第53話 これでいいんですかっ
「だけど、王様。
本当にその子は、それを望んでいるのかな?」
ウィリアムが何か意味を含んだような言葉で聞いてきた。
それは、アージスはもちろん、アンジェにも聞いているようであった。
広く、明るいお庭。
小鳥は歌い、草木は風に揺れる。
そこを一言で例えるのならば、“平和”だ。
そんな“平和”の中に、一人の少女がいた。
少女は、少女と同じくらい可憐に咲き誇る花たちと戯れていた。
そんな時、急にツイツイと少女のスカートの裾が引っ張られた。
少女が振り替えてみると、そこには、少女の弟がいた。
「ねぇーさま、遊んでぇ」
少女と年が三つ離れている弟は、幼い顔で少女に言う。
「いいよ。
一緒に遊びましょう、サキ」
もちろん少女は、満面の笑みを弟に向けながら許す。
少女は幼い弟が愛しくてたまらない。
だから、一生懸命、お姉ちゃんぶる。
弟は少女が大好きでたまらない。
だから、一生懸命、少女の後について行く。
そんな二人を見ていると微笑ましい。
そんな二人を一言でいうと、“天使”だ。
だから・・・・・・
だから、皆は悲しんだ。
少女も悲しんだ。
悲しんで、悲しんで、“平和”の場所に近づかなくなった。
だって、近づいたら思い出してしまいそうだったから・・・・・・。
行方不明になってしまった、弟のことを。
バタンー
扉が閉まる。
それから、二人は沈黙のまま廊下を歩き、角を曲がったところで、アンジェが口を開いた。
「これでいいんですかっ」
怒りを含んだ口調だ。
「うん、それでいいんだ。
君が自ら言ってくれなかったら、あの王様から君を連れ出すのに手こずっただろうからね」
アンジェよりも、やや前方を歩くウィリアムが言う。
口調は、さっきからこのままだ。
アンジェはあの後、アージスに言った、いや言わされた。
「王様。
僕は今から、ウィリアム王子様の用に行って参ります」
事務的な言葉。
普段、アンジェはそんな感じでアージスとは喋らないから、アージスにとってはいきなりのことでびっくりしたのとで、効果は抜群だっただろう。
アンジェが言ったあと、パッと持っていた肩から手を放し、離れて行った。
「わかった。
出て行け」
そして、アージスはそうアンジェに冷たく言い放ったのだ。
(本当は、そんなこと言いたくなかったのに)
そうアンジェは思いながら、歩く。
もう、ウィリアムの用とやらにとことんついていってやるしかない。
そんな感じに意義込んでいるアンジェとは、対照的にウィリアムは、「あと、噂って本当だったんだね」とニヤニヤと笑っている。
そんな気分が対象的な二人がどんどん歩いていると、ウィリアムは一つの部屋の前で急に止まった。
「あーと、ここ、ここ」
そう言いながらウィリアムがノックをする。
が、部屋の主は留守のようで、何も帰ってこない。
ウィリアムはそれがわかると、バッとアンジェの方に振り向いて、部屋のドアを指さしながら問う。
「さて、姫はここが誰の部屋かわかるかい?」
「はいっ、その前に、姫ってなんですかっ」
ウィリアムの言葉の中に変な単語が入っていたので、アンジェがぶっきらぼうに聞き返す。
「おやおや、質問返しですか。
まぁ、いいでしょう。
それはね、姫が名前を教えてくれないからです」
「名前なら、自己紹介で教えたはずですけど」
アンジェは相変わらず不機嫌。
ウィリアムはそんなアンジェを見ながら、ニコニコと笑う。
「うん、確かに教えてもらったよ。
でもね、それは“ラウル”っていう嘘の名前だから。
僕、まだ、姫の本当の名前知らないから」
そう言われて、アンジェは「うっ」と言葉を詰まらせる。
ここで本名をばらしてしまったら、もっとウィリアムに利用されるもとになってしまうだろう。
「・・・・・・」
黙ってしまったアンジェに、ウィリアムがにこやかに言う。
「おやおや、また黙り込んでしまいましたか。
では、暗黙の了解ということで。
僕の質問に答えられなかった姫に、僕がお教えいたしましょう」
そう言って、ウィリアムがアンジェに、紳士が淑女にするみたいに頭を下げる。
そして、再びドアの方に指をさして、言う。
「ここは、サキの部屋。
では、姫、ここであなたは何をさせられるのでしょう?」
また、あの嫌な笑みだ。
お久しぶりです、春日まりもです。
この度から、アンジェ達の心の中の声を示す時に使うかっこを「」から()へと変更してみました。
そうした方がいいと言われたのと、春日も前々から変えようかと迷っていたので。
さて、話は変わりますけど、一昨日から、春日は何とブログをはじめちゃいましたー。
まだまだ始めたばかり&初心者なので、内容はしょうもないけど、行ってみてもいいよと思われた寛大なお心に余裕のある方、もし、いらっしゃったのなら、見にきてください。よろしくお願いします。「http://blogs.yahoo.co.jp/mkt_marimo」
いつか、私が書いている小説たちの登場人物の紹介やプロフィールなどを書いていきたいとも思っています。
では。