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第一話 誕生

 男が目を覚ますと、そこは暗闇だった。土の湿った感触が肌にまとわりつき、重苦しい静寂(せいじゃく)が耳を覆う。


 やがて、不快感(ふかいかん)が押し寄せた。ゆっくりと手を動かし、指先を伸ばす。土の層は思ったよりも薄く、すぐに冷たい空気が触れた。力を込めて腕を突き出すと、ざらついた木の根が絡みつく。


 頭上には、一本の大木(たいぼく)があった。


 幹はねじれ、古の呪いに(むしば)まれたかのように黒ずみ、朽ちた枝が空へと伸びていた。


 辺りを見渡すと頭上にある大木以外は、何もなく、荒涼(こうりょう)とした大地が広がっていた。風はなく、空には太陽もない。ただ、遠くで(かす)かな鐘の音が響く。


「……よ、ようやく……目覚めましたかな………。」


 男の背後から、低くかすれた声が響いた。男は振り返り、ゆっくりと朽ちた大木の向こうへと歩を進める。


 痩せ細った男が力なく木にもたれかかっていたのであった。


 その男は、ボロ布のような外套(がいとう)をまとい、(むくろ)のごとき顔をしていた。

 

「……私は、貴方様に…お、お使え……するものでございます…。」


 その声は、まるで(くち)ちた鐘の音のように低く響く。



「ここは、どこだ。」


 男は、聞いた。


「……この地は…サムサリカと………い、言われる地……でございます。」


「私は、何故ここにいる」


「………貴方様には……し、使命があるのでございます……。」


「……現在、この世界は……忌まわしきフィオロンの手により……時が止まり……亡者どもが……ああ、無惨にも溢れかえり……世界は……崩壊の道を辿り始めております……。」


「……どうか……どうか、貴方様には……フィオロンが持つとされる……【レッドリング】を…奪い……この……世界を……元の姿へと……戻していただきたいのでございます……。」


 痩せ細った男は、途切れ途切れにその様な事を言った。


「これを…。」


 痩せ細った男は、力なく震える手を全裸の男の前に差し出した。その手から微弱(びじゃく)な光が漏れ、空気がひんやりと冷たくなる。


 やがて、男の体を取り巻く光が強くなり、周囲の空間がゆがむ。辺りがすべてを()()むかのような光で満ち溢れる。


 再び、光が弱くなった頃には、裸だった男は、男は全身を(おお)う黒い鎧を(まと)っていた。


「……私には……こんなことしか……できません……申し訳……ございません……。」


 痩せ細った男は、ある方向を指さして言った。


「ここを……真っすぐ行くと……ニルヴァニカと言う場所……がございます。」


「そこにいる…女王アナンダ様は……貴方様に………力を貸して…くださるでしょう。」


「どうか…どうか…この世界をお救いください。」


 痩せ細った男の命の(ともしび)が徐々に弱まっているのが見て取れた。


「デミ……様……」


 男の声は、かすかな囁きのように響く。まるで最後の力を振り絞るように、男の名前を呼んだ。


 その瞬間――痩せ細った男はその言葉を最後に、崩れ落ちるようにして、塵となって消えていった。


「デミ」どうやら、それが男の名前のようだった。


 再び世界は静寂に包まれた。


 デミは、歩き出した。ニルヴァニカを目指して。

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