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クリスティナ嬢は何処へいった?


 次の日の朝、朝食後にレオンはマルゴットに話しかけた。


「マルゴット、今日こそはクリスティナ嬢に会いたいのだが」


「レオン様、まだクリスティナ様は気持ちが落ち着いていらっしゃらないようです。もう少し待たれてはいかがですか?」


「いや、俺も仕事が一段落したし、クリスティナ嬢に父上が無理に連れてきてしまったことを謝りたいんだ。誠心誠意謝ればきっとわかってくれると思う。それに今なら時間が取れるからこの領地を案内したいんだ。この地のいいところを知ってもらいたい。

 とにかく今日は一日待っているからもう一度クリスティナ嬢を説得してきて欲しい」


「……かしこまりました」


 マルゴットは静かに退出していった。


 部屋で待つ間、レオンはクリスティナ嬢に思いを巡らせた。


 父上が王都から急に戻ってきてお前の婚約者だとクリスティナ嬢を紹介されたときは驚いた。

 父上の隣のくたびれ切った令嬢がクリスティナ嬢だとは思いもよらなかった。最初は女性だと気づかなかったほどだ。

 しかしクリスティナ嬢の名前は知っていた。友人のダイラスが学生時代時折妹のことを口にしていたからだ。彼が妹を愛していることはその口調で分かったし、会ったことのない妹にも好印象は持っていた。


 どんな女性なんだろう?初対面の時のくたびれた様子はもう癒されているはずだ。

 マルゴットには何も不自由がないように十分なもてなしをするよう指示を出したから、荒れた髪や肌も整えられているだろう。

 クリスティナ嬢の姿を想像したとき、ふとティナの顔が浮かんだ。

 紅茶を褒めたときの照れたような嬉しそうな笑顔。書類に向き合う真剣な横顔。


 俺は何を考えているんだ。


 慌ててその顔を打ち消す。今はクリスティナ嬢のことについて考えていたはずだ。

 もう一度クリスティナ嬢に思いを馳せるが浮かんでくるのはティナの顔だ。


 レオンはティナの顔を打ち消し続けていた。






 その頃私はケイトとコニーと一緒に物置の掃除に精を出していた。


 使われなくなった家具などが置かれた物置は毎日ではないが定期的に埃を払ったりするらしい。

 閉じ込められていた部屋に戻るか戻らないか悩んでいたが、戻らない一択になりそうだ。

 マルゴットが来ないのだ。


 今までは午前中にマルゴットが私のところに来て鍵を渡す。夜、その日の報告をして鍵を返す。と言う流れだった。

 昨晩は毎日泣いていると言っても不自然だと思い「いろいろ話しかけられたけど無視しました」と言ってみたが、「その調子で頑張りなさい」と言われただけだった。


 マルゴットが忙しいのだろうか?とも考えたがとにかく鍵がないことには部屋に入れない。部屋の窓を開けておけば木を登って入れたのに、とは思うが後の祭りである。

 ケイトに聞いてみた。


「ねえ、今日マルゴットメイド長ってお忙しいのかしら?」


「さあ?陰険おばさんの顔を見なくて済むなら嬉しいけど」


 ケイトの言い方に笑ってしまった。ケイトは更に続けた。


「マルゴットメイド長はお貴族様だから偉ぶっているのよ」


「え?そうなの?」確かにあの立ち居振る舞いは貴族のものかもしれない。


「私がまだここに来る前なんだけど亡くなられた奥様の侍女をしてたんだって」


 亡くなられた奥様と言うのはゴットフラム大公の夫人、レオン様のお母様のことだろう。


「二年前、シンディ様が嫁がれるまではシンディ様の侍女だったからもっと偉そうだったわよ」


 マルゴットの意外な過去は知ることができたが、現在のマルゴットの居場所はわからない。

 諦めて、私は掃除に精を出した。








 もうすぐ昼になろうかと言う時刻、レオンの部屋のドアがノックされた。


 許可を出すと入ってきたのはエマだ。

 エマはマルゴットの補佐のような立場で主に下働きのメイドたちをまとめている。


「あの、レオン様、お客様が見えられたのですが」


「客?来客の予定なんてあったかな?」


「それはわかりませんが、アルフォード侯爵家の者だと仰ってますが」


 レオンは吃驚して指示を出す。


「すぐに応接室にお通しして。もてなしの準備も。俺もすぐに向かう。

 ああ、それからノアとマルゴットを呼んでくれ」


 レオンは身支度を整え、応接室に向かった。



 応接室に入るとソファーに座っていた二人が立ち上がった。


「レオン・ゴットフラム様でいらっしゃいますか?」


「そうです。そちらは?」


「私、アルフォード侯爵家の家令を務めております、モーガン・エクトルと申します。

 こちらはお嬢様のお世話をするために連れてまいりました侍女のアイリス・ブランシュです」


 そう言って二人は深々とお辞儀をした。


 レオンはホッとしたような気分で二人に腰掛けるよう勧めた。


「遠いところをいらしていただいてありがとうございます。この度は父が無理を言ってクリスティナ嬢をお連れしたようで、さぞ驚かれたことでしょう」


「はい。当家といたしましても旦那様、奥様が隣国へ行ってらっしゃいますので判断がつかず。至急手紙でお知らせは致しましたが。

 ただ、ご子息のダイラス様が了承されましたので急ぎ準備を整えこちらに伺った次第でございます。

 ダイラス様がこちらへ伺うのが筋かもしれませんが、王都でお仕事もあり、またゴットフラム大公が王都に戻っていらっしゃるとのことでしたので急遽私が侍女を伴いこちらに伺わせていただきました」


「あの、お嬢様はどちらに?お元気にしていらっしゃいますか?」


 家令のモーガンに続く侍女の言葉に後ろめたい気分になりながらレオンは言った。


「申し訳ないことながら、クリスティナ嬢は少々気分を害してしまったようで……ですがお二人が見えられたとわかれば喜んでくれるでしょう」


 部屋の隅に控えていたエマに指示を出す。


「クリスティナ嬢を呼んできてくれないか?」


 ところがエマはポカンとするばかりだ。


「レオン様、どなたを呼んでくればよろしいのでしょう?」


「クリスティナ嬢だよ。父上と一緒にここにやってきて滞在している令嬢だ」


「……あの……申し訳ありません。私は存じ上げません」


 はぁ!?レオンは驚愕した。マルゴットしか近寄らせないと言ってもベッドメイクや部屋の掃除、お世話をするのにメイドたちの手は必要だ。エマが把握していないなどということがあるのだろうか?


 アルフォード侯爵家からやってきた二人は怪訝な顔をしている。


「エマ、君が把握していないならお世話していた者を至急呼んでくれ。それとマルゴットに早くここに来るよう言ってくれ」


 焦って指示を出す。

 エマが慌てふためいて出ていった後、ノアが入ってきた。

 暢気そうにアルフォード侯爵家の二人と挨拶を交わそうとしたが、事情を聞いて仰天する。


 しばらくしてエマが男性使用人頭のトマスを連れて戻ってきた。


 二人の話では、クリスティナ嬢のことは使用人一同把握していなかったとのこと。滞在していることを把握していなかったのだ。

 それからマルゴットがどこを探しても見当たらないと報告してきた。



 どうしてこうなった?

 

 


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