第52話 嫌な笑い方だ
ウィリアムが王の書斎に入って来た。
アンジェが今、一番会いたくないウィリアムが・・・・・・。
「私のことをアージスに言いに来たのか?」
アンジェはそう思い、少し身構え、距離を取り、ウィリアムと向き合うように立つ。
アンジェのその行動に、アージスは何か思ったらしく、アージスは座っていた席から立ち、ズイッとアンジェを庇うようにウィリアムの前に出た。
そして、ウィリアムに挑むように言う。
「すまないが、ウィリアム王子。
ここは俺の書斎だから、いくら王子といえども、俺の許可なしに入ってきてもらっては困るのだが」
しかし、ウィリアムは相変わらずの能天気さで、それをかわす。
「いやー、ごめん、ごめん。
実はさー、その子に用があってさ・・・・・・」
彼とも彼女とも言わず、“その子”と称して、アンジェに指をさす。
「なっ、何のご、ご用でしょうかっ!!」
相手は敵国の王子、自分はただの騎士。
しかも、王の前では、恥をかかせないためにも、アンジェはウィリアムに逆らえない。
「自分に何の用があるのだろうか?」
アンジェはそう思い、少し緊張する。
しかし、アージスがそんな面白くもない展開に、何もせずに黙っとくわけがない。
ビクビクしているアンジェの肩に手を置き、自分の方に寄せる。
そして、きっぱりと言い切る。
「これ(アンジェ)は、俺のものだっ」
「へっ!?」
アンジェはびっくりして、目をまるくしながらアージスの顔を見上げる。
そんなアンジェにアージスは小さな声で「まかせろ」と呟く。
こういう時のアージスは無敵だ。
それをアンジェは十分に知っている。
だけれども、何故か今回だけは不安が残った。
だって、相手は、「ラウルは女だ」という情報を、どこから手に入れてきたのか知らないが知っているからだ。
もちろん、そんな切り札をウィリアムが使わないことはないであろう。
「おやおや、噂って本当みたいだなー」
ウィリアムが笑いながら言う。
「嫌な笑い方だ」
そうアンジェは思った。
「その子は王さまのもの。
そう王様はおっしゃられた。
ですが、その子にも選択する権利がございます」
ウィリアムの口調が変わった。
心なしか雰囲気も変わったようだ。
お調子者から紳士に変わったみたいに。
アンジェとアージスがウィリアムの変わりように若干驚いている。
そんな二人にお構いなく、ウィリアムは言葉を続ける。
何かを企んでいるような、嫌な笑顔のままで。
「王様、貴方はその子を僕からかばっている。
僕の用に、その子をつき合わせないようにしている」
「あぁ、そうだ。
悪いか?」
アージスが上から目線で言う。
だけど、ウィリアムは表情を変えず、そんなアージスに負けないくらいに堂々と言う。
「だけど、王様。
本当にその子は、それを望んでいるのかな?」
そのウィリアムの言葉は、アージスにも、アンジェにも聞いているように思えた。