28.冷遇令嬢は父と義妹に幸せを見せる
優雅に微笑み合いながら、エイナル様とステップを踏む。
中央のダンスエリアを取り囲む、多くのテーブルからは、感嘆と称賛のため息が聞こえてくる。
19歳にして敵国の王から賜った、わたしのデビュタント。
「申し訳ない……。招待した訳でもないのに、国王陛下主催の場に押し掛けられ、最終的にはユッテ殿下がご対応くださったのだが……」
と、エイナル様が、囁かれた。
視線の先には、大広間の隅に座る、父と義妹フランシスカの姿がある。
「いえ……、家族が迷惑を」
「よもや、ユッテ殿下を押し切ってしまうとは……」
「エイナル様も、お会いになられたのですか?」
「……はい。コルネリア殿がドレスに着替えられている間に」
「父と義妹は、なんと?」
「……娘のデビュタントをエスコートするのは、父の役目であると」
「ふふっ」
思わず、笑ってしまった。
「……わが国王陛下の裁可も降りた、ボクのエスコートを変えることは出来ないと断ったのですが」
父と義妹の存在に気付いた母国の宰相閣下が、顔色を変えて、ふたりを睨んでいる。
祝いの席に、その表情は相応しくありませんわよ? 宰相閣下。
と、冷静な自分に、かるい驚きがある。
「エイナル様?」
「……はい」
「娘の幸せな姿を見せられるのは、最高の親孝行ではありませんか?」
「仰る通りですね」
エイナル様は、堅く握り締めていたわたしの手を、柔らかく包み直してくださった。
「わたしは、エイナル様を信じておりますわ」
「……嬉しいな。とても」
微笑みを交わし、エイナル様のリードに合わせ、軽やかにステップを踏む。
遠くに座る父とフランシスカが、どんな表情をしているかまでは窺えない。
フランシスカは落ち着いた色のドレスを着ているし、騒ぎを起こして他国の王が主催する席を台無しにする度胸はないだろう。
所詮は、高い壁に護られていればこそ、わたしに高慢にふる舞えただけだ。
「エイナル様。今日はとても踊りやすいですわ」
「ボクもだよ。コルネリア殿は華やかな場でこそ、より輝きを増されることだろうと思っていた」
「まあ、お上手ね」
「いまさら、コルネリア殿に世辞など言わないよ? 全部、本当のことだ」
やがて、王宮楽団の奏でる旋律が情熱的に盛り上がり、ふわりとターンしたわたしが、エイナル様の胸に収められた。
万雷の拍手に包まれ、ふたりでゆったりと四方にお辞儀をして応える。
国王陛下の御前へと進み、わたしたちが拝礼を捧げると、拍手が鳴り止んだ。
「コルネリア。そなたにデビュタントを贈れたこと、余は光栄に思うぞ」
「生涯忘れ得ぬもったいなきお言葉を賜り、これに勝る栄誉はございません」
「今日の佳き日、そなたを大河伯に任じられることは、わがリレダル王国発展の礎となろう」
「ますますもって、身の引き締まる思い。国王陛下のため、リレダル王国すべての民のため、そして大河流域国家すべてのために、全力を尽くさせていただきます」
そして、王妃陛下の手によって、わたしの胸に、大河伯の徽章をつけていただく。
ふり返ると、大広間を埋め尽くす、多くの招待客の皆さまから、ふたたび万雷の拍手が贈られた。
隣に立つエイナル様も、わたしに拍手を贈ってくださる。
現時点においてはご自身より高い役職に就いてしまったわたしに、満面の笑みで惜しみない祝福を贈ってくださる。敬意を表してくださる。
わたしの夫となる方は、なんと度量の大きなお方なのだろうか。
惚れ惚れする。
はやく結婚して、抱き締めてもらいたい。抱き締めてさし上げたい。
そして、国王陛下が、王太子フェルディナン殿下とカーナ様を、わたしたちの隣に招き入れられ、おふたりの婚約を正式に布告された。
祝福の拍手に、頬を赤くされるカーナ様。
長年募らせた想いを叶えられたフェルディナン殿下も、感無量というご表情で拍手に応えられる。
かつて、リレダル王国の王立学院で、エイナル様が学ばれていた最終学年。
同級生にはクラウス伯爵がいて、ひとつ下にカーナ様。そのひとつ下にフェルディナン殿下がいらっしゃった。
なんと華やかな学園生活であられたことかと、想像するだけで胸が躍る。ウキウキしてしまう。
青春の淡く切なく激しい恋模様のなかに、わたしまで混ぜてもらったようで、甘酸っぱい気持ちでいっぱいになる。
さらに、国王陛下はカーナ様の弟君セヴェリン様と、婚約者のリサ様も招き入れられた。
「王家、ソルダル大公家、ホイヴェルク公爵家。王国の次代を担う若者たちは、かくも輝かしい。バーテルランドより聡明で美しく有能な夫人を迎え、リレダルの未来は盤石である」
国王陛下のお言葉に、みな様が立ち上がられ、さらに割れんばかりの拍手が贈られた。
カーナ様、リサ様と微笑み合い、カーテシーの礼で皆さまからの祝福に応える。
わたしのデビュタントは晩餐会に移り、第一王女ユッテ殿下のお隣に腰を降ろす。
「私が、王家の大河伯取次となったのだ」
「それは……」
「うむ。おめでとうございます、……で、間違っておらんぞ? 私にとって、初めてのお役だからな」
と、胸を張り、得意げに顔を上げられるユッテ殿下は可愛らしくも微笑ましい。
アゴをタプタプさせてほしい。
「はい。おめでとうございます、ユッテ殿下」
「王国初の女大河伯……、ん? 大河女伯か? ともかく、コルネリアの取次には王女である私が相応しいだろうということになったのだ!」
「そうでしたか」
「こう見えて張り切っておる! よろしく頼むぞ、コルネリア大河伯閣下!」
気品あるお顔立ちながら、幼さの残るユッテ殿下は15歳。
どう見ても張り切っておられるけれど、既にお役を担わなくてはならないとは、王家にあられるお方の重責は計り知れない。
わたしにテーブルの中央を譲り、エイナル様と挟んでお座りくださる。
「そなたのデビュタントではないか!」
と、気持ちよく笑われ、飾られるところのないご気性に、これから待ち受ける日々への期待がウキウキと高まる。
贅を尽くした料理が次々に供され、舌鼓を打った。
ただ、晩餐会のあとはダンスパーティ。
満腹にならない程度の美味絶品が、程よく舌と目と鼻を楽しませてくれる。
やがて、王国中の貴族や名士たちが、わたしに挨拶しようと列をつくった。
これからわたしは大河伯として、彼らの治める領地に訪れ、河川政策の指揮を執らなくてはならない。
丁寧に接し、協力を求める。
王都で夫人教育を受ける母国のご令嬢が3人、わたしに挨拶に来てくださり、遠く異国の地で、今後の交誼を約束した。
そして、青ざめた顔に引きつった笑みを浮かべた父と義妹フランシスカが、わたしの前に姿を見せた。
本日の更新は以上になります。
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