戦隊ヒーローと一般人(モブ)の恋物語Ⅱ
さくっと読める、御茶請け小話です。
強い女が好きだ。ケツがデカけりゃなお良いさ。でも、何時もオレが好きになる女は大抵誰かにとっても良い女だから。あっさりと俺はフラれる。公務員、高給取りで。見てくれだって悪かあない。なのに、オレのなにが悪いんだろうか。
「強けりゃ良いって手当たり次第だから。」
「その癖して本気になったら重そうなところやね。」
防衛庁、特務機関。WBC 日本支部。世間で言うところの戦隊ヒーローのその基地。青葉葵のボヤキに間髪入れず、オパール色の髪に桜色の瞳をした青年サクラと派手な赤毛に金色の瞳をした青年藜答えた。
「お前らキライ。なんで反応が雑なんだ。」
ジメジメと顔を覆う二メートルは背丈があるガタイの良い仲間にオパール色の髪の青年、サクラはスマートフォンから目線をあげないまま通算五百六十八回も懲りずに別の人にアタックしてフラれるのをみたら雑にもなりますよと返した。
「青葉さんのそのめげないところは尊敬しますけど。これがきっと運命の人だって。毎回言ってフラれてますよね。今度はどこに惚れて。なにを理由にフラれましたか。」
サクラの問いに青葉は顔をのろのろと上げ。そのサイみたいなすさまじい突進力の強さに惚れたって言って。張り手されてフラれましたと語った。
「女子に言うことじゃあらへんわ、青葉パイセンの口説き文句は。」
「俺でもわかります。そりゃ、振られますよ。」
赤毛の青年、赤崎藜は嘆息し。見なはれ。あまりの酷さに敷島が泣いてはると指差すと。サクラは“敷島サン”の小説、最and高と同姓の作家のWeb小説に感涙しスマートフォンを掲げていた。青葉は、いや。コイツ推し活してるだけ。
というかオレにも興味持ってくれませんかねぇとブーイングすると。サクラは俺の脳の八割は敷島サンのコトだけが占めてるんでとHAHAHAとアメリカンに笑う。
「いや、変わったよな。敷島は。なーんにも興味ございませんてシケた面してたより今の敷島の方が話しやすい。相手が誰だか知らないがオレは応援するぞ?お前の恋が叶うように。」
「「良いヤツなんだけどなぁ、言葉選びが終わってる。」」
青葉が屈託なく告げた言葉にサクラも藜も溜め息をついた。
(強い女が好きだ。オレが例え殉職しても直ぐに立ち上がれるような。そんな強い女が奥さんに欲しい。)
子供の頃に青葉の父親は怪獣に殺された。自衛隊の幹部で。本部で指揮をとっていたが。戦局が過酷になると若手ばかり犠牲に出来るかと防衛前線にでずっぱりになり。民間人を庇って死んだ。
遺体とも呼べない残骸が父親だなんて思えなかった。でも、青葉の母親には。その残骸だけで十分だった。
十分すぎて青葉の母親は壊れた。青葉の母親は身体の線が細く繊細な心の持ち主で。父親の後を追うようにあっという間に病んで青葉を残して死んだ。
当時の青葉の頭に日に日に弱っていく母親の姿は焼き付いて離れなくなって。今の職に着くときには惚れるなら強い女だと青葉に思わせるようになった。
いつ死ぬか分からないのだから。一秒でも長く恋人と過ごしたい。だから惚れたら直ぐに告白する。
でも、青葉は言葉選びが壊滅的だった。青木に告白された女性は何時もとんでもなく怒るか、冷たい目で失笑して去っていく。
「どっかにオレ好みの女の子が落ちてないかなぁ···。」
非番の日。宿舎近くの図書館に青葉は行った。つい、最近。怪獣の被害で廃墟になったそこに何故か人の出入りがあると聞いて時間潰しついでに見回ることにしたからだ。
宇宙からやって来る謎の存在。侵略的地球外生命体。通称“怪獣”。なにを目的としているか不明だが。それは地球、更に言えば日本を中心に襲撃を繰り返した。
怪獣に襲撃された街は荒れているがそこで暮らす人々は居てクリスマスソングが聴こえてくる。
嗚呼、そういや今日はクリスマスか。青葉は頭に浮かべかけた幼い頃の記憶を頭を振って振り払い。白い息を吐くと胸に過った感傷を振り払うように歩を早めた。
「ああ、酷いな。瓦礫の山だな。こりゃ。」
散乱する瓦礫をひょいと越えてなかに入る。崩落した天井が差し込む光に埃がきらきらと舞うなかで。
少女めいた小柄な女が黙々と破損した書籍を吹き込む寒風に鼻の頭を赤くしながら修繕していた。胸には図書館の職員書。
「アンタ、この図書館の職員か。」
「!え、わっ!?ひゃああ!!鬼が出たァ?!」
「鬼じゃなくておにーさんでーす。いつ崩壊するか分からないから立ち入り禁止なはずなんだけど。なにしてんの、アンタ。」
「ほ、本の修繕です。」
「それは見りゃわかるけど。」
「自分に出来ることっていったらこれしか思い浮かばなかったから。修繕して。直した本を他の図書館に持っていくんです。あ、許可は貰ってます!」
館内で飲食は禁止なのでスタッフルームに場所を移し。持参したらしきボトルから紙コップにお茶を注ぎ。彼女は青葉に手渡した。ほうじ茶だ。何年も飲んでないなと口にする。
彼女が図書館で本を修繕していた時間だけ温くなったそれがやけに染みた。見るからに脆弱で。ひ弱そうな小さな女の子。
青葉の腹のところに頭の位置がある。なにもかも小造な彼女は青葉の手には小さすぎる紙コップを両手で持っている。
「私、このあけぼの図書館の職員で根津山志乃と言います。」
「根津山さんはどうして此処に?」
「本の修繕の為。先週からいます。」
「一人でずっとか。」
「ああ、今日は一人です。この近辺の立ち入り禁止が先週ようやく解除されて避難先の公民館から戻って来たら図書館は崩壊していて。復旧は人手もないから無理なことだとか。そのまま放置するとも聞いて。」
本だけでも運び出せないかって考えたんです。ただここ数日間。野晒しにされて痛んでたり壊れてたりして。
「運び出す前に修繕しなくちゃって。作業してました!もうすぐ雪が降るようになるし。」
「なんでそこまでするんだ、根津山さんは。」
「本は税金で。たくさんの人たちから少しずつ頂いたお金で購入されるんです。一冊足りとて粗雑に扱って良いものじゃありません。····というのは建前ですね。」
本が好きなんです。目を輝かせて本を読んでいる人たちも。
「小さな頃、私は身体が病弱で本だけが友達でした。本を読んでいるときだけは私はだれよりも自由で物語のなかに入って冒険出来た。本は私に夢を見させてくれたんです。だから私は沢山の本を読みました。それこそ毎日図書館に通い詰めて。」
本が好きだったから、自然と図書館の職員になっていました。でも、図書館が怪獣に破壊されて。
私たち職員は散り散りに他の図書館に行ったりしましたが。この図書館の本はどうなったのか。何時も気掛かりで。
「見に来てみたら酷い有り様でした。図書館も、本も。けれども私は怪獣に怒りを抱いても怪獣を倒したりは出来ない。振り上げた拳は怪獣を殴れない。でも本の修繕をすることなら出来る。お前が台無しにした本は直せる。人の営みは、夢は絶対に壊せないんだ。ざまあみろって。」
これは私なりの怪獣への意趣返しなんです。怪獣にも壊せないものがあるんだって証明したい。
「なんて、ちょっと子供っぽいですかね?あ、今日は一人で作業してますがなんとか生き残った職員仲間三人と一緒に修繕活動してますよ!」
彼女の目の奥に星が瞬いていてみえた。青葉はその日、志乃に自分の休みの日を伝え。その日にだけ志乃やその同僚が図書館で本の修繕をしたり、本の持ち出しをするように仕向けた。
口実は図書館のある地区は怪獣による襲撃が多発して危ないから。それは青葉の本心だったけど。
初めて会った日から青葉の胸の奥がなんだか熱く。志乃のことを考えるとその熱はより増していった。
(良い子だなー、本当。)
気づけば季節は初夏。相変わらず怪獣は街を襲い。WBCの隊員である青葉も仲間と前線で怪獣と戦い。休みになれば志乃に会うために崩壊した図書館に通っていた。
崩落した天井から柔らかな日差しが差し込むなか。青葉は志乃を眺める。
本を修繕する細やかな手の仕草。言葉選びが壊滅的な青葉の話をそれでも根気強く聞いてくれる真面目さ。
ふとしたときに見せるあどけないはにかみ。なにを食べて育ったらこんな良い子に出来あがるんだろうかと青葉は不思議に思う。
(砂糖菓子だとか、飴細工で出来てたとしてもたぶん驚かねぇわ。オレが抱き締めたら粉々に砕けちまいそうで怖いなーって。)
「青葉さん?」
「ナンデモナイデス。」
いま、抱き締めたいって思ったのか?青葉はバクバクと煩くなる心臓に百面相する。オレ、あの子といると可笑しくなっちまうと青葉はサクラに吐露した。
「別に青葉さんが可笑しいのはいまに始まったことじゃないですよね。」
「サクラ、お前オレに当たりが強くねーか??」
「好きな人にすぐに好きだと言える青葉さんを俺は尊敬してますけど。同じぐらい羨んでもいるんで。青葉さん、青葉さんが拘る強さには種類があるんです。これは俺の推しである敷島サンの持論ですけど。“肉体的”な強さと“精神的”な強さの二種類です。」
ずっと、青葉さんが好きになる人を見てきましたけれど。青葉さんが求めているのは本当は“精神的な強さ”を持った人なんじゃないかって俺は思うんです。
「自分が非力だと分かっているから自分に出来ることで怪獣と立ち向かう。それは立派な強さです。ほら、青葉さんが好きな強い女でしょう?青葉さんは別に可笑しくはなっていないですよ。青葉さんはちゃんと自分の好みの女性に惚れているんですから。」
「惚れてるって根津山さんにか?」
「どー、見ても。その根津山さんって人に惚れてるようにしか思えませんけど。」
青葉はじわじわと赤らむ顔を片手で覆う。自覚なかったんですか青葉さんとサクラは生暖かい目で見てくる。早くて志乃に会えるのは四日は先だ。青葉はそれまでに落ち着こうと思っていたのだけれども。
これっぽっちも落ち着かないどころか。会う日が近づく度に冬眠前の樋熊のようにそわそわとしていた。
「青葉さん。今日もよろしくお願いします。本の修繕はもうすぐ終わりそうです。あと少しだけ手を貸してください。あ、今日は青葉さんの分も軽食を作ってきてあるのでお昼になったら一緒に食べましょうね!」
「根津山さん、オレと同じ墓に入ってくれませんか。」
本の修繕が終われば志乃に会う口実がなくなる。そう理解した瞬間、焦った青葉の口から飛び出た言葉。今のは青葉でも解る。言葉選びをすさまじく間違えたと。
本の修繕が終わっても志乃と一緒に居たい。けれどもそれを伝えたくて頭をこね繰り回した結果。オーバーヒートして青葉の言語中枢はバグった。
わたわたと青ざめる青葉は。けれども目をパチリと瞬かせ。眉を八の字に下げて顔を真っ赤にして。そういうのはまだ早いと思いますと作業着のエプロンをぎゅっと掴む志乃にどうしようもなく愛しさが募った。
まだ早いと言うことは青葉とそういう関係になっても良いと思ってくれたということか。ああ、顔がにやける。口がむずむずとして笑みが勝手に浮かんでくる。
「オレ、根津山さんのことをこれから全力で口説くよ。たぶん逃がしてあげられないと思う。オレ、自分が思っているよりも重たい男だったみたいでさ。根津山さんのことを捕まえたくて堪らないみたいなんだ。」
「お、お手柔らかに頼みます。出来ればで良いので。」
戦隊ヒーローと一般人の恋物語Ⅱ
【キミのこと逃がしてあげられそうにないんだ。】