第4話 ご挨拶
パクパク、むしゃむしゃ、もぐもぐ、ゴクン。
う、うますぎる!
「此方はソルベール地方のラパン(二本角兎)を使用したパケトン・ド・ラパン(兎のベーコン包み)とスヴェ・ド・ラパン(兎のワイン煮込み)でございます」
「とてもおいしいです」
「ありがとうございます。此方はショウフィッシュのソテーとルイユ(白身魚のソース)でございます。そして此方のスープは・・・・・・」
次々に、ウェイターっぽい人が料理を皿に盛り丁寧に持ってくる。
説明していることは何言っているのかさっぱりわからないけれど、わかっていることは唯一つ、飯がうまい。この一言に尽きる。
もちろん、がっついてないぜ。最低限のマナーは守っているつもりだ。周りをちらちら見ながらという小市民っぷりだが。
「ふう、すごくおいしかった。この紅茶もうまいし」
「わが国の料理がお口に合いよかったですわ」
食後の紅茶を飲みながら話す。
こっちにもお茶はあるんだね。
「姫様、少しよろしいでしょうか?」
メイドが何か姫さんにささやいてる。メイド服か・・・すばらしい。だがフリルが付いてないのは残念だ。
「申し訳ありません皆様、少々席を外します。ゆっくりしていてくださいね」
「・・・魔法に魔王に勇者ねぇ、漫画かよって話だよな」
「そうね、私たちの世界じゃ本や映画の中の世界よね」
とんでもないところに来てしまったもんだな。
「ところで、俺が眠ってた2日間どんな感じだった?」
「わからないことが多すぎてどうもこうもなかったわ。召喚された時はあなたが倒れてしまって、この城の人たちも騒然としていたし。1日目はあなたの治療が終わった後に、さっきリアラが言っていた事と同じような説明をお城の人から受けて終わったわ。2日目は・・・うん、昨日のことね、この国の王様に会うことになって、まあ、勇者に期待しているぞみたいな内容だったわ。その後にリアラを紹介されて、魔法を見せてもらったり、教えてもらったりしたわね。そして、3日目の朝、ようやくあなたが目覚めた。大雑把に説明するとこんな所ね。」
姉貴の説明に達也も1日目は大変だったと頷いている。馬鹿達也、お前がそれを言うか。俺の腕はまだズキズキ痛むんだぞ。
それにしても王様に会ったのか・・・王様がどんな感じの人物だったのか気になるが、まだ周りにメイドや警備の騎士もいるからここでへたに聞くわけにもいけないな。後は・・そうだ、魔法だ。
「魔法ってどんなもんだった?威力とか、種類とかは?」
男のロマンであるが、厨二病では無い。繰り返す、厨二病ではない!
「種類だけど、光・闇・炎・水・雷・土・風そして水から派生した氷の8つの属性があるんだって。それぞれ下位魔法・中位魔法・上位魔法に分かれているけど同じ魔法でも込める魔力によって威力は変わるらしいよ」
これだよ!ロマンってのはこういう事を言うんだよ!おら、ワクワクしてきたぞ!
「ほほー、で魔法使ってみた感想はどうよ?」
「光と闇以外の属性の下位魔法を教えてもらったけど、最初は自分の魔力なんてわからなかったから難しかったよ。でも、魔力に慣れたら意外と簡単だよ。感想?すごいと思った」
小学生並みの感想だな。
「下位魔法って言ってるけど、あれは人に当たれば怪我どころの話じゃないって威力よ。怪我を治す治癒魔法なんていうのもあったし、身を守る防御魔法とかもあるらしいわ。正直、魔法がすごいっていうのは私も同意見よ」
回復魔法に防御魔法か、俺の魔力は一般人レベルだけど自分で身を守るためになんとか習得したいところだな。
「ん、リアラが戻ってきたみたいね。話の続きはまた、後で、3人、でしましょう」
OK、姉貴。俺ら3人以外に聞かれたくない話ってことだな。
でも、メイドやら警備の中、そんな時間作るのは厳しそうなんだよなぁ。お姫様いるときはともかく、いない今ですら、めっちゃ警戒されてるんだけど。視線がうぜぇ。
「おまたせしました。実は先ほど私の兄がゴルネクス地方に出現した魔物討伐から帰ってきまして、ぜひ皆様方に会いたいと。突然で申し訳ありませんが、兄と会っていただけませんか?」
俺も会うのか。リアラの兄、つまりこの国の王子ってことだよな。
「噂に名高いディアルク王国の王子様に会えるなんて光栄です。こちらこそお願いします」
「もちろん俺もだよ。ぜひ会いたいと思っていたんだ」
姉貴、敬語になってるし、なんかうれしそうだな。ああ、そういや昔言ってたな。白馬の王子様は女の子の夢って。ケラケラ
「よかったなぁ、姉貴。女の子の夢とやらが叶ってよ」
「あら、ずいぶん昔のこと覚えていたのね。確かに女の子の夢ね。でも・・・」
ん?皮肉が通じてねえのは久々だな。珍し・・プチッブチッ、痛っ、ゲッ、姉貴の手に俺の髪の毛がっ!
「口に出して言われると恥ずかしいのよ///」
「ひいぃ、すいませんでした」
「わかればよろしい」
マジかよ、いっぺんで10本くらい抜きやがった。ハゲたらどうすんだよ・・・
「あの・・これから兄の執務室に行こうと思うんですが・・・大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫、これがいつもの姉ちゃんと兄ちゃんだから」
「はあ、なるほど。それでは、行きましょうか」
リアラに引かれちゃったな。ったく、姉貴ときたら仕方ねえな。
王子の部屋に行くためにリアラに着いていっている。もう20分くらい歩いたがまだ着かないみたいだ。
「ずいぶん遠いな、王宮の移動ってのはいつもこんなに歩かなきゃいかんのかな?」
正直、少し疲れた。歩いただけなのに。2日寝込んでたのも影響してるのかもしれない。
「そうですね、兄の執務室は王宮の中心付近にあるのですが、皆様に滞在してもらっている客室は少し離れに作られていますから・・・皆様には不便をおかけします。申し訳ありません」
「いやいや、そりゃそうだよな。勇者として召喚されたとはいえ、いきなり王宮の中心に泊まらせる訳にもいかないもんな。当たり前といえば当たり前な話だな」
俺たちがこっちに来てまだ3日目、俺にいたっては今日起きたばかり。人となりもわからずに自分のすぐ隣に置けるはずも無いからな。
人となりと言えば今から会う王子様ってのはどんな人物なんだろうか。さっき姉貴が噂に名高いと言ってたけど。
「姉貴、さっきの王子様の噂ってどんなの?」
こっそり聞いてみる。ちなみにリアラは達也と雑談してるからこっちに気づいていない。
「国民を守るために自ら軍を率いて魔物の討伐に何度も行ってる頼りになる次期王様の王子様、今回も軍と一緒にゴルネクスっていう所へ魔物の討伐に行ってる。そこだけ聞くと国民へのパフォーマンスなんだけど、その地の領主の軍では敵わなかった強い魔物にも危険を犯して自ら討伐に行ってるから、そうとも言えないわね。まあ、どこまで本当かわかんないけど。あとイケメン。主な噂はこんな感じ」
「なるほどな」
王子でイケメンとか俺の好感度メーターがマイナスに振り切れそうなんだが・・・でも、次期王様ってのは重要だな。嫌われたらこの国で生きる難易度跳ね上がるし。あ、なんか緊張してきた。
「人の噂なんてしょせん噂ってことがむしろ多いから、そこまで重要なことではないわよ。少なくとも元の世界では、だけど。とにかく直接会って、話ができれば大体わかるわね。ふふっ、少し楽しみね」
いろんな奴らから告白されまくった姉貴らしいな。良い噂されてた奴の告白断った後、そいつの恨みの矛先が俺や達也の方に来たことも何度もあったし。
「着きました。ここが兄の執務室です」
ふー。ようやく着いたか。ここまでくるのに30分くらいかかったな。道はぜんぜん覚えることできなかった。一人で来ると間違いなく迷子になるな。気をつけないと。
「勇者様方を連れてきましたわ」
豪華なドアの前に直立不動で佇む2人の騎士にリアラは俺たちのことを告げた。
「はっ、お待ちしておりました。どうぞ、お入りください」
2人の騎士の内の一人がそう答えると、もう1人の騎士がきびきびとした動きで扉を開けた。
「はじめまして、勇者殿。私はディアルク王国第一王子、リオン・ディアルクという。すまないが立場上、敬語を使うわけにはいかなくてね。まず、そのことを謝りたい」
輝くような金髪は、爽やかに、いわゆる7:3分けにしている。顔はリアラに少し似ている。だが、瞳の色が違う。リアラは青だったが、この王子は緑だ。つまるところイケメンですね、わかります。
たぶん、変顔してもイケメンなんだろな~。てか、この世界、メイドや警護の騎士にしても美男美女ばっかりじゃないか?うわっ、なんか怖くなってきた。美男美女はここが王宮だから、という説で現実逃避しておこう。うん、そうしよう。
「はじめまして、リオン王子。私はリン カンザキと申します。こちらは弟のタツヤとカナメです。この度は噂に名高いリオン王子にお会いできて光栄の限りです」
姉貴が代表して自己紹介するが、それに王子は少し慌てる。
「いや、いいんだ。そんなにかしこまらなくても。私はこの国の次期王として、口調を定められていてね。むしろ、召喚された勇者、つまり光の精霊に選ばれた君たちのほうが宗教上の立場では上なのさ。そして私を含めたこの国の多くの者は光の精霊を精霊神様と呼び、神として崇めている。だから、すまないがお互い普通に話すことにしないか?不敬かもしれないが私としてはそれが妥協点なのだよ」
光の精霊を神とした宗教か。そりゃそうか魔法があるんだから、俺たちの世界よりもはるかに神様を信じやすいんだろうな。正直俺もこっちの世界は神様いるんじゃないかと思ってしまう。
「なるほど。そのような事情があるのですね。わかりました・・・いや、わかったわ。これからよろしくね、リオン王子」
「よろしくね。俺も頑張って魔王を倒すよ」
「ありがとう。リン、タツヤ。国を代表して礼を言う」
姉貴と達也は勇者だからそれでいいけど、俺は違うしなぁ。
「ん~、じゃあ、俺は敬語使ったほうがいいですね。精霊に選ばれた訳じゃなくて、無理やり連れて来られただけですし」
「ふむ?それは興味深いな。そのことを詳しく話してくれないか?ああ、それとカナメも敬語云々は無しだ。普通に話してくれてかまわない」
なんという、器のでかさ。この王子・・・できる!キリッ!
「了解。じゃあ、姉貴と達也が光りだした時からかな。あのとき達也が俺の腕を・・・・」
~説明中~
「なるほど。無理やり連れて来るというのもありえない話ではないな。現に召喚の際に、リンとタツヤは自分の服や荷物も此方に持ってきている。これらは精霊に選ばれるはずも無い物だ。つまり、召喚は勇者だけでなくその周りを巻き込んで行われるということだな」
「それでは、タツヤ様とリン様のどちらか1人が勇者ということも考えられるのでは」
「ふむ、カナメ。光っていたのはリンとタツヤ、どちらか1人ではなく、確かに2人両方だったのか?」
「それは間違いない、2人ともだ。確かに覚えている」
ケータイで写真も撮ってるしな。
「だとするとリンとタツヤ、2人が勇者なのは間違いないようだな。なぜ勇者が2人なのか、姉弟である必要があったのかはわからないが勇者召喚には前例すら無いのだ。精霊神様に我ら人の考えは及ぶまい」
確かにわからんね。まあ、精霊神様とやらもなぜか呼んでない俺まで来てビックリだと思うけど。
「しかし、カナメ。よく無事だったな。勇者召喚というのは莫大な魔力を使用した光魔法の一種だ。それこそ異世界に干渉するほどの、な。それに巻き込まれて腕が痛いだけというのは奇跡なのかもしれんな」
「いやいやいや、痛いだけつっても正直ショック死直前だったからね。本当に死ぬかと思ったからね。まだ、ズキズキするからね」
「腕の中の魔力循環が崩れてるかもしれんな。腕がパーンってなる前に早めに治癒魔術師に診てもらえ」
「え、パーンってなるの?なにそれこわい。え?冗談だよね?」
「結構マジ」
・・・うわああああ、医者ぁああああ!!
その後、姉貴と達也を王子の部屋に残してメイドさんの案内で医務室に急いで向かった。
俺が2日間意識が無かったとき治療してもらっていたというグロトという名の白髪白髭のじーさん治癒魔術師に原因を話して腕を見てもらった。が、結果はわからない。魔力循環が崩れている訳では無いらしく「パーンとはならんじゃろ、たぶん」って言われた。たぶんて・・・
休み取れそうだから書き溜め頑張ります