第26話 そうだね
アンジェ達はこの後、夕食を何事もなくとるはずだった。
そう、“はずだった”のだ。
ジョセフィーヌがイヤイヤながら了承したのでアンジェはもちろん皆、
「ほっ」
とした。
しかし、それもつかの間この後に思いもよらないことをジョセフィーヌが口にしたのだ。
「フッ、そうですわよねぇ。
王女であるこのジョセフィーヌ様がそのいかにも下民のような男に席を譲るのは当たり前ですよねぇ。」
と悪気の無い顔で。
これには皆驚いた。
特に驚いたのはアージスだ。
まさか妹がこんな事を言うとは思ってもいなかっただろう。
そんなアージスとは対称に言われた当人であるアンジェは少し驚いたものの先ほどまで無視され続けたのもあり他の皆よりはそんなに驚かなかった。
皆が驚いて何も言えないのをいいことにジョセフィーヌはまだ言う。
「その男はよっぽど身分が低いのでしょう?
だってアージスお兄様が“ラウル”と名づけるほどですもの。
ラウルってアージスお兄様が昔飼っていた犬の名前でしょ。」
ここでアンジェは一つ気がついた。
「お披露目の時にクスクスと笑っていたのはこの子か」と。
アンジェがそんな事を思っているとは知らずにジョセフィーヌはまだ言おうとした。
「だいたい、この身・・・・・・」
「だまれ」
その時だった。
何と妹に甘いあのアージスがジョセフィーヌに言ったのだ。
「だまれ、ジョセフィーヌ」
「で、でも、これはお、叔母さ、様がおっし、しゃったことで・・・・・・」
さすがのジョセフィーヌも怯えている。
というかアージスに言われるとは思っていなかっただろう。
「叔母様がおっしゃったことだとしてもそれは俺の第一騎士であるラウル及び、俺への侮辱になる。
食事は部屋へ運ばせるからお前は一度部屋に帰って反省しろ」
これにジョセフィーヌは
「は、はい」
としか言えなかった。
「さ、さ、こちらへ」
ジョセフィーヌはラドアスに連れられて部屋を出る。
バタンー。
扉が閉まる音がする。
「すまない。
妹が無礼なことをして」
「いいよ、別に。
わ、僕、そんなに気にしてないから」
アンジェは思わず“私”と言いそうになったのを寸前のとこで止めた。
「そうか、それはよかった」
「それにしても驚いたな〜。
アージスがあの子を怒るとは」
「妹だからと甘やかすだけではいけない。
しっかり怒るとこは怒らないといけないだろ?」
「そうだね」
アンジェはアージスの妹への愛情がしっかりとわかった。
それと同時に“アージス”という人間がちょっとわかった気がした。