第98話 さー、どうしましょ?
ダンッ
静かになった広い会議室。大きな机を叩くようにして立ち上がり、「はぁー」と深いため息をつく。……頭が痛い。
「アージス……」
「アージス。お前、大丈夫か?」
自分が立ち上がるまで黙って後ろで待っていた二人、みなが帰ったあとの部屋にハルとジルの心配そうな声が響く。
「あぁ、大丈夫……と言いたいところだが。まずいな…………」
非常にまずい。
先ほどの会議での流れ、アンジェ奪還の方向に話しは進まず、むしろサラとの結婚の話を蒸し返される結果となってしまった。
それもこれも、
「叔母様め……」
苦々しく低く呟いた。その呟きはもちろん、近くにいる二人にも聞こえている。
「にしても、今日のルドゥカ様、いつにも増して強かったなぁー」
「たしかに。今、来られて欲しくなかったね」
ジルの呟きに、ハルが「失礼だけれども」と続く。
まったく、二人の言う通りだ。
アンジェがさらわれた直後に、叔母はやってきた。しかも、昔から必要以上に俺を構ってきた叔母が、いきなりサラとの婚姻の話を早急に進めようとしている。
(何か、引っかかる……)
いつもの叔母からは考えもつかない要求である。しかも、今、この時に。
まぁ、あの叔母が何の企み無しに行動することは有り得ないことであるから……
「きっと裏があるな」
アージスはそう断言し、彼女が多くの大臣を引き連れ出て行ったドアを、まっすぐと見据えた。
※※※※※※
ゴツゴツと岩がむき出しに詰まれた灰色の壁。夕刻時、狭く暗い部屋に茜色の光を細々と届けるのは、鉄格子がはめられた小さな窓。部屋の中にあるのは、粗末なベッドとボロボロの毛布が一枚だけ。鏡も水道も、トイレすらもそこには無かった。――――――その牢屋には。
「うーん、寝る場所はあるけど、生活は出来そうにないねぇ」
(さー、どうしましょ?)
アンジェはベッドに腰をかけ、一人腕組みをし、考えるポーズをとる。特に何も解決策など思いつかないが。
黒いマントを覆った人たちに連れられるがまま、アンジェはこの牢屋まで運ばれてきた。一緒に連れられたおじいさんは途中で別の場所へと連れて行かれてしまった。
運ばれた後、手錠と猿轡は外してもらえたが、現在進行中で足かせはついたままで、自由に身動きは出来ない。外して牢屋へとアンジェを放り込んだ後、黒い奴らはさっさとどこかへ行ってしまった。
この牢屋に着いてから、あれこれ3時間ぐらいが経過したと思う。が、進展は無い。
「しかも、お腹が空いてきたよ。まぁ、朝から何も食べてないから仕方ないけど」
こんな状況下でも腹は空くらしい。グ~と情け無い音が今にも響きそうである。だが、ここに食べれそうなものなんて何一つない。
(いきなり、まいったもんだ)
お腹を押さえるようにさすりながら、牢屋の入り口付近を見つめる。相変わらず、人の気配なんて……
コツ コツ
コツ ッ
無い。 と言いかけた瞬間、突然、足音が聞こえてきた。こちらに近づいてくる。
「……」
アンジェは戸口を凝視する。
コツ 。
足音が止んだ。牢屋の前で。
ガチャ ガチャ
ガチャリ
キィーと滑りの悪い音が聞こえてくると、戸口の錆びた鉄格子が開いていく。その際、見えたのは格子を押す細い腕。
(女の人?)
足音は一つだった。彼女(仮定)一人だけが来たと言うのか? 仮にもこの国で“悪魔”と呼ばれている私のもとに?
――――すごく怪しい。
牢屋の戸口は少し小さく、標準的な身長のアンジェが屈んで入るような大きさである。腕の次に見えたのは足。白い靴下と指先方面が丸くなった靴を履いている。
アンジェが一つ、一つを確認し、軽く身構えている中。訪れた人は入るのに若干手間取りながら、ついに全貌を露にした。
見て、アンジェは目を丸くする。
「君は……!」
「はじめまして、アンジェリーナ姫様。
ちょっと学校が長引いたもんで、遅くなっちゃいましたぁ。お腹空いたでしょう? ご飯持ってきたから、いっぱい食べてくださいねー。あっ、もちろん、毒見はしてますよー。まぁ、素人の私の舌がOKって言ってたから、いけるでしょう」
鼻の上のそばかすが可愛らしい。
どこからどう見ても学生な、女の子だった。
…………二年ぶりの更新になります。
お久しぶりです、春日まりもです。
ここまでお読み&お待ち頂き、本当にありがとうございます!! 申し訳なさでいっぱいだ(汗)
この第98話は、トータルで考えての100話目になりますね。そして、もうすぐ連載開始から5年が経つ……私が言うのもあれですが、長い(笑)
読み返してみても、始めの方はもう何だか無茶苦茶で、ほんとーに無茶苦茶で。。こんなものを読んでもらってただなんて!
……読者様たちはなんて心の寛大な人達ばかりなんだろう!! と感謝でいっぱいです。
おかげで物語もクライマックスへ向かっております!
長くなりましたが。
今後もどうぞ、この「護衛役~」をよろしくお願いします。
(最後までお読み頂き、ありがとうございました。)