表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

4月1日 春休みなのに登校。

 中等部と高等部の間。

 バスケットゴールがある、明るい場所。ベンチとテーブルもあり、晴れた日にはそこで弁当を食べることができる。たまにドラゴンの往来もあるが、春休みの今は、静かな場所になっていた。

 そしてまだ中等部の制服でノコノコ登校してきた私たちは、今、そこで弁当を広げている。

「……レイヴン大丈夫? 目の下、くま。」

 今日は希夕と刹那と私の3人だ。ほかは旅行に行っているらしい。

 希夕に言われ、私は目をこすった。

「大丈夫、眠れてないだけ。」

『大問題だろ。』

 2人に同時に言われて、私はため息をついた。

「そんなに心配? 高等部。」

 刹那がフォークで米粒をつつく。「あーゆーじゃぱにーず?」と聞きたくなるが、もう3年間見てきた光景につき、もう聞く気も失せた。

「ほら、レイヴンは変な科だから。」

「あーね。がんばれー。」

「お前ら人ごとの上に“変な科”って何だよ。」

 雷でも落としてやろうか。

 高ぶった感情を鎮め、私はため息をつきつつ言った。

「違うんだ。それとは別。」

「え、何、恋ぐほあっ」

 そう言った刹那を殴り飛ばし、私は弁当の餃子を口に運んだ。いつも通り、冷えている。「んで? どうしたの?」

 何事もなかったかのように刹那が復活。そして私たちは何事もなかったかのように食事を続ける。

「……実は」

『実は?』

 言ったところで信じてもらえるはずがない。しかし知りたがっているのだし、言うしかない。

 私はそう決心し、口に出す。


「命を、狙われてるかもしれない。」


 2人は顔を見合わせた。そして何かアイコンタクトをとり、うなずく。そして。


「自意識過剰!」

 

「技名かよっ!?」

 刹那の氷魔法。刹那がつきだした右手の前に青白い魔方陣が出現、そこから氷の刃がいくつも飛び出してくる。私は弁当をひっつかんで横に跳ぶ。

「エプリルフゥゥゥゥル!」

 希夕の声に潜む殺気を感じ、もう一度横に跳ぶと、間一髪、3本ほどの矢がかすめた。「何すんだよ、そしてもう少しネーミングセンス鍛えろ!」

 と叫びながら1口。

「いや、技名じゃないし。第一エプリルフールだからって嘘着いたのそっちでしょー。」 希夕が手を振る。弓がしなってブンブンと音を立てた。

「疲れてるんだよ。今夜は早く寝るんだ。」

 刹那もうんうんっと首を縦に振る。

 私はため息をつきつつ席に戻った。すると希夕が「今更だけど」と口を開く。

「どうしてそう思うの?」

「あ、それ。気になる。」

 確かに今更だが、もっともな質問だ。私はご飯を食べながら言う。

「炎の塊がよくとんでくるんだ。ファイアボールが。」

「ファイアボールってあの中級魔法?」

 希夕が驚いたような声を上げる。

 炎系中級魔法、ファイアボール。魔法のランクが低いうちはそれほど威力もない。しかし高ランクになってくると、その威力はだんだん大きくなってくるのだ。最終的に、威力は絶大、舎弟範囲も広くなるなる。その分、魔法を使うのに必要なマナの消費は激しいくなるが……。

『嘘でしょー。』

 2人からの視線が痛い。

「あんな魔法から逃げられるはずないじゃん。エプリルフールにつく嘘を考えて眠れなかったんじゃないの?」

 と、刹那。

「うん、死んだら認めてあげる。」

 希夕が冗談交じりなのはきょうがエプリルフールだからだろう。しかし少しイラッときた。

「じゃあ」

 私は口の端を歪める。


「死ねばいい、俺とな。」


 あ、一人称変わった。

「えーレイヴンと心中とかい」

 希夕が言葉を飲み込む。それはきっと視界の端に炎の塊が映ったからだろう。2人はその方向を見る。

 2人の悲鳴と、私の笑い声が響いた。

 死んだら認めるんだろう。だったら死ねよ。

 私は横を見た。炎の塊がゆっくりととんでくる。その熱を肌で感じながら、私はため息をついた。

 いつもよりも小さい。このくらいだったら保健室行きで何とかなるだろう。しかし初回の2人には刺激が強すぎたか。

───────────と。


 しゃんっ


 誰か、同じ中等部の制服を着た子が炎と私たちの間に飛び込んできた。2本の剣を抜き、炎の塊を受け止めいている。

 私たちは彼を知っていた。

 学年で最も高い身長。あまり感情を外に出さないメガネ。本好き、描く絵が妙にうまい武装部特殊系に進学する少年。

────────────ヴェルト。

「……はぁっ」

 彼は短い息を吐きながら、右へ炎の塊を飛ばした。そして片膝を着く。

 ばーんと、横でそれが爆発した。顔を熱風からかばうために腕で顔を覆う。もう大丈夫かと腕を外すと、ヴェルトが自分たちを見ていた。

「……怪我は?」

「ないよ。ありがとう。助かった。」

 笑いかけると、ヴェルトは小さく頷いた。

「ヴェルがここにいるってことは。あいつもいるってことだよね。さては犯人は……。」

 再びヴェルトが頷く。私はため息をつき、そして叫んだ。

「何すんだよかさねぇっ!! 殺す気かぁっ!!」

 2人が「え?」という顔をする。私はファイアボールが飛んできた方向を睨んだ。するとそこから1人の少年が現れる。

「ハッハッハッハッハッ、面白れぇ。許してくださいよ。」

 私たちとあまり変わらない身長。感情をよく表に出し、よく笑うメガネ。本好き、書く小説に妙な躍動感がある魔術部炎系特化科へ進学する少年。

────────────かさね

 ヴェルトとよくつるむ。通称凸凹デコボココンビ。

 私はため息をついた。

「お前ちょっとそこ動くな。今から氷漬けにするから刹那が。」

「うんーってウチが!?」

「アハハハハー嫌ですー。」

 重は何故か私と希夕に敬語を使う。

 私は席に座り直し、弁当を口にする。

「まぁいつものことだしな……。どうでもいい…………。」

「レイヴンもう神ね。」

「あ゛?」

 希夕がクスッと笑う。睨みつけても笑われた。

「ハハッ、チャージしたら絶対転ぶんですよー。いやー許して。」

「明日1日何にもしないなら許してやる……。」

 もう限界だった。犯人が分かったことで緊張の糸がゆるみ、今までも倍の疲れが襲ってくる。

『今日は早く寝るんだよ。』

 全員の声に反応する気力もなく、私はため息をつく。



 4月1日、快晴。死ぬかと思う毎日が続いています────────……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ