第51話 えっ、べ、別に
「昨日何かあったのか?」
二人っきりになった王の書斎で、アージスは少し心配そうな顔でアンジェに聞いてきた。
「えっ、べ、別に」
部屋から出てきて、アージスと今日初めて会った時も、朝食の時も、何も聞かれていなかったので、アンジェは油断していた。
本当は、この話題が出てきた瞬間に別の話題に変えようという作戦を秘かに立てていたが、やはり無謀であり、実行出来なかった。
「別にって、絶対、何かあっただろう?
昨日の仕事も途中放棄したらしいしな」
「ほ、本当に、な、何もなかったよ。
仕事のことは・・・・・・あの、えーとー・・・・・・」
ビクビクして、アージスの方に目を合わせないようにしているアンジェ。
アンジェの目はどこか空を見上げ、泳いでいる。
そんなアンジェをジーと見て、絶対何かあったと確信するアージス。
「本当に何もなかったのか?
何もなかったのなら、今日もまた、ウィリアム王子の監視をさせるぞ」
アージスがアンジェに今度は脅し付きで再度、聞く。
それに対して、アンジェは余りにもアージスがしつこいので、少しムキになって答える。
「本当に何もなかったよっ!!
今日こそ、ちゃんと仕事を全うしますっ!!」
そのアンジェの返事が気に食わなかったのか、アージスがキレる。
「なっ、お前、逆切れかっ!!
逆切れなのかっ!!
こっちは心配してやっているというのにっ!!」
「心配してやってるだって!!
アージス、そういうのは上から目線でいうことじゃないんだよっ!!」
「うるさいっ!!
俺は、王だぞっ、この国で一番偉いんだぞっ!!
偉そうにして、何が悪い。
昨日だって、心配だったからわざわざ部屋まで行ってやったのに・・・・・・王を無礼にも門前払いしたそう言うお前は、ナニ様だっ!!」
「うっ」
アージスにそこまで言われて、さすがに悪いと思い、アンジェは押し黙る。
アンジェが押し黙ると、言い過ぎたかとアージスも黙る。
ぜぇーはぁー、ぜぇーはぁー
ちょっと間、部屋に聞こえるのは二人の荒い息の音だけの沈黙が続いていた。
が、それをドアのノック音によって破られる。
コンコン
「誰だ」
少しイラついた声でアージスが言う。
すると訪問者はそれに答えず、アージスの許可なしに勝手に部屋に入って来た。
「どーもー、アージス様。
ウィリアムでーす」
そう言いながら入って来たのは、アンジェの今、もっとも会いたくない人ベスト1位のウィリアムであった。