不透明な透明
勢いよく飛び出して、玄関、校門、通り抜けて右へ。駅構内、走る、走る。信号、赤、迂回。人に揉まれながら直進、突き当たってUターン。
どこでもいい、どこか遠くに行きたかった。
息も荒く、たどり着いたのは結局小さな公園だった。もつれる足で定番のブランコへと歩く。
しかし、どうやら高校生にもなった身には小さすぎたらしく、座ることは叶わなかった。この世の中は傷心の若者にお誂え向きの場所を提供してくれるほど、優しくないらしい。
仕方なくベンチに座る。
夕暮れ時の、寂しげな空と言いたいところだが、カラスが情緒もクソも無いくらい飛んでいて台無しだ。
周りには家路を辿る子供たち、買い物帰りの親子連れ。ますます自分が場違いに思えてくる。
なんてことはない失敗だった。よく知る友達ならひたすら悪態をついただけだろう、自分の親なら毅然とした態度であれただろう。
そう、命に関わる事でもなし、若い内ならあってもおかしくない失敗だ。
それに耐えられない自分がよっぽど弱かっただけだ。
泣くのはお門違いだとわかってながら涙腺は決壊し、一言も話すことができない、情けない有り様を友人たちに晒して、耐えられなくて逃げてきた。なんて、無様。
恥ずかしくて恥ずかしくて恥ずかしくて、顔も見れない。顔を上げれない。
思い出せば情けなく、また涙がにじむ。
嗚咽を噛み殺し、涙を気合いで止めようとして失敗し、ひぎっ、とか変な音が出た。
ああ、暗くなる前に帰らなければいけないのにこんな顔では帰れない。
罪悪感を感じてるわけではない。
自分が恥をかいたのが許せなくて、情けないだけだ。
あのとき怒られて泣いていたと言われるのがはずかしいだけだ。
怒られ慣れてない、もっと言えば、怒られないように過ごしてきたがために、打たれ弱くなってしまったようだ。
こんなことでどうするのだろう。生きてる内に何回失敗するだろう。その度にこんなバカげたことをするつもりなのか。
ここで歓迎されてるわけじゃない。寧ろ公園でベンチを不法占拠して陰鬱な雰囲気を醸し出している高校生は、はっきり言うと不快だ。
息を吸って立ち上がる。溢れた塩水は無視。帰らなければ。どれだけ逃げても、どれだけ嫌がっても、どうせ明日は来るのだから。
失敗を繰り返しても、それでも生きなければならない。人生は恥の積み重ねだ。なんて苦痛なんだろう。この為に、いったい何人が舞台上から飛び下りたと思うのか。
その勇気が無いのだから、結局の所、明日を迎え撃つしか道は無い。
頬を伝う塩水の味は、どんな気休めを考えても、誤魔化すことはできなかった。