第60話 あわわ
「こらっ、痛っ。
だぁからぁ、お前はそれを届けに行けってっ!!」
(誰だろう?)
そう思って見に行った先には、暴れながら頭を突く鳥と、その鳥に突かれているサキがいた。
「あれ?
確かあの子って、サキだよね?」
いつしか、アージスとアンジェの前でスパイ行為を働いた少年。
ラドアスに連れて行かれた後から姿を見なかった。
(はて、今までどこにいたんだろう?)
軽く、軟禁状態にでもあったのか。
そんなことをアンジェは考えながら茂みに隠れ、様子を窺っていると、次の瞬間、サキの口から思いもよならない人の名前が出てきた。
「ほらっ、行けってっ!!
お前、早く、その文をイザラ王子の元へ!!」
「はいっ!?
イザラ王子って、ちょっ、そこの少年っ!!」
まさかイザラの名前が出てくるとは思っていなかったアンジェは驚いて茂みから思わず出てサキに突っ込みを入れてしまった。
そのことにより、サキがアンジェの存在に気づく。
「なっ、お前っ!!
もしかして、今の聞いてたんじゃっ!!」
サキの大声と急なアンジェの登場により、驚いた鳥はどこかへ勢いよく羽ばたいてゆく。
足に手紙をくくり付けて・・・・・・。
「くそっ。
盗み聞きとは・・・・・・しかも、第一騎士に聞かれたなんて最悪だ」
そう言いながらサキが腰の剣を重そうに引き抜く。
「えっ、もしかして戦うつもり!?」
剣を引き抜いたサキにアンジェは戸惑う。
相手は自分よりも年下である子供。
だが、それと同時にアーリア国の近衛隊員でもある。
どれくらい手加減をしたらいいのか、それともある程度本気で戦わなければいけないのか。
しかも、サキが持っているのは本格的な帯剣で、アンジェが今持っているのは、王宮の中で安全であるということから護身用の短剣である。
(あわわ、どうしよう?)
ここは戦わずに人を呼ぶべきか?
アンジェは考える。
しかし、相手はその結論を待つよりも早くに叫び声とともに斬りかかって来た。
「やぁぁぁぁぁっ!!」