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鮮血の夜叉姫(旧)  作者: 玖月セイル
第二部<朝>ホオズキ
89/148

第四章:白を染める紅 11/16

短いです。あと、一回汚い言葉が出ます(真咲のせい)。


(前回のあらすじ)

「イソガミ・コトコを殺したことッ、儂は絶対に許しはせんッ!!」

五色が暴行を加えた猿鬼に叫んだのは、あまりにも衝撃的な事実だった。宰は内心の衝撃を隠したまま、デザートを運ぶために、京香とともに台所へ向かう。宰はそこで、猿鬼に何かされたらしい京香にあることを聞いてみたのだが……。

「私……三年前に死んでいるんです」

自分が鬼まがいであり、動く死体である。京香にそう告げられた宰は、強いショックを受けてしまい、何もいうことができなかった。

 台所の無音、足元の冷たい温度。時間が消えてしまったような空気で満たされている。


 しかしやがて、時が流れ出したようだ。廊下の奥から聞き慣れた足音が近づいてきた。


「おーい、京香ぁ。デザートはまだできてないのか――うおおおおおお!?」


 絶望の悲鳴を上げた源次郎が、宰の足元にはかなく散ったクリームソルベに飛びついてきた。


「おっ、俺のデザートがぁああああっ!」

「デザート、ここに散る! ……でも、たったの一個じゃないですか。五色様も帰られましたし、久遠もいませんよ。誰かのが欠けるどころか、一個余ります。ですよねー、京香さん?」


 真咲の丁寧なんだか、いつもどおりなんだかわからないセリフに、京香がハッと我に返る。


「は、はい。まだもう一つありますから大丈夫ですよ、源さん」

「これだって俺のデザートになるはずだったんだぞぉおおおおっ!」

「んじゃ、篠原からゆずってもらったらどうです? 舌がウンコなんで、京香さんのデザートを食わせるのは果てしなくもったいないと思います。なあ、篠原。おまえもそれでいいだろ?」


 真咲が背中から声をかけてくる。宰はゆっくり振り向き、満面の笑み(・・・・・)でこう返した。


「冗談じゃないです。自分のデザートがあるんだし、人のまで取らないでくださいよ」

「うーむ、ダメかぁ。でも、私のはあげたくないしなぁ……。じゃあ、池田だ!」

「――ストップ! 俺のいないときに不吉な話はしないでくれっ。心臓止まるでしょ」


 池田が青い顔で台所に飛びこんでくる。真咲が忌々しそうに舌打ちしていた。


「で、京香さん。食後のデザートを取りに来ました。この様子ならもう大丈夫そうですね」

「はい。今、冷凍庫から出したばかりなんです」


 京香は池田にそういった。


「わー、今日もおいしそう。それにしても篠原、もう来てたんだ。早いな」

「はい。イチゴのいい匂いがしたのでもしかしたら、と」

「へえー。本当に鼻がくんだなぁ。便利だね、それ」

きすぎて、さっきまで倒れてましたけどね」


 言葉がひとりでに口から出てくる。そんな宰の足元で、源次郎がまたしても奇声を上げる。


「今日はデザートの葬式だぁああっ!」

「なに、アホなこといってるのさ。ほら、さっさと立って。不審者みたいだよ」

「俺のデザートがぁああっ! うわぁああああーーっ!」

「そこまで泣かなくてもいいじゃん。うるさいなぁ」


 真咲と池田はお盆に全てのデザートを乗せると、手に、頭に、それらを器用に持つ。宰はオイオイと嘆く源次郎の背中を押すだけでよかった。二人が立ち往生おうじょうしないようにと歩き出す。


「自慢の一品ですから、皆さんで楽しく召し上がってくださいね」

『承知です、京香さぁん!』


 自分たちを送り出す京香のセリフに、真咲と池田が心からワクワクしたように返事する。宰も「はい」とだけ返事して、だが京香を振り返ることはせず、源次郎の背中を押していった。


 自分で落とした皿の後片づけも、今の宰にはできなかった。


 ……右足が、冷たい。


「どうする? ここは一つ、南雲を生贄にして」「これは心に傷を負うレベルだよ」と語り合っている真咲と池田。そんな二人に時々ちょっかいをかけられながら、何とか大広間まで源次郎を連れていく。大袈裟おおげさに嘆き続ける源次郎を二人に任せ、宰は足を洗うために浴室に向かう。


 暗い廊下を歩いてその突き当たりを曲がっても、真咲たちの笑い合う声が聞こえてきた。


 宰は廊下の突き当たりの近くにあった浴室に入り、引き戸を閉める。けれど、その照明をつけることもできない。ひたひたと大鏡の前まで歩いていき、そこに映る自分の顔を見つめる。


(……なんだこれ。僕、こんな気持ち悪い顔してたんだな……)


 宰は今も笑っている。だがそれは、ツギハギだらけの人形が口の端を吊り上げたような、どこか忌まわしい笑顔であった。暗い部屋の中で見ているからせいか、かすかな吐き気がこみ上げてくる。そんな笑顔を見せている宰には、誰一人気づかなかったのだなとぼんやり思った。


 ……自分は何にショックを受けているのだろう。急に何もわからなくなる。


 宰はシャワーの冷たい水で足を洗い流すと、その後は考えることを放棄した。

いつもどおりの源次郎(笑)


読んでくださり、ありがとうございます。

次の投稿は、4/6(月)の22:00すぎになります。

よろしくお願いします!!

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