第31話 いやいや、あなたは黙っていてはいけないでしょうがっ
「それで奴の秘密か何かを探ればいいんだな」
薄暗く少し湿った部屋の中から声がする。
男が一人、いや、女も一人いる。
「そうだ、何でもよい。
奴がバレてはまずいものを何でもよいから持って来い」
「わかった。
それにしても、奴のどこがそんなにいいんだろうか?」
男が女に聞く。
女は含み笑いをしながらそれに答える。
「さあな、しかし奴は“あれ”のお気に入りだからの。
何じゃ、そこまで知りたいのか?」
「いや、私は別にその事に関して興味はない。
興味があるのは王座だけだ」
それを聞いて女はついに声を上げて笑い始めた。
「フフフフフ、そう言えばお前は王位継承のため忙しいようじゃったのう。
しかも、ついには兄を城から追い出したとか」
それを聞いて男は少し不機嫌になった。
「私が追い出したんじゃない、あいつが自分から出て行ったんだ。
私のためとだと言い残して。
あいつはどうしようもないバカだ」
「フフ、まぁよい。
この計画が終わる頃には我もお前も王だ」
そして、最後に女がそう言いニッと笑った。
さー、今から堅苦しい会談でもはじめようか。
そんな雰囲気に部屋の中が満たされた時だった。
その雰囲気を壊されたのは。
「なー、そんな堅苦しい挨拶はいいから素で俺としゃっべってくれよ、アージス様。
聞いたところによると俺とアージス様って同い年なんだろ。」
これはアーリア国第一王子ウィリアムが言った。
シーン。
辺りが静まり返る。
「な、何て無礼なっ!!」
そんな中、アンジェがハッと我に戻り慌ててウィリアムに言う。
しかし、またもや静寂が戻る。
何故かと言うと慌てたのはアンジェだけだったからだ。
アージスはさっきまでの営業スマイル(?)ではなく真剣な顔つきでウィリアムを見ている。
同じくウィリアムも真剣にアージスを見ている。
そして、またまた同じくこの部屋の中で真っ先にウィリアムを怒らないといけないはずの多分女官であろう女性までもが黙っていた。
「いやいや、あなたは黙っていてはいけないでしょうがっ」
とアンジェは女官(多分)に心の中で突っ込みながら
「これはヤバイ展開なのではないのか」
と内心焦っていた。