愛故に、
ふわりと白いカーテンが、冷たい風になびく。
そちらへ視線をやれば、美しく透き通った空が、私の視線を奪った。
どこまでも澄み渡るこの空は、彼の元まで続いている。
そう思うと、私の胸はぎゅっと締め付けられ、愛が溢れ出す。
「...会いたい、なぁ」
タイミングよく鳴った通知へ目をやると、彼からのメッセージが届いていた。
大好きな彼。愛しの彼。絶対に手放したくないと思えるほどに愛する相手。
彼を思う度に、もう二度とは失いたくないという恐怖に私の心は縛られる。
「大好きだよ」なんて可愛らしいメッセージを送る彼に、こちらも「大好きだよ」と送り返す。
_所詮、私たちは遠距離恋愛と呼ばれる恋愛をしていた。
もともと知り合ったのがインターネットということもあり、遠く離れて、こうして連絡を取り合うのだ。
そばにいられないのは寂しく、悲しいことだが、いつか会える日を夢見て今日も生きるのだ。
彼も同じか、なんてわかるはずもないけれど。根拠なく信じる。
大好きだから。愛しているから。幸せになってほしいから。
Xを覗いて、連絡を取り合って、通話をして。それが日常になる。
連絡を取り合うことが、声を聴けることが、たまらなく幸せだった。
どこまでいっても、私が彼にかなうことなんてなくて。
けれど、そんな関係がたまらなく愛おしくて。
この日常がずっと続けばいいのに、なんて思うのは、少々フィクションじみているだろうか。
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けほ、こほと咳が出る。ごほげほと咳をする声が聞こえる。
彼のする咳が、たまらなく恐ろしかった。
咳が、昔を彷彿とさせる。昔の記憶を蘇らせる。
大好きな父が、咳をしている。大好きな父がだんだんと弱っていっているように見える。
やがて、父のそばには誰も居なくなって____父は、独りで死んでいった。
死を聞いたときは、現実味がなかった。嘘だ、なんて言葉なんかでなくて、静かに泣いていた。
そのころから、病気が、死が、怖くなった。
そして、自分は手の届く範囲しか見えず、助けになれないのだと悟った。
だから、今だって恐ろしい。いつだって死に怯えている。
人は簡単に死ぬのだ。病気という、自然に抗えず、ぽっくりと逝ってしまうのだ。
どんな時でも眠くなる体に怯える。こほこほとする咳に怯える。どこまでいっても空虚な心に怯える。
どんな言葉をかけられても微動だにしないこの心は、きっと壊れているのだろう。
けれど、彼を愛しているという気持ちは、真実であることは間違いなかった。
だからこそ、私は言うのだ。
「大丈夫だよ」なんて、自分にも他人にも配慮されない言葉を、軽々しく口にする。
にっこりと、笑えない目だけを残して、微笑むのだ。
大好きな人が、笑ってくれるように。大好きな人が、幸せでいてくれることを願って。
愛故に、自分を傷つけるのだ。
愛故に、自分に蓋をするのだ。
愛故に、愛故に、愛故に...
どこの誰かも知れないが、あなたの大好きな人が、幸せに笑えますように。
行き過ぎた愛にはご注意。
何事も、相手を知り、節度を持つことが大事。