第32話 も、もしかして私、まずいこと言った?
沈黙が走る。
アージスとウィリアムは互いに見つめ合った(といっても変な意味ではない)ままである。
ウィリアムの女官と思われる女性は黙って立っているだけ。
そんな中、アンジェだけが慌てていた。
「な、何とかしなくちゃっ!!」と。
「あー、アージス様、どうかウィリアム王子を怒らせるようなマネをしてくれませんように」
一方、場所は変わってここはアンジェ達が会談をしている部屋の向かいの部屋。
部屋の中にはさっきからブツブツと何か言い、会談の心配をして部屋のドアの前をウロウロしているラドアスと仕事が一息ついたのか午後のお茶を楽しんでいるマリア、そしてそれに便乗して勝手にお茶を飲んで休憩しているジルとアージスを待ちながらも書類などに目を通し真っ当に仕事をしているハルのいつもの四人がいた。
「ちょっと!!
人のお菓子を盗らないで頂戴よ、ジルっ」
「別にいいじゃないかっ、菓子のちょっとくらい」
最近、マリアとジルはよく二人でお茶をしている。
別にマリアが誘っているわけでも、二人で約束しているわけでもないがチョクチョク抜けるアンジェとアージスを入れたいつものメンバーでは自然とこうなってしまうのだ。
まぁ、人付き合いのよいジルの性格も関係してそうだが。
「ちょっとくらい〜!?
これがっ!?
あんた食べすぎなのよ。
全く、これはラウルにあげる分もあるんだから別に食べてもいいけど加減して頂戴よね」
「あ〜、またラウルかよ。
全く、最近みんな『ラウル、ラウル』ってうるさいなー」
「何あんたラウルにジェラシー燃やしてんのよ。
あんた達、仲良かったんじゃないの?」
「そうだよっ、ラウルとは仲良いんだ。
でも、出会いが出会いだったからなー」
「そう言えば、今ラウルと王様の噂が流れているじゃない、実は女官の間でその噂に新しい噂がくっついて流れてるのよ」
「ハァー、その噂みんな好きだなー。
で、その新たにくっついてきた噂って何?」
「それがさぁ、何か『サラ様にお子が出来なかったのは王様のせいじゃないか』って」
マリアは同年代の友達と噂話をするかのようにジルに言った。
それを聞いた瞬間、ジルのお菓子をつまむ手がピタリと止まった。
しかも、さっきまで部屋の前をウロウロしてたラドアスや書類に目を通していたハルでさえも動きを止めてマリアの方を見た。
察しの良いマリアはすぐにわかった。
そして、恐る恐るジルに聞いてみる。
「も、もしかして私、まずいこと言った?」
それにジルはコクリと静かに黙って頷いたのであった。