4月1日 春休みなのに登校。
中等部と高等部の間。
バスケットゴールがある、明るい場所。ベンチとテーブルもあり、晴れた日にはそこで弁当を食べることができる。たまにドラゴンの往来もあるが、春休みの今は、静かな場所になっていた。
そしてまだ中等部の制服でノコノコ登校してきた私たちは、今、そこで弁当を広げている。
「……レイヴン大丈夫? 目の下、くま。」
今日は希夕と刹那と私の3人だ。ほかは旅行に行っているらしい。
希夕に言われ、私は目をこすった。
「大丈夫、眠れてないだけ。」
『大問題だろ。』
2人に同時に言われて、私はため息をついた。
「そんなに心配? 高等部。」
刹那がフォークで米粒をつつく。「あーゆーじゃぱにーず?」と聞きたくなるが、もう3年間見てきた光景につき、もう聞く気も失せた。
「ほら、レイヴンは変な科だから。」
「あーね。がんばれー。」
「お前ら人ごとの上に“変な科”って何だよ。」
雷でも落としてやろうか。
高ぶった感情を鎮め、私はため息をつきつつ言った。
「違うんだ。それとは別。」
「え、何、恋ぐほあっ」
そう言った刹那を殴り飛ばし、私は弁当の餃子を口に運んだ。いつも通り、冷えている。「んで? どうしたの?」
何事もなかったかのように刹那が復活。そして私たちは何事もなかったかのように食事を続ける。
「……実は」
『実は?』
言ったところで信じてもらえるはずがない。しかし知りたがっているのだし、言うしかない。
私はそう決心し、口に出す。
「命を、狙われてるかもしれない。」
2人は顔を見合わせた。そして何かアイコンタクトをとり、うなずく。そして。
「自意識過剰!」
「技名かよっ!?」
刹那の氷魔法。刹那がつきだした右手の前に青白い魔方陣が出現、そこから氷の刃がいくつも飛び出してくる。私は弁当をひっつかんで横に跳ぶ。
「エプリルフゥゥゥゥル!」
希夕の声に潜む殺気を感じ、もう一度横に跳ぶと、間一髪、3本ほどの矢がかすめた。「何すんだよ、そしてもう少しネーミングセンス鍛えろ!」
と叫びながら1口。
「いや、技名じゃないし。第一エプリルフールだからって嘘着いたのそっちでしょー。」 希夕が手を振る。弓がしなってブンブンと音を立てた。
「疲れてるんだよ。今夜は早く寝るんだ。」
刹那もうんうんっと首を縦に振る。
私はため息をつきつつ席に戻った。すると希夕が「今更だけど」と口を開く。
「どうしてそう思うの?」
「あ、それ。気になる。」
確かに今更だが、もっともな質問だ。私はご飯を食べながら言う。
「炎の塊がよくとんでくるんだ。ファイアボールが。」
「ファイアボールってあの中級魔法?」
希夕が驚いたような声を上げる。
炎系中級魔法、ファイアボール。魔法のランクが低いうちはそれほど威力もない。しかし高ランクになってくると、その威力はだんだん大きくなってくるのだ。最終的に、威力は絶大、舎弟範囲も広くなるなる。その分、魔法を使うのに必要なマナの消費は激しいくなるが……。
『嘘でしょー。』
2人からの視線が痛い。
「あんな魔法から逃げられるはずないじゃん。エプリルフールにつく嘘を考えて眠れなかったんじゃないの?」
と、刹那。
「うん、死んだら認めてあげる。」
希夕が冗談交じりなのはきょうがエプリルフールだからだろう。しかし少しイラッときた。
「じゃあ」
私は口の端を歪める。
「死ねばいい、俺とな。」
あ、一人称変わった。
「えーレイヴンと心中とかい」
希夕が言葉を飲み込む。それはきっと視界の端に炎の塊が映ったからだろう。2人はその方向を見る。
2人の悲鳴と、私の笑い声が響いた。
死んだら認めるんだろう。だったら死ねよ。
私は横を見た。炎の塊がゆっくりととんでくる。その熱を肌で感じながら、私はため息をついた。
いつもよりも小さい。このくらいだったら保健室行きで何とかなるだろう。しかし初回の2人には刺激が強すぎたか。
───────────と。
しゃんっ
誰か、同じ中等部の制服を着た子が炎と私たちの間に飛び込んできた。2本の剣を抜き、炎の塊を受け止めいている。
私たちは彼を知っていた。
学年で最も高い身長。あまり感情を外に出さないメガネ。本好き、描く絵が妙にうまい武装部特殊系に進学する少年。
────────────ヴェルト。
「……はぁっ」
彼は短い息を吐きながら、右へ炎の塊を飛ばした。そして片膝を着く。
ばーんと、横でそれが爆発した。顔を熱風からかばうために腕で顔を覆う。もう大丈夫かと腕を外すと、ヴェルトが自分たちを見ていた。
「……怪我は?」
「ないよ。ありがとう。助かった。」
笑いかけると、ヴェルトは小さく頷いた。
「ヴェルがここにいるってことは。あいつもいるってことだよね。さては犯人は……。」
再びヴェルトが頷く。私はため息をつき、そして叫んだ。
「何すんだよ重ぇっ!! 殺す気かぁっ!!」
2人が「え?」という顔をする。私はファイアボールが飛んできた方向を睨んだ。するとそこから1人の少年が現れる。
「ハッハッハッハッハッ、面白れぇ。許してくださいよ。」
私たちとあまり変わらない身長。感情をよく表に出し、よく笑うメガネ。本好き、書く小説に妙な躍動感がある魔術部炎系特化科へ進学する少年。
────────────重。
ヴェルトとよくつるむ。通称凸凹コンビ。
私はため息をついた。
「お前ちょっとそこ動くな。今から氷漬けにするから刹那が。」
「うんーってウチが!?」
「アハハハハー嫌ですー。」
重は何故か私と希夕に敬語を使う。
私は席に座り直し、弁当を口にする。
「まぁいつものことだしな……。どうでもいい…………。」
「レイヴンもう神ね。」
「あ゛?」
希夕がクスッと笑う。睨みつけても笑われた。
「ハハッ、チャージしたら絶対転ぶんですよー。いやー許して。」
「明日1日何にもしないなら許してやる……。」
もう限界だった。犯人が分かったことで緊張の糸がゆるみ、今までも倍の疲れが襲ってくる。
『今日は早く寝るんだよ。』
全員の声に反応する気力もなく、私はため息をつく。
4月1日、快晴。死ぬかと思う毎日が続いています────────……。