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鮮血の夜叉姫(旧)  作者: 玖月セイル
第二部<朝>ホオズキ
62/148

第二章:一年生歓迎会 2/8

あらすじ)倭のせいで、ゲームの生贄に選ばれてしまった宰。

※汚いワードが1回出てきます。すみません(大汗)

『三年生は……F組二十三番と、J組四番。フッ、期待どおりじゃないか』


 真咲によって七人の生贄が選ばれる。舞台に立つ宰たちは、武士の一年女子以外、みんなして青白い顔になっている。山田と最初に選ばれた一年男子は、哀れになるくらい震えている。


『さあ、生贄の諸君。運命の時間だ』


 真咲が生徒会役員に合図を送り、彼らに毒物ジュースを配らせる。そのジュースを受け取った宰はそっと紙コップの中を覗いて、汚い茶色と異様な臭気に思いきり顔をしかめてしまう。


 ……果たしてこれは、人類が口にしてもいい飲み物なのだろうか?


 周りの反応を見てみれば、みんなしてものすごく嫌そうな顔をしている。絶望的なことに、武士の一年女子ですら綺麗な顔を険しくさせている。彼らのジュースもまた、宰と同じようにおぞましいことになっているのだろうか。白い紙コップの中に邪悪なヘドロが渦巻いている。


 ……とても臭い。飲んでも死なないだろうか。宰は泣きたくなってきた。


『そうそう、一つだけ言っておくぞ。本物の毒を入れたわけではないから、毒物に当たったところで死にはせんし、失神したりもせん。まー、劇辛に地面を転がるかもしれんが、舌が三時間イカれるレベルだ。被験者が三回も試してくれたのでな。安心して飲んでくれていいぞ!』


 むごいことを嬉しそうに言う真咲に、宰は完全に理解する。――真咲には確かにカリスマがある。だがそれは、ロクでもないカリスマだと。萌えノベル好きのわがまま変態じじいと同じ、人を引っ張る力を持ちながら、人をこの上なく残念な気持ちにさせるカリスマがあると――。


 遠くでは、倭が妖怪のように笑っている。涙目の宰は、倭に恨みの念を送りまくった。


『さあ! 無駄な抵抗はよせ! ついにこの時が訪れた!』


 真咲が芝居のかかった声で叫ぶ。


『コップを掲げて自分の運命を呪うがいい! では生贄たちよっ、飲めぃぃぃっ!』


 その掛け声を皮切りに、校庭にいる人々が一斉に湧き上がった。あちこちで口笛が吹かれ、やんやと盛り上がる声が怒涛の勢いで押し寄せてくる。倭までその波の仲間入りをしている。


(ああ、もう! 後で覚えてろ、倭ぉーーっ!)


 宰は、ヤケクソになってジュースをあおった。三時間くらい何だっ、という勢いでのどを鳴らした――のだが、鼻が痛くなる臭気しゅうきまで流れこんできて思わずむせかける。しかし、である。


(……あれ? なんだ、僕のは毒物ジュースじゃなかったんだ)


 色と臭いが凄まじかったのでビクビクしてしまったが、口の中に広がったのは意外とまろやかな味だった。たとえて言うなら、甘酒にチョコレートを投下したようなものだろうか。それが果たしておいしいのかはわからないが、プリンとしょう油でウニの味、というように奇跡的に調和し合えたような不思議な味わいをしている。とにかく、このジュースはおいしかった。


(真咲先輩も、こんなおいしいジュースを邪気のかたまりみたいにしなくてもなぁ……)


 初めての味だが結構いける。どこで売っているんだろう。後で真咲に聞こうと思いながらもう一口飲む。しかしそれも、周りの人の凄まじいリアクションのせいで噴き出してしまった。


 ある者は、のどを押さえながらウゲェェッ、と天を仰いでひっくり返った。ある者は、無間地獄に放りこまれたようなおどろおどろしい奇声を上げてもがき苦しみ始めた。またある者は水をくれェェッ、と絶叫しながら近くの一年男子に体当たりし、二人一緒に舞台から落ちた。武士の少女も死にそうな顔だ。山田は真面目に吐きそうな顔をして、その場に座りこんでいた。


「へえっ!? ちょっ、なにがっ!?」

「篠原、なにしてんだよ。リアクションしろ、リアクション」

「リア……あ、そっかっ」


 これは毒物ジュースに当たった人を当てるゲームだ。マイクを外してコソッと言ってきた真咲のセリフでそのことを思い出し、宰は自分の演技力を限界まで振り絞るべくのどを押さえる。


「まっ、まずいーっ」

「おまえ、下手くそにも程があるだろ。なんだよ、それ。思わず殴りたくなるぞ」


 真咲が呆れたように顔をしかめた。舞台より身を乗り出し、下にいる人々に合図を送る。すぐに駆けつけてきた生徒会役員が、重症だと思われる人々に水を配っていく。演技など無理だと開き直った宰は最後にその水を受け取ったが、あまりおいしくなかったのですぐに返した。


『実を言うと、我々にも誰が飲んだのかわからんのだ。ということで、我々生徒会も回答権を持つぞ。ふっふっふー、者どもよ。無論だが、当てられたらもらえるぞぉ。例の〈アレ〉を』


 真咲のセリフに古都子が特に喜んでいる。一体、何をもらえると言うのだろう。


『左端の一年女子から、一、二、三、四、五、六、七の番号で回答せよっ。篠原~、聞いてたか~。大根役者のおまえは七番だぞ~。というわけでっ、レッツ・シンキングタァーイム!』


 宰一人がジュースをちびちびと飲んでいる間はシンキングタイムとなった。すぐ回答したクラスもそれなりにいたが、多くはじっくりと検討していた。宰のクラスもその一つだ。クラス委員の津嶋を中心にして、みんなで意見を交わし合っている。何度か頷いた後、渡されたボードに名前を書いていき、それをかかげる。みんなが選んだのは、山田のようだ。水を飲んだ後も本当に気持ち悪そうな顔をしているのは山田だけだったので、そこに目をつけたようである。


 ちなみに、倭は水が配られる前から目を合わせてくれなかった。宰に毒物ジュースが当たらなかったことに腹を立てているようなのだ。そんなふうに腹を立てられても困るのだが……。


『生徒会男子っ。先生方と生徒会女子の回答は集めたか? ……集計も済んだのか。よしっ』


 山田と武士の一年女子、二人に回答が集中した。激しいリアクションをしていた四人の生徒(一人巻きこまれ)もそれなりに回答を稼いでいる。宰は一クラスどころか、たった一人、凜だけだった。リアクションに失敗したのだから当然ではあるが、野外テントの下で笑いかけてくる凜にはとても申し訳ない気持ちになる。優しい凜は、宰の顔を立ててくれたようだった。


『よーし。これで準備万端だなっ』


 舞台の下に降りていた真咲が、大きなハリセンを持って颯爽さっそうと戻ってきた。未だに演技中の倒れている生贄四人も含めて宰たち七人をザッと眺め回すと、ニヤリと口の端を吊り上げた。


『では、聞こう。我が毒物ジュースをじっくりと味わったのは誰だ! 手を挙げろ!』


 さあ、誰だろう? 校庭中の人々が再び騒ぎ出した中、宰はキョロキョロと顔を動かした。


 ……だが、誰も手を挙げようとはしない。


 生徒会役員に回収され、舞台の上に寝転がっていた生贄四人が不思議そうに顔を上げる。彼らではないのか、互いに首を振っている。そのせいなのか、校庭から人の声が消えていった。


『うん? おまえじゃないのか、六番の二年生』


 真咲が回答したのは山田のようだ。しかし、座りこむ山田は白い顔をしたまま首を振った。


「俺……炭酸が抜けたジュースってダメなんです……。力が、抜ける……」


 紛らわしい顔すんじゃねぇーっ、と津嶋ら男子を中心に、山田を選んだ人々からブーイングが上がった。山田はしょうがないだろー、と真咲に向けられたマイクで弱々しく語るが、彼のしたことはゲームとしては正しいのだ。宰はどんまい、と山田のがんばりをたたえてあげた。


『うーん。六番の二年生、その紙コップをよこせ』


 真咲はマイクを持つ手で山田の紙コップを受け取ると、底を見るように軽く持ち上げた。


「真咲先輩、なにしてるんですか?」

『ああ。毒物の入った紙コップには鉛筆で底に印をつけているんだ。へのへのもへじ、ってうすーくな。……ふむ。本当に違うみたいだな。しおれ方が似ていたから彼だと思ったのだが』


 山田の紙コップを本人に返して、ついでに宰のものも抜き取った。随分飲んだなー、と呟きながら、真咲はその紙コップをおもむろに掲げて――瞬間、ハリセンで宰の頭を叩いてきた。


「へっ!?」

『へっ、じゃないだろ。おまえだぞ、毒物ジュース飲んだの』

「へえっ!? そんなバカなっ」

『そんなバカなもバナナもあるか。おいしかったのか、これ』


 真咲の目いっぱい不審そうな問いかけに、宰は何度も頷く。


「おお、おいしかったですよっ。甘酒とチョコレートみたいな感じで、まろやかというかっ」

『そんなバナナ』


 真咲がすぐさま、山田に飲むよう紙コップを押しつける。山田は真咲の勢いに押されて、思わずとばかりに少ししか残っていないジュースを飲み――刹那、白目をいて後ろに倒れた。


「ウソっ! 山田ぁっ!?」

『ほーら、やっぱりおまえじゃないか』


 真咲に「ほれ、見ろ」とばかりに言われるが、宰には到底信じられない。


『篠原。おまえまさか、味覚が破壊されているのか?』

「そんなことありませんよ! おいしいものは普通においしいって感じます!」

『こんなウンコみたいなのをおいしいと言うのか?』

「別にそんなんじゃありませんけどっ。でもこれ、普通においしかったです!」

『……摩訶不思議だ。ちょっとした余興よきょうのつもりが、まさかの超常現象とはな』

「てめえっ! なんでうまそうに飲んでやがんだよっ、ヴィッキーのくせにぃいいいいっ!」


 倭が他の人々のブーイングをかき消すようにどでかい抗議の声を上げた。だが、そんなのは宰の知ったことではない。おいしいものはおいしいのだ。第一、ここにいるべきだったのは宰ではなく倭だ。なぜ文句を言われなければならないのだと、宰は倭の存在を無視してやった。


『というわけだ。思いがけないオカルトに見舞われてしまったが、毒物ジュースを飲んだのは七番の篠原宰だ。よって、七番と答えた司会の沖田、一人だけがこのゲームの正解者となる』


 真咲の素早い切り替えについていった女子や先生方が拍手する。凜ははにかみながら席を立つと、彼らにつつましくお辞儀する。その時、凜と目が合った。口パクで「あ・た・り」と言われて、宰はそういうことかと頭をかいた。凜は宰の顔を立てたのではなく、毒物ジュースに当たった人を見抜いただけだったのだ。水がおいしくなかった――はっきり言わせてもらうと、下水のようにまずかった理由にもふと思い当たって、宰は「参りました」と口パクで返した。


『では沖田には、我々生徒会から斉藤先生の手作りケーキをプレゼントしよう』


 だが、宰の穏やかな気持ちは、真咲のありえない爆弾発言によって粉々にぶっ飛ばされた。


 男子生徒や男性教師らは、この世の終わりを告げられたように顔を押さえて絶叫する。女性陣はとても残念そうなため息だ。当然、古都子もしょんぼりと肩を落とす。校長だけはわからない。野外テントの下で扇子をあおぎながら、「ほっほっほっ」といつものように笑っていた。


「おいしいケーキを焼いてきてあげるわんっ。楽しみに待っててねっ、うふふふっ」


 舞台の前にぴょんっと飛び出てきたニューハーフティーチャーに、凜がマイクで「はい」と返す。どうやら本当に楽しみにしているらしい。遠くから見ても頬が緩んでいるのがわかる。


 というか、とてつもなく気になったのだが、ニューハーフティーチャーは大勢の人が正解した場合、一体どうするつもりだったのだろう。まさか、何百ものケーキを焼くつもりでいたのだろうか。存在自体がぶっ飛んでいる人なので、本当にやりかねないと宰は思わず青ざめる。


 それ以前に、プレゼントが「ニューハーフティーチャーの手作りケーキ」なんて不意打ちすぎだ。凜が嬉しそうだから、と無視していい問題ではない。もしクラスで正解した場合、男子たちは心に大きなトラウマを抱えることになったかもしれないのだ。……そうか、回答を集めていた時点で気づくべきだった。そういえば、生徒会男子は誰も回答に参加していなかった。


「ウ、うウぅ……ウうぅ……」


 息を吹き返した山田が、宰の足元でうめいている。地面をうオバケのようなことになっていてとても気持ち悪い。そして、宰もまた、今頃になって毒物ジュースの悪影響が出てきたのだろうか。急に気持ちがげんなりとしてきて、力が抜けたようにその場に座りこんでしまった。


 ……あれは本当に、舌がおかしくなるだけのジュースだったのだろうか。


 ……体の中に入ったヘドロが生き物のようにうごめいている気がするのだが。


 倭には生贄の役目を押しつけられるし、真咲のカリスマ性は崩壊するし、ジュースは毒物だし……。災難ばかりである。人々が景気よく盛り上がる中、宰はすっかりしおれてしまった。

バカ話はもうちょっと続く。今のうちに楽しんでおかないと。

そういえば、大仏の頭のブツブツは螺髪らほつと言うそうです。

……特に役に立ちませんね(爆) 忘れてください。


次の投稿は、2/18(水)の22:00すぎになります。

レポートが終わらないピンチに見舞われておりまして(死)

おまけに、マイパソコンの動きがすごく怪しいのです……。


ランキング(大爆)

半月で数字がリセットされるんですか!?

くああっ、投稿がんばらなくてはなぁ……。


今日も読んでくださり、ありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

※次回は初っ端から汚いワード・話が出てきます。すみません、ホントに(汗)

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