その弟に本当にヘンゼル王とマーテル王妃の子供なのかと疑問を抱くはずだが、なんと、その弟だと名乗る男、イザラの後見人としてカナリア国国王が名乗り上げていた。

長年に渡るアーリア国とハッシュル国の戦争の中、中立国を維持しているカナリア国。

そのカナリア国がこんなにアーリア国に介入してくるのは今回で二度目だ、と母がベッドに横たわりながら言った。

ハッシュル国との戦いに、カナリア国との友好関係を強くしておきたいと考えるアーリア国の大臣達は、いつしか次の王にとウィリアムではなく、イザラを後押しするようになった。

ヘンゼル王とマーテル王妃の実子でありながら、身元のわからないイザラよりもどんどん肩身の狭くなるウィリアム。

そんなウィリアムに追い打ちをかけるように、ウィリアムが十九になったばかりのある日、母、マーテルの病が悪化。

そのまま回復することもなく、マーテルは帰らぬ人となった。

ウィリアムが最後にマーテルから聞いたこと。

それは、カナリア国のアーリア国への介入、一度目のことだった。

そのことについてマーテルはウィリアムに二つのことを教えた。

か細く、もうほとんど出ない声で教えた。

一つはカナリア国の前王、今の王の兄の娘、現在行方不明のアンジェリーナ姫が自分の婚約者であったということ。

そして、二つ目はそのアンジェリーナ姫にはもう一人、婚約者がいてその人が、ハッシュル国の第八代国王アージスだということ。

ウィリアムはそのことを母から最後に聞くと、驚く反面、妙に冴えている頭で考えた。

母が言いたかったのは、行方不明であるアンジェリーナ姫を探し出せということである。

なぜなら、探し出して婚約を公に公表さえしてしまえば、今のウィリアムの立場がイザラと逆転出来るかもしれないからである。

どちらにしろ、母が亡くなってしまった今では、ウィリアムはもうこのアーリア国で安全に生きていくことは出来ない。

ならば、この国から出てアンジェリーナ姫を探しながら、どこかに亡命した方がよい。

そう思い立ってからのウィリアムの行動は早かった。

ウィリアム付きっきりのお世話人であり幼馴染、そしてアーリア国の裏の暗殺部隊にも所属しているロゼッタが「どこまでも、ウィリアム様について行きます」と言ってくれたし、ウィリアムにまだ慕ってくれている従者たちが自らの危険も顧みず協力してくれた。

亡命、三日前。

まだ亡命先がはっきりと決まっていないある日、ウィリアムは人気のいない廊下でイザラと赤髪の少年がコソコソと話しているのを発見した。

そして、その内容を耳にし、驚愕した。

イザラは、ウィリアムと同じようにアンジェリーナ姫を探していたのだ。

どういう理由かはわからなかったが、そこでカナリア国の王位継承権を持つ者が赤髪であること、その赤髪の少年が最近、最年少でイザラの近衛隊に入隊したサキであること、そして、アンジェリーナ姫がハッシュル国の王宮のどこかでアージス王に仕えていることを知った。

ウィリアムはその内容が真実かどうかわからなかったが、亡命先を敵国、ハッシュル国にし、怪しまれないためにもお供にロゼッタだけを連れてゆくことにした。

そして、その情報に確信を得るために、少々危険だったがイザラに手紙えを送った。

「僕は少し、ハッシュル国に視察しにいく。

愛する弟、イザラの今後の勉強のため、僕が留守の間、このアーリア国を頼む」と。

皮肉もいっぱい書いて。

すると、出発当日。

思ったとおり、イザラはウィリアムにサキを送り付けてきた。

「彼は優秀な騎士です。

ウィリアム様の御身をこれからずっと、お守りするでしょう」と書かれた文とともに。

それはサキをハッシュル国に一緒に連れてゆけという意味だった。

これで、あの情報が確かだという確信が得られた。


少し肌寒い朝。

人気のない城から、数人の従者に見送られながらウィリアムは、ゆっくりと馬車を進めた。






こんにちは、春日まりもです。

今回の話はウィリアムの過去の話でした。

とっても長くなってしまいました。

すいません。

本当にすいません(>_<)。

まさか、こんなにも長くなるとは・・・・・・って、いつものが短すぎるだけなのかも知れませんね。



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