iPodに入れた五番目の曲を聴きながら
四年ほど前に書いたものです。今じゃ「iPodだって、ふっるー!」になっちゃいましたね。
ダサいネクタイに親父からもらった背広、耳にはウォークマンから流れるローリングストーンズ。
そして前方に見えるのは、ギターケースを背負った朝帰りの近所のガキ。
そのガキがすれ違い様に言う事には――
「アンタのようなつまんねえ人生だけはゴメンだね」だとさ。
「おい、ボウズ。人生なんてたとえどんな生き方をしたって、ツマンネェモンなんだぜ?」
口の減らないガキは更に言う。
「それは人それぞれの考え方、俺は違うね。人生は一本道って決まりは無いんだ。アンタ頭固いぜ、だからそんな生き方しか出来ないんだよ」
成る程、気に入った。だがな、その道《人生》は『さっき俺が通ってきた道』だぜ? せいぜい気をつけな。
ショボいネクタイに安物の背広、耳にはCDウォークマンから流れるセックス・ピストルズ。
そして曲がり角でばったりと出会う、ギターケースを背負った朝帰りの近所のガキ。
そのガキが出会い頭に言う事には――
「俺はこんな小さな街、出て行きたい。東京で夢を叶えるんだ」だとさ。
「おい、ボウズ。関心な心がけだ、門出に良い事を教えてやろう。深夜誰もが寝静まった頃、親父とお袋の財布を盗んで、朝一番の電車に乗るんだ。そして一番高い切符を買え」
ガキは眼を輝かせて言う。
「その後は?」
そんなのしらねぇや、てめぇで考えな。
地味なネクタイに先月特注で誂えた背広、耳にはMDウォークマンから流れるジャニス・ジョップリン。
そして俺の後を追ってくる、ギターケースを背負った朝帰りの近所のガキ。
そのガキが俺を捕まえて言う事には
「俺の女が出来ちまってさ、どうしたらいい?」だとさ。
「そいつはおめでとう! お前も一人前になれるな!」
だがガキは沈痛な面持ちで言う。
「けど、責任なんて持てるかな?」
「おい、ボウズ。お祝いにいい事を教えてやろう。深夜誰もが寝静まった頃、女の財布を盗んで、朝一番の電車に乗るんだ。そして一番遠い駅の切符を買え」
ガキは何言ってんだとばかりに俺を見る。
おっと、そうだ。俺とした事が大事な事を言い忘れていた。
「出て行くときにな、女の腹に蹴りを入れるんだ、それでお前さんも一人前だぜ」
ネクタイなんて捨てちまったし、背広も箪笥の肥やしになった。
耳にはiPodから流れる、適当に入れた名前もしらねぇ上から五番目の曲。
そして俺の前を通り過ぎる、背広に通勤鞄をさげた出勤途中の近所の新婚のガキ。
ソイツが俺を見ながら言う事には
「結局俺もアンタと同じ道を進んじまった、笑ってくれよ」だとさ。
「同じ道だって? 冗談じゃないぜ。俺は生まれてこの方、会社になんざ行った事ねぇんだよ」
お前さんは知らないだろうよ、人生スリルと快楽に満ちた生き方もあるんだって事を。
そう、人生は一本道なんかじゃない。テメェにも分岐点は幾度かあったんだ。
ただ、お前さんがその道を選ばなかっただけさ。
俺が背広姿で何してたかって? そいつぁ秘密だ。
ただ、今はお巡りさんがちょっとだけ暇になっただろうけどさ。
最後まで目を通していただいてありがとうございました!