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第6話 チートVS最強

「お二方とも、準備は整われましたか」


「ああ、問題ない」


「こっちもいいよ、さあ、やろうか!」


審判役の騎士は体をほぐし終わった2人に声をかけ、返事に頷くと2人の中心から少し離れた場所で試合の宣言をする。


「これより、勇者タツヤ・カンザキと白銀の騎士ザイン・クレイモニアの練習試合を始める。使用する武器は木製なれど、刃のついた鋼鉄製の武器と仮定せよ。治癒魔術師が控えているとはいえ、魔法の使用や倒れた相手への追撃などの危険行為は慎むように。それでは、試合、はじめ!」


試合が始まった。白い騎士は左手の盾を前に出し、防御の形をとる。達也の強さを見るのが目的なのだから、様子見の防御は当然といえば当然だ。もちろん先に動いたのは達也でだった。


「よし、早速使わせてもらうよ、ハッ!」


達也はそう言うと、ぐぐっと腰を低くしたかと思うと、一跳びで騎士に近づき片手で鋭い突きを放った。

しかし、その突きを予想していたかのように騎士は構えていた盾で軽くいなす。


「なっ!?なんだあの速さはっ?あの距離を一瞬で近づいたぞ!?」


あまりの速さに驚く。達也と騎士の距離は10メートルほど離れていたはずだ。いくら運動神経が良いと言ってもさっきの動きは人ではありえない。


「魔力により身体能力の上昇させたのだ。魔力技術と呼ばれている物の一つ、ブーストと呼ばれる技だ。まさか、先ほど教えられたばかりの魔力技術をここまで使いこなすとは!」


王子が疑問に答えてくれた。魔力技術とな。さっき魔法は禁止って言ってなかったか?


「魔力技術?それは魔法じゃないのか?」


「ああ、魔法ではない。簡単に説明すると、魔力を精霊に与え、8種のうち1つの属性を持たせることを魔法という。魔力技術とは精霊を必要としない魔力の使用方法だ。今のは体内の魔力を体の一箇所に集めたのだ。そうするとその部位は集めた魔力に比例した力を得ることができる。ブーストとはそういう技だ。もちろんあのような実戦に使えるブーストなどの魔力技術の使用は恐ろしいほどの訓練と才能が必要だ・・・必要なんだが・・・」


王子。それはこの言葉で片が付くぜ。

さすが勇者様。チートですね、わかります。


「はっ!ふっ!ぐぅ、くっ、てぇいや!!」


「うむ、美しい太刀筋だ。精練されているな」


突きの初撃から始まった攻撃から連撃を繰り出すも1撃も当たらない。達也は軽やかに動き回り、鎧の隙間を狙う突きを中心で組まれた攻撃を行う、いわゆる介者剣法という戦い方だ。本来、剣道には存在しない型だが日本刀で分厚い鎧を相手にすることができる唯一とも言える戦い方だろう。

って、おいおい、マジかよ、ありえねぇだろ。達也は軽装備、相手は重装備。速さでは圧倒的に此方が有利のはず。なのに当たらない!攻撃が1度も鎧にかすりさえもしない!

達也の剣道は全国大会も制覇してんだぞ。高校生の大会といっても、アイツの強さはそんなレベルじゃない、化け物級なんだぞ。


「王子・・・もしかしてあの白い騎士、めちゃくちゃ強い?」


「私が知っている限り、この大陸最強の人間だ。この白銀の騎士ザインを超えることが勇者の当面の目標だな」


「マジかよ・・・」


チートの相手は最強だって訳だ。王子さんよぉ、なんて奴に相手にさせてんだ。


「はぁぁ、せぇぇぇぇいっ!」


1呼吸のうちに突き、フェイント、袈裟切り、切り上げ、フェイント、さらに突きを繰り出す。しかし、避けられ、見切られ、受け流され、いなされ、そして弾かれる。

その動きは、防御しかしていない騎士が攻めているかのようにさえ見える。


「くっ、ぐっ、っ!、ここだ!」


「良い。だが・・・軽い!はぁっ!」


達也の体重が乗っているはずの一撃をロングソードで軽く弾き、バランスを崩した達也の胸当ての部分を盾で強打し、吹き飛ばす。ぐぅっと吐き出される声とともに、後ろに飛ばされ、試合開始位置付近まで転がる。

しかし、胸を押さえ、咳き込みながらもすぐに立ち上がる。実に痛々しい。


「ごほっ、ごほ、ううぅ、くぅ、へへへ」


うわぁ、うめき声あげながら笑ってるぞ、ドMかよアイツ。ん~、ああ、思い出した。そういや剣道始めた頃は、自分より強い奴に出会う度にあんなふうに笑っていたな。最近は剣道の全国大会ですらあんな顔見なくなっていたけど。

・・・久々なんだろうな、自分より強い奴と戦えるのは。・・うん、まあ、ドM云々は置いといて嬉しそうなのは何よりだ。


介者剣法(これ)がだめなら、これはどうだ!」


呼吸を整えると、武器をななめ上の高い位置に構えを変える。最高速の振り下ろしが可能となる上段の構えだ。


「上段に構えた!ありゃ、達也が本気の時の構えだ。でも、例え本物の刀で上段振り下ろしが決まってもあの分厚い兜や鎧には通じねぇぞ」


「待て、タツヤの腕と足に魔力が集まっている。ブーストの一撃に賭けるつもりなのだろう。・・・なんと・・・まだ集まるのか、なんという魔力量だ」


「おぉ、実に素晴らしい。来るがいい!その一撃、この白銀の騎士が受けて立とう!」


騎士は感嘆し、受けることを宣言すると深く腰を下ろし、頭部を守るように盾を構えるだけでなく、盾の上にクロスさせるようにロングソードも構えた。

盾も剣も木製のはずなのにその姿は俺が見ても圧倒的な硬さを誇ることがわかるほどだ。


「いくぞ!ぃぃぃっやああぁぁ!!」


一瞬だった。達也の居た地面は、ばっ、という音とともに砂煙が上がると、時を置かずドゴン、という木製特有の低い音が響いた。


「ど、どうなったんだ?」


二人は動かない。騎士は守りの姿勢のまま。達也はその騎士の前で上段を振り下ろした姿勢のまま。

2人の頭上からはパラパラと何かが落ちてきている。


アレは木屑!どちらかの武器は木っ端微塵になったんだな。

どっちだ。どっちが武器を持ってない。


「見事だ、さすがは勇者よ」


騎士のロングソードは根元から無くなっており、盾にいたっては完全にその姿が無くしていた。そして・・・


「・・・ふう、完敗だね、ザインさん。でも、すごく楽しかった」


そして達也の武器の姿も無かった。あの1撃はお互いの木製武器では到底耐え切れるものではなかったのだろう。


「っ!そこまでっ!この試合お互いの武器破損により引き分けとする」


1分にも満たない試合だったが濃厚な戦闘だった。それを物語るように達也はこの短い戦いで激しく疲労しているようで、笑いながら白い騎士と握手すると、ふぅーーー、と深い息をつくとその場に座り込んだ。



「タツヤ様ーー!お怪我はありませんかっ!?」


すぐさまリアラが駆けつける。目は涙で潤んでいる。


「疲れただけだから大丈夫だよ。ちょっと胸が痛いけど」


「はうっ!すぐに治療いたしますわ。『集え光よ! 天空を舞う母なる力 傷つきし身を癒せ!』」


達也が胸当ての上からさすりながら答えると、リアラはすぐさま魔法を唱えた。光が両手から湧き出たと思うとすぐに、光は達也を包み込んでいた。


「これは・・なんてやさしい光なんだろう。すごい、もう痛みが完全に消えている!ありがとう、リアラ!」


回復した達也はリアラの手を取りながら礼を言っている。


「ゆ、勇者様のお力になることが私の役目でしゅから!///」


白銀の騎士が治癒魔術師に回復は必要ないと手で合図を送っている隣では甘い空間が広がっており、姉貴はそれをにこやかに眺めている。


「おーおー、勇者様はうらやましいねぇ。まさに青春だねぇ」


俺もそれをにこやかに・・ではないがにやにやしながら見ている。


「ククク、そうだな。カナメもザインと戦えば癒してくれるんじゃないか?」


「死んじまっても治癒魔法とやらで生き返らせてくれるんだったら喜んで逝っちゃうよ?わっはっは」


正直あの盾の強打だけで俺の心臓止まるかもな。


「クハハ、それはいいな!クハハハハハッ!」


俺の自虐ネタのどこに受けたのかわからないが、王子は大きく笑っていた。笑いのつぼ浅いっすね、王子・・・

ああ、ほらほら周りの護衛の騎士たちもポカンてしてるから落ち着きなよ。


「ククク、我らも訓練場に降りるとしよう。素晴らしい試合の主人公達を褒めてやらねばな」


ひとしきり笑い、落ち着いた王子はそう言って、俺たちは訓練場に向かって歩き出した。


試合を見守っていた名も無き治癒魔術師「出番ェ・・・」

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