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鮮血の夜叉姫(旧)  作者: 玖月セイル
第二部<朝>ホオズキ
91/148

第四章:白を染める紅 13/16

(前回のあらすじ)

「会合の場で、猿鬼の話題を出すのはやめなさい」

あやめにそう注意された宰は、猿鬼を取り巻く複雑な背景を知る。その話をもう少し詳しく聞きたいと思う宰だったが、池田たちは話しにくい様子だ。あやめはそんな時、宰に霊術の話を振ってくる。

鬼になりかけるほどの強い恨みを持つことで、鬼人になること。その人たちの影響を受けて、鬼人になること。そして、霊域の影響を受けて鬼人として生まれること。鬼人の発生の仕方には三つのパターンがあり、桜瀧村おうりゅうむらの最年少であるという真咲は、最期のパターンで生まれた珍しい鬼人であることを宰は知った。そこで、宰は思う。


「……あれ。そういえば僕、どうして鬼人なんだろう?」

「あなたは生と死の境界が曖昧あいまいだから、鬼人になった理由はわからないわ。けれど、当主様があなたに真咲をつけたとなると、恐らくあなたは真咲と同じタイプの鬼人なのでしょうね。東京に霊力はないけれど、大都会の怨念があるわ。鬼人が生まれることもあるのかもしれない」

「そもそも、大都会の怨念って……」

「それは、当主様がちゃんと話されていたでしょう? 大都会の怨念は、桜瀧村おうりゅうむらのような場所にも集めることのできない怨念のことよ。だけど、怨霊を化生けしょうさせたことはまだないから、それ以上のことはなにもわからないわね。放っておくことのできないものには違いないけれど」


 そういえば、確かに源次郎に話してもらった気がする。霊力のない東京に大量に溜まっているという怨念。ヌエ事件の夜、桜瀧通おうりゅうどおりであやめに助けてもらった時のことだとふと思い出す。


「そっかぁ。じゃあ、僕の生と死の境界が曖昧あいまいなのもそういう関係なのかな?」

「わかるわけないでしょう」


 あやめの返事は身もふたもなかった。


「今思ったんだけど、生と死の境界ってあやめにも見えてるの?」

「科捩よ。殴るわよ」

「はいすみませんごめんなさい! ……えと。しな、ねじ、にも見える、の?」

「ええ、見えるわ。生まれながらの鬼人か、そうでないかも見分けられる」

「それって、かなりすごいことなんじゃない? じゃあ、僕って今どんな感じに見えて――」

「人の話を聞いていたのかしら? あなたの生と死の境界は見えないのよ」

「はいすみませんごめんなさい!」


 若干怖い目つきになっていたあやめが元の無表情に戻り、ふうとため息をつく。


「とにかく、話はこれだけよ。猿鬼のことは考えないようにしておきなさい。いいわね」

「わかった。ありがと、あやめ。教えてくれて――」

「科捩よ。本当に殴られたいようね」

「はいすみませんごめんなさい!」

「……ところで、真咲。大広間のほうはもう全部片づいたのかしら?」


 あやめが思い出したように振り返る。その真咲は、未だに池田を「処刑中」のようだった。


「んあっ。池田がこのたたみを持ってって、それで全部終わりだなっ」

「やめてぇ、真咲! 落ちる落ちる! ホントにお盆が落ちる!」


 両手にたたみを持ったままお盆を頭に乗せ、真咲の魔の手をかわしていた池田。だが、さすがに限界だったようだ。ついにお盆を落としてしまうが、あやめが危ないところでキャッチした。


「真咲、京香さんのお盆なのよ。傷をつけたらどうするの」

「あっ。それもそうだな」


 え、俺のことは? とゼエゼエ息を切る池田の呟きはスルーされる。


「ひとまずこれは私が持っていくわ。真咲も、やることを終えたなら退治に出なさい」

「あい承知」

「――って、まさか堕ちモノ退治!? これから!?」


 今日は定期会合があったのにっ、と思わず大きな声を出してしまった宰に、真咲が頷く。


「私は東の長だからな。リーダーが出てなきゃ、締まらんだろ?」

「俺もこの後出るよ。今日は堕ちモノの数が多いみたいだからね」

「……そう、なんですか。大変ですね……」

「それが俺たちの役目だからね。まっ、休むときはちゃんと休んでるし、大丈夫だよ」


 普通のことだと笑う池田に、宰は何もいえなくなる。自分でもよくわからない複雑な気分になり、視線がひとりでにあやめを向く。きびすを返そうとしていたあやめが、気づいて宰を見る。


「私も出るわ。池田のいうように、今日は堕ちモノの様子が少しおかしいみたいだから」

「……そっか……」


 その言葉が重りだったように、宰の視線は足元に落ちる。口の中には苦いものが広がった。


「……怪我だけはしないでね」

「あなたに心配されることじゃないわ」


 あやめはそれだけを言うと、今度こそきびすを返した。ふわりと花の香りが鼻腔びこうをかすめる。


 真咲や池田は「またな」と手を振ると、先を行くあやめの後ろを追いかけていった。宰は無言で彼らを見送る。三人の姿が廊下の闇の中に紛れても、宰の立ち尽くす場所にはあやめの残りが感じられる。いい匂いなのに、苦しい思いが膨張してきて、宰は重くうつむいてしまった。


(また……、あの時みたいになったりしないよね……)


 ヌエ事件の前夜、宰を庇ったあやめはヌエに胸を刺し貫かれた。血のにおいと動かない体、羽のような軽さと氷のような冷たさ。あの時感じた恐怖を思い出すたびに、宰の胸は苦しくなる。


 本当は、今すぐにでも戦うのはやめてほしいと思っている。けれど、あやめに宰の思いは届かない。真咲の苦しみや池田たちの思いすらも、あやめには何一つ届いてはいないのだから。


 ならば、宰が強くなるしかなかった。あやめよりも、ずっと。


 もう、傷つけさせないと決めたのだ。


 あやめを守るためには、それ以上の方法はないのである――。


「お? ンなところでなにしてんだぁ、宰」


 ふいに、あやめたちが消えた廊下の奥から源次郎が歩いてきた。暗闇の中なのでよく見えなかったが、機嫌よさそうに笑っているらしい。宰のデザートを半分食べられたからだろうか。


 ――源次郎は、猿鬼を認めさせるために宰を騙してきた。


 そのことを思い出して一瞬身構えてしまった宰だったが、すぐに笑顔を作ってみせた。今はこのことを悟られたくない。何も考えてはいけないと自分に言い聞かせて、彼に声をかけた。

※10/24/土……前書きを一部削除しました。


ふぁああああああああ(ry


次の投稿は、4/10(金)の22:00すぎになります。

今日も読んでくださり、ありがとうございます。

次回もよろしくお願いします!!


追記)諸事情で、4/10(金)の投稿は、4/12(日)の12:00すぎにさせていただきます。急で申し訳ありませんm(_ _)m

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