表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

愛故に、

作者: ハツカ


ふわりと白いカーテンが、冷たい風になびく。

そちらへ視線をやれば、美しく透き通った空が、私の視線を奪った。

どこまでも澄み渡るこの空は、彼の元まで続いている。

そう思うと、私の胸はぎゅっと締め付けられ、愛が溢れ出す。


「...会いたい、なぁ」


タイミングよく鳴った通知へ目をやると、彼からのメッセージが届いていた。

大好きな彼。愛しの彼。絶対に手放したくないと思えるほどに愛する相手。

彼を思う度に、もう二度とは失いたくないという恐怖に私の心は縛られる。

「大好きだよ」なんて可愛らしいメッセージを送る彼に、こちらも「大好きだよ」と送り返す。


_所詮、私たちは遠距離恋愛と呼ばれる恋愛をしていた。


もともと知り合ったのがインターネットということもあり、遠く離れて、こうして連絡を取り合うのだ。

そばにいられないのは寂しく、悲しいことだが、いつか会える日を夢見て今日も生きるのだ。

彼も同じか、なんてわかるはずもないけれど。根拠なく信じる。

大好きだから。愛しているから。幸せになってほしいから。


Xを覗いて、連絡を取り合って、通話をして。それが日常になる。

連絡を取り合うことが、声を聴けることが、たまらなく幸せだった。

どこまでいっても、私が彼にかなうことなんてなくて。

けれど、そんな関係がたまらなく愛おしくて。


この日常がずっと続けばいいのに、なんて思うのは、少々フィクションじみているだろうか。




---------------------




けほ、こほと咳が出る。ごほげほと咳をする声が聞こえる。

彼のする咳が、たまらなく恐ろしかった。


咳が、昔を彷彿とさせる。昔の記憶を蘇らせる。


大好きな父が、咳をしている。大好きな父がだんだんと弱っていっているように見える。

やがて、父のそばには誰も居なくなって____父は、独りで死んでいった。

死を聞いたときは、現実味がなかった。嘘だ、なんて言葉なんかでなくて、静かに泣いていた。

そのころから、病気が、死が、怖くなった。

そして、自分は手の届く範囲しか見えず、助けになれないのだと悟った。


だから、今だって恐ろしい。いつだって死に怯えている。

人は簡単に死ぬのだ。病気という、自然に抗えず、ぽっくりと逝ってしまうのだ。

どんな時でも眠くなる体に怯える。こほこほとする咳に怯える。どこまでいっても空虚な心に怯える。

どんな言葉をかけられても微動だにしないこの心は、きっと壊れているのだろう。

けれど、彼を愛しているという気持ちは、真実であることは間違いなかった。


だからこそ、私は言うのだ。

「大丈夫だよ」なんて、自分にも他人にも配慮されない言葉を、軽々しく口にする。

にっこりと、笑えない目だけを残して、微笑むのだ。

大好きな人が、笑ってくれるように。大好きな人が、幸せでいてくれることを願って。







愛故に、自分を傷つけるのだ。


愛故に、自分に蓋をするのだ。


愛故に、愛故に、愛故に...




どこの誰かも知れないが、あなたの大好きな人が、幸せに笑えますように。



行き過ぎた愛にはご注意。

何事も、相手を知り、節度を持つことが大事。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ