第8話 究極の業 下
「では、始めます」
すでに鎧の着せられた案山子とリアラの武器であろう先端の尖った細い片手剣、レイピアが警備の兵により用意されていた。ただし、案山子の鎧は鈍く輝く鉄の鎧。それに対しレイピアは、訓練用の木製であった。
リアラはレイピアを右手で受け取ると案山子の前に立った。体は自然体のままレイピアを構えず、深呼吸を繰り返しながら目を瞑り、集中している。
「ハァッ!」
リアラが短い声を出した瞬間、達也と姉貴はバッと警戒の体制をとり、顔を険しくしてリアラを凝視している。
だが俺には何が起きているのか分からない。やはり、魔力を理解しないと何がなんだかわかんないな。そう思っていた時だった。
ゾクッとした。リアラから溢れ出してくる何か。肌を直接刺激しているかと錯覚してしまう程の力強い何か。この何かは言葉では表す単語が分からない。いや、正確にはわからなかった、か。
それは元の世界には無かった魔力という単語。なるほど、今なら分かる。これが、このエネルギーが魔力なのか。
「これが究極の魔力技術、無属性魔法です」
目を凝らして見る。魔力は見る、というよりも感じる、という方が正しいのだが、つい自分の目を頼ってしまう。
「なるほど、確かに高密度の魔力がレイピアを中心に渦巻いて集まっているわね」
「うん、先端の方は細く鋭く、根元の方は太く広がりが大きい・・・これはまるで・・・」
魔力に渦巻きの方向性を持たせる、その言葉がどういうことなのか分かった気がする。姉貴と達也の言うとおり、リアラの右腕から放出された魔力はレイピアの周りを渦巻き、そして先端へと向かう。
そう、この円錐螺旋状の姿はまさに・・・
「「「ドリル」」」
「やっぱり兄ちゃんにもわかる?」
「これだけのエネルギー、いや、魔力だからな。心なしか目にも魔力の塊が見えるようだぜ」
思いつく物は皆同じか。やはりドリルはロマンという事だな、フフフ。
「ではこれで案山子を突きます。破片が飛び散ることがありますのでお気をつけてください」
「もっと後ろに下がったほうがいい。ザインより前に出ると危ないぞ」
この魔力で案山子を攻撃するのはやはり危険なのだろう。3歩ほど後ろに下がったが、まだ危ないと言う王子の注意を聞き、3人共ザインの後ろにまわった。王子自身も護衛の騎士の後ろに立ちリアラを見つめている。
リアラはゆっくりと体を自然体から動かし、フェンシングに似た攻撃態勢にぴたりと止めた後、一気に案山子を突いた。レイピアはシュッという音を出し、まるで何も抵抗が無いかのように案山子を貫いた。
しかし、無属性魔法の恐ろしさを味わうのはこれからだった。レイピアが案山子を貫通した瞬間、ボンッ!という音と共に案山子が四散し、案山子を地面に固定する金具以外を吹き飛ばしていた。
「うおおぅ、スゲェ。案山子が消し飛びやがった!」
幸い、案山子の破片はこちらには飛んでこなかったが案山子よりも奥は悲惨な事になっていた。案山子についていた鎧の腕や頭の部分がひしゃげて転がり、レイピアが貫いた胴の部分と思われるバラバラの鉄くずはあちこちの地面に突き刺さっていた。
もしこの技が人間に当たったらと思うと・・・うっぷ、止めとこう。
「威力だけじゃないわ。これだけの威力なのにレイピアは折れるどころか傷一つ付いていない事にも驚きよ」
「圧倒的な破壊力と硬度!この技があれば例え硬い魔物でも刀でいける!」
おお、確かに達也がこれを覚えれば問題解決だな。ただし、絶対に人に使ってはいけないが。
「ふぅー。私はこの無属性魔法を10年程で習得することができました。でも、皆様ならばきっとすぐに習得できるはずですよ」
10年・・やはり相当難しい技なんだな。実際リアラ以外に使い手いないから当然なんだろうけど。まあ、勇者様なら、なんだかんだ言いながら習得できるだろうな。
「うん、がんばるよ」
「じゃあ、早速練習してみるわね。あ、達也は休んでなさい。だいぶ魔力を消費してるわよ。ねえ、弓と矢はあるかしら?」
治癒魔法で回復した後も疲れが残っているようだったけど、魔力が少なくなっていたからか。確かに魔力を俺が分かる程の量を使う技みたいだし練習するにしても危険かもな。
それにしても姉貴は弓道部なだけあって弓矢を使うのか。おそらく矢に魔力を集めて射るのだろう。
「姉貴の武器はやっぱり弓なんだ」
「そうよ。遠距離専用になっちゃうけどね。魔術師の遠距離攻撃には魔法って手段が一般的らしいけど私は弓を手離せないわ。近いうちに戦闘スタイルを決めないといけないわね」
でも集中するには弓は最適よ、愛用の弓が無いのは残念だけど。と話しながら弓矢の到着を待っていると先ほど話しかけた騎士が数種類の弓と矢を抱えて戻ってきた。
「リン様、お持ちいたしました」
「ありがとう。・・・そうね、これが一番マシね。よし、じゃあ、やってみるわ」
弓は自分の体型に合っていることも重要だが、ここにある弓はほとんど西洋弓だ。弓道の和弓に慣れている姉貴にとっては体型に合わせる話以前の問題だな。
それでも、矢の方はさほど問題無かったようで、左手に弓を、右手に矢を持ち、リアラと同じように自然体で集中している。そして、掛け声と共に魔力を放出させた。
「えい。あ、できた」
「「「「「はいっ?」」」」」
思わずその場にいた全員が聞き返す。だが確かに姉貴の右腕の矢には多少歪ながらも魔力のドリルが渦巻いている。
「えっ?いや、確かに成功してるけど・・・えっ?」(リオン)
「姉ちゃん、すげー」(達也)
「これはひどい」(俺)
「・・・・・・・( ゜д゜)ポカーン」(ザイン)
「わ、私はこの10年間とは・・・ま、まだ、あわ慌てる様な時間(年月)じゃなななな、あばばばば」(リアラ)
皆思い思いのリアクションをとっており、リアラに至っては体を震わし、危ない世界に突入しかけている。
「やべぇ、リアラが小刻みに震え始めたぞ。達也、フォロー入れろ、フォロー」
「うん。リアラ、姉ちゃんはいつもあんな感じだから気にしないほうがいいよ」
「リン様とは一体・・・うごごごご」
達也、それフォローやない。(ボディー)ブローや。ラスボスが無に帰りそうなセリフを吐いてんぞ。
「え、え~と、あ、ゆ、勇者だから。姉ちゃんは勇者だから!」
「うごご・・・勇者?リン様は勇者?」
「そう、勇者だから、姉ちゃんは勇者様だから」
「勇者様・・勇者様。そうですよね、リン様は勇者様だからこれぐらい当然ですよね!」
おお、戻ってきた戻ってきた。いいぞ、その調子だ、達也。
「グレン○ガンのドリルをイメージしたら意外と簡単だったわ」
「か、簡単・・・うごごごご」
「姉ちゃん、少し黙ってて。マジで。リアラの精神が天元突破しそうだから」
この後、リアラは達也とリオン王子が慰めたおかげで何とか復活した。
・・・もしかしたら、何も言わずに呆然とし続けていたザインもかなりやばかったかも知れない。
凛「精神崩壊は任せろー!」バリバリ
要・達也「やめてー!」