第3話《ダック》
タナトスがこの世界に来てから、森のなかを開拓して居住区を作った。
少しずつ文明の利器を取り入れて、住みやすくするに連れて、各地から獣人族が集まってくるようになった。
今ではタナトスは獣人族の王として、慕われるようになっている。前世では恐れられていたのが、本当に不思議なくらいである。妻を娶り、子を為すなど考えられぬことであった。
「獣王さま、お出かけでございやすか?」
アヒル族のダックが、陽気なテンションで声を掛けてくる。彼はラップをこよなく愛している。МCダックは、森の若者たちの憧れの存在だ。
「狩りに行ってくる。昼から、また宴会やな?」
「それは、楽しみだべ。オラさ、皆に声さ掛けとくわ!」
ダックはラッパーだが、普段はめちゃくちゃ訛っている。
「ドン兄ちゃん、競争なんに!」
「僕、負けんに!」
ドンキーとゴンゾウが、唐突に走り出した。
何とも気の早い兄弟だ。
ふたりの足元に、光りの魔法陣――詠唱陣が生まれた。
錬術を組むには通常、手で印を結んで、呪文を詠唱する必要があった。ふたりは天才的な才能を以ってして、そのどちらも取っ払ってしまう。
七歳にして、天才である。