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童話類

試験と車内と緊張と

掲載日:2025/02/01




 ぼくは今日、私立中学の入試を受けに行く。

(しっかり勉強してきたんだ。受かるはず)

 自分にそう言い聞かせる。

「学校まで送っていこうか?」

 お父さんの好意に甘えぼくは車に乗り込む。

 するとお母さんと妹まで乗り込んできた。

「お母さんも心配だから」

「わたしもー」

 見れば妹はお姉ちゃんの写真立てを手にしている。

 お姉ちゃんは高校を卒業し専門学校に進学した。

(家族全員で行くのか。プレッシャーだなあ)

「お姉ちゃんが通学してたし試験対策は万全よね?」

 余計プレッシャーがかかりぼくは固まる。

「緊張し過ぎだぞ。リラックスリラックス」

 お父さんがぼくの肩をもむ。

 

「試験は自分との戦いだ。今日までの自分を信じろ」

「自分?戦う相手は同じ試験を受ける子でしょ?」

 お父さんに対してぼくは意見を述べる。

 

「そうだね、入学できる人数は確かに決まってる」

「だったらどうしてそんなこと言うの?」

「みんな仲間よ。入学って同じ目標を持つ仲間」

 お母さんもお父さんの言葉に乗ってきた。

「人と戦う時代は終わったのさ」

「これからは自分や目標と戦えってこと?」

「そういうことになるかな」

 ぼくの肩をもみ終えお父さんは運転席に向かう。

 

「敵も味方も自分の心が作り出すものさ」


(きれいごとじゃん。そんなの)

 お父さんの話を聞きながらぼくは感じた。

 

「それとも入学したあとも競い続けるかい?」

「みんな仲良く。前に教わったでしょ?」

 お父さんのあとにお母さんの言葉が続く。

()()って(とうと)しと()すでしょ」

 聖徳太子の言葉でぼくはぼくの意思を伝える。

雪上(せつじょう)(しも)を加えるかな、この場合」

付和雷同(ふわらいどう)もよさそうね。昔の人なら」

 ことわざと四字熟語が飛び交う。

 

「協調と同調をごっちゃにしてるってことさ」

 お父さんはそう締めくくり車のエンジンをかける。


   ☆   ☆   ☆


「同調圧力ってのが昔あってね」

 試験会場に向かう中お母さんが話しかけてきた。

「左利きの人も右利きに矯正(きょうせい)させられてたの」

 お母さんは会話を続ける。

「右向け右って考えで同じものを作り出してたのよ」

 お父さんの様子をバックミラーからうかがう。

 遠い目をして車を運転していた。

 

「今は個性の時代。左利きなら左利きでいいの」

 時代は変わっていくものよとお母さんの話は続く。

「協調しても従うかはケースバイケースってこと?」

「そうね。そういうことになるわね」

 お母さんは嬉しそうに答えてくれた。


 交差点に入り車はウインカーを出してとまる。

「なら戦うのは自分自身ってのは?」

「合格のために努力してきたかってことさ」

 ぼくの問いかけにお父さんが口を開く。

「インプットとアウトプット、わかるよな?」

「うん。授業で見て聞いて書く」

「そして家に帰って復習してぐっすり休む」

 それが記憶のコツとお父さんから教わった。

「土日で一週間の総復習とか月のまとめもやったよ」

「それなら大丈夫ね。これを渡しとくね」

 ぼくはクーラーバックをお母さんから受け取る。

「お母さん手作りのブドウ糖ゼリーよ」

「ブドウ糖?」

「脳は1時間で5gのブドウ糖を使うのよ」


   ☆   ☆   ★


「ありがとうお母さん。筆記試験の前に食べるよ」

「面接前にトイレへ行けたら行こうな」

 交差点の信号が赤に変わり矢印が表示された。

「気分転換に体を動かすことも大切だから」

「うん。ストレッチしながら行くことにするよ」

 車はゆっくり進みお父さんはハンドルを右に切る。

 

「そういえばお父さんは営業なんでしょ?」

 次の交差点の信号待ちでお父さんに話しかけた。

「そうだよ。それが試験となにか関係あるのかい?」

「面接のコツってある?」

 筆記試験のあとには面接がある。

 (わら)にもすがる思いでお父さんに聞いてみた。

「そうだな……自分を商品と見立てることかな」


「商品?」

 ぼくはオウム返しに聞き返す。

「自分のことを知っているのは誰だい?」

「取扱説明書みたいに話せばいいのかな……」

「そこらへんは任せるよ」

「そもそも営業ってどんなことやるの?」

「相手に電話して会話してサインもらうことかな」

 お父さんはぼくの質問に簡単に答えてくれた。

(それってかなり大変な気がする……)

「ようは学校のプレゼンテーションと一緒だよ」

 お父さんは悩むぼくにヒントを出す。

「学校のプレゼン?」

「そう。学校の発表とか手をあげて答えるとか」

「あれもプレゼンなの?」


 初めて知ったぼくは驚きの声をあげる。

「授業参観もプレッシャーに慣れるためよ」

 信号が青になり車は発進する。

 お父さんに代わりお母さんの言葉が続く。

 

「学級委員や生徒会の経験も役立つわ」

 幸いぼくにはどちらも経験がある。

 それらがぼくの気を少し楽にしてくれた。

 

「ありがとうお父さんお母さん」

 ぼくはお礼を言って話を続ける。

「やっぱ営業は会社の顔なだけあるね」

 

 お父さんは車のウインカーを左に出す。

 車をとめてハザードランプのボタンを押した。

 

「そうだね。営業も会社の顔のひとつだね」

 お父さんは言葉を選ぶ感じでぼくに告げる。

(なにか怒らせるようなこと言ったかな?)


   ☆   ★   ★


「例えばエアコンから水漏れがあったとしよう」

 お父さんが一例をあげた。

「この時修理する人は会社の看板を背負ってるんだ」

「レストランの料理人も一緒よね」

「みんな一緒だよ。会社に利益を出す点においては」

 お父さんが車を止めた意味を悟る。

「まあこれは社会に出てから知ることだからね」

 お父さんに向けて話すお母さんにぼくは救われた。

 

「行動を正しただけさ」

 お父さんはそう言うとハザードランプを消す。

 ウインカーを右に出し車道に戻る時期を見計らう。

「車の運転もコミュニケーションだからね」

 タイミングを合わせて車は道に戻り走り出す。

 

「まだまだだなあ」

 覚えることが多いとぼくはつぶやく。

「だいじょうぶだってお兄ちゃん」

 チャイルドシートに座る妹が会話に参加してきた。

「しゃかいにでてるじかんのが長いもん」

 いわれてみればとぼくは気づく。

「そうね。学校で学び損ねたら社会で学ぼうね」

 お母さんからも賛成の声が出る。

「昔は詰込み型だったらしいからね」

「そうなの?」

「ええ。余裕を持った教育になったのは最近なの」

 ズレを合わせるのに大変だったとお母さんは言う。

「そうなんだ。ありがとう」

 ぼくは妹にお礼を言って頭をなでる。

 

「ところで静かにしてるのはなにかあったの?」

 おしゃべりが得意な妹が最近静かだった。

 それが気になってぼくは妹に聞いてみる。

「お兄ちゃんのおうえんなの!」

「応援?」

「そう!静かに見守るのも応援ってお母さんが!」

「本音は?」

「しけんびまでしずかならローラーシューズなの!」

 ぼくは得心がいった。

「おかあさん……」

「あら?お姉ちゃんが試験のときもやったでしょ?」

「あ」

 いわれてぼくは思い出した。

(ロボット買ってもらえるから静かにしてたなあ)


「約束は守るものよ」

 自分に言い聞かせる感じでお母さんはぼくに言う。

 

「面接はリアクションも見るからね」

 お母さんは話を面接に戻す。

「短所もひっくり返せば長所になるからね」

「忘れっぽいとかはどうなるの?」

「切り替えが早いになるかな」

 目の前の信号が黄色に変わり車は速度を落とす。

「対策も練るんだぞ。忘れっぽいならどうする?」

 お父さんがぼくに問う。

「メモを取る?」

「それも正解。ほかには?」

「え?えーと……」


 ぼくは言葉に詰まる。

「そういうところを見るからね。試験官は」

「復唱したりやる前に確認を取ったりもあるぞ」

 

「答えはひとつだけってのは視野が狭くなるからね」

「うん。国語力大切にするよ」

「それでいい。お、見えてきたぞ」

 お父さんの声にぼくは周囲を見渡す。

 中学校と駐車場への案内の看板が見えてきた。

 

 案内係の人に従い、車は駐車場に止まる。

「ありがとう。行ってきます」

 車の中でいろんなことを教わった。

 一つひとつ復唱しつつ試験会場へ足を運んでいく。


   ★   ★   ★


 後日、試験結果が届き春の到来を教えてくれた。


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