第64話 うぇ〜ん
「かくかく、しかじか。
こーで、あーで、そーで・・・・・・」
「つまり、アンジェ。
お前が実は女だってことが、ウィリアム王子にバレたのだな」
「はい、ごめんなさい」
「はぁー」とアージスが大きなため息を盛大についたのが聞こえる。
アンジェはただ謝ることしか出来ない。
(うっ、うっ。
やっぱ、アージス、怒ってるよね。
それとも、もしかして呆れてる?
ウィリアム王子の監視はまともに出来てないし、今回のこともある。
しかも、また私、酔ってアージスに迷惑掛けたらしいし・・・・・・)
そこまで、アンジェは考えて、一つの結論に行きついた。
(はっ!
もしかして、私、クビっ!?)
「うそっ!?」
何か考え込んでいると思ったら、急に慌て出したアンジェ。
もう、アンジェの心の中はクビのことでいっぱいだ。
「そんなの嫌っ!!」
「?
どうしたアンジェ、急に・・・・・・って、おいっ!?
お前、何で、泣いているんだ?」
「うぇ〜ん」
部屋中に響き渡るアンジェの鳴き声。
直立不動、何故か気をつけの体勢で子供のように泣くアンジェにアージスはおどおどするばかり。
さすがのアージスも泣き続けるアンジェには手をつけられないようだ。
「おい、アンジェ、とりあえず泣きやめ」
「うぇ〜ん」
一向に泣きやむ気配のないアンジェにアージスが額に手を当てながら、「はぁー」と大きなため息をつく。
「いったい、どうしたら・・・・・・」
困り切ったアージス。
そんな時、アージスにとって救世主と呼べようか、頼もしい人物が部屋を訪ねてきた。
コンコン。
「失礼します、王様。
マリアでございます。
少しよろしいでしょうか?
・・・・・・って、もしかして王様、部屋の中から聞こえてくるこの泣き声、アンジェですか?」
いや、救世主ではないのかもしれない。
ドアを一枚はさんで聞こえてくる鳴き声でアンジェだとわかったのは、さすが長い付き合いからの見事なものだと思う。
しかし、この世の中で、親友が泣いているのを聞いてほっとくような人はいないだろう。
「ちょっと、失礼させてもらいますっ」
案の定、マリアはアージスの許可なしで勢いよく部屋に入って来た。
「なっ!?
アンジェ、あんた何でそんなに泣いてるのっ!?」
「うぇ〜ん。
マ゛リ゛ア゛ちゃ〜ん」
アンジェがマリアに抱きつく。
それを見たマリアはアージスの推測通りの行動をとった。
「マリア嬢、誤解だ・・・・・・」
マリアはアンジェをアージスから庇うように立つと、アージスに対峙していた。
「何が誤解ですか、王様っ!!
こんなにアンジェを泣かしてっ」
「だから違うんだ、マリア嬢。
俺はアンジェを泣かしていない」
「まぁ、嘘を言わないでくださいます!!
余りにもアンジェが部屋に帰ってくるのが遅いと思って、探しに来たらやっぱりっ!!」
「おい、そのやっぱりとは何だ、やっぱりとは」
アンジェの泣き声とマリアの怒声が部屋の中いっぱいに響き渡って、アージスの耳が今にも壊れそうだ。
「もういいです。
アンジェ、いったい何をされたのっ!!」
「うぅ・・・・・・クビって・・・・・・」
「クビっ!?
ちょっと、どういうことですか王様っ。
自分にとって都合が悪くなったらクビってっ!!」
「おいっ、ちょっと待て。
アンジェ、クビって何の話だ!?」
「うぇ〜ん」
それから小一時間。
夕食の時間だと呼びにきたラドアスが来るまで、どこかデジャビュなそれは続いたとさ。