お祭りで将来を誓う
最終話です。
次の日の早朝、アルフォード侯爵邸の前に二台の馬車と馬に乗った数人の騎士たちが着いた。
迎えた私とアイリスは準備万端だ。
「お父様、お母様、お兄様、行ってまいります。あちらが落ち着いたらまた帰ってきますね」
「アルフォード侯爵、夫人、クリスティナ嬢をお預かりします。彼女を心身ともにしっかりお守りします」
お父様、お母様、お兄様とハグをする。そうして私はレオン様の手を借りて馬車に乗った。
目指すは辺境の地、私がこれから生きていく場所。特産祭りの日まであと八日。
バトレンゼに着いたのはお祭り前日の夕方だった。
お祭りは明日から一週間の予定だ。
当初の予定より長く王都に滞在することになってしまった私たちは心配だったので屋敷に帰るより先にバトレンゼの公園に向かった。
馬車の窓から公園の広場に建つ色とりどりのバオが見えた。
凄い!色とりどりのバオは遠目にもお洒落で可愛くてワクワクした。
公園の入り口で馬車を降りる。
入り口には大きなアーチが立てられお祭り気分を否が応でもかきたてる。
「「おお~い!レオン様~~!ティナ様~~!おかえりなさ~~い」」
広場の方から実行委員のラルフ達が駆けて来た。
「ラルフ、みんなも準備を任せちゃってごめんね」
私の言葉にラルフは鼻の頭を擦りながら答えた。
「俺たちはなんも……」
ラルフ達はみんなで顔を見合わせて照れている。
「それより早く広場に来てくださいよ!」
みんなに急かされてレオン様やノア様と広場に向かった。
「わあ……!!」
広場に色とりどりのバオが沢山立っている。色彩豊かなだけでなく入り口や看板などそれぞれ工夫が凝らされ見ていて飽きない。
それぞれのバオには沢山の人が出入りしていて明日の準備に忙しそうだった。
特産品等の商品を運んだ荷馬車もひっきりなしに出入りしている。
広場の中央には円形のステージまで作られていた。
「大事な時期に留守にしてしまって済まなかった。よくここまで作り上げてくれた。みんな頑張ったな」
レオン様が頭を下げたので、私も一緒に下げた。
「やめてください!レオン様とティナ様が今まで頑張ってくれたから俺らは仕上げをしただけです」
領内の町や村から出店のために来ていた人たちも近づいてきた。
「皆、遅くまでご苦労様。なにか不自由はないか?」レオン様が問いかける。
「とんでもねえです。泊る所も世話してもらって、食事も出してもらって。凄くありがてえです。それに俺らとても楽しくて。今まで同じ領民なのに知らなかった人たちともいっぺえ知り合いになれたんです。良い事尽くめです」
泊る所は領主のお屋敷の敷地内の宿泊所を提供していた。お屋敷の高い塀の中には国境騎士団の営舎や訓練場だけでなく有事の際に領民を避難させるような宿泊できる施設が建っていた。そこを提供したのだが、食事は……?
「ああ、それはバトレンゼの人達です」
実行委員の一人が言った。バトレンゼの領都民がお祭りを楽しみにしていて準備に来ている人たちのために材料を持ち寄り炊き出しをしてくれているのである。
人の輪がどんどん広がっていく……私は嬉しくて嬉しくてレオン様を見た。レオン様も私を見て言った。
「俺は……この領地を誇りに思う。ここに暮らす人たちは皆俺の宝だ!」
「明日は朝早いですからね~。遅れないで来てくださいね~」
実行委員のみんなに念押しされて私たちはお屋敷に向かった。
その夜、私は夕食後にレオン様とテラスで星を眺めていた。
「ティナ、疲れているのにごめんね。でもティナに言っておきたいことがあったんだ」
そう言うとレオン様は真剣な顔をして私の前に跪いた。
私の手を取り口づける。
「クリスティナ・アルフォード嬢、私と結婚してください」
レオン様の真剣な瞳に射抜かれた私は声が出せなかった。
「今更だと思うかもしれない。アルフォード侯爵にも結婚の許しをいただいた。でも俺は君自身に気持ちをはっきり伝えていなかった。……君が好きだ」
レオン様は立ち上がって私の手を両手で握った。私の目をじっと見つめながら続けた。
「ティナ、俺は大公の息子として生まれた。だから政略結婚は当たり前だと思っていた。ただ、この辺境の地に嫁いでくる人を大事にしようと決めていた。
でも君に会って……君を知るたびに君に惹かれていった。もう政略結婚なんて関係ない。俺は君と結婚したい。君じゃなきゃ嫌なんだ。そして……できるなら君も、君自身も俺を選んでほしい」
王都のお父様やお母様の前で言ったように私はこの結婚に不服は無い。むしろ嬉しい。
でもこの領地の人やここでの生活が好きだったので私自身がレオン様と夫婦になるということに対して深く考えたことがなかった。
今のレオン様の言葉で急に実感が湧いてきたのだ。頬が熱くなっていくのが自分でも分かった。
なのにレオン様は不安そうな顔をして「嫌……なの?」と聞くからぶんぶんとかぶりを振った。
ほろりと涙がこぼれた。
レオン様はギョッとして「泣くほど嫌なの?ごめん、でも俺は君を手放さない。好きになってもらえるよう努力するから」と言うので慌てて否定した。
「違います!!私……レオン様のこと、好きです。よろしくお願いします!」
私は恥ずかしくて下を向いていた。でも、レオン様の反応がない。そろそろと顔を上げた途端、視界が塞がれた。
私の目の前はレオン様の胸……つまりレオン様に抱きしめられていた。
次の日、特産祭りのオープニングには沢山の人が詰めかけていた。
広場に作られたステージ前は黒山の人だかりだ。多分バトレンゼの領都民だけではない。近隣の町や村からも人が訪れているようだ。
昨晩のことが恥ずかしくてレオン様と顔を合わせづらいかな~なんて考えはこの人込みで吹っ飛んだ。
ステージの上でレオン様と街の偉い人が挨拶をしてお祭りが始まった。
それぞれのバオへ沢山の人が訪れ、皆が笑顔だ。
ホーデン村のバオに顔を出したら私にブレスレットをくれた女の人が嬉しそうに言ってくれた。
「沢山の人が工芸品を見て感心してくれました。買ってくれたり、今後取引をしたいって言ってくれる人もいたんです」
隣にいた女の人も嬉しそうだ。
「私も教わって一緒に作ったんです」彼女はミアちゃんのお母さんだった。
「お昼過ぎにまたステージでイベントがあるから早めに戻ってきてくださいね」と釘を刺されていたレオン様と私は一時間ほど会場を見回ると実行本部のバオに顔を出した。
なぜか本部にはアイリスもいて「遅いです、お嬢様」と引っ張られてしまった。
私はバオの右側の布で仕切られたスペースへ。レオン様は左に引っ張られていった。
そして……訳の分からぬままに私は純白のドレスに身を包んで同じく純白の衣装に身を包んだレオン様とステージに立っている。
「只今よりレオン・ゴットフラムとクリスティナ・アルフォードの結婚式を行います」
急に聞こえてきた声にびっくりして振り返ると、ノア様が真面目くさった顔で手にした紙を読み上げていた。
「ノア、お前、知っていたのか?」
レオン様が訊ねるとノア様が肩をすくめた。
「俺もさっき知ったんだ。ちなみに大公閣下には事前に手紙を出して許可を取っているらしいよ。
お前とティナちゃんへの感謝の気持ちらしい。有り難く受け取ってやれ」
バトレンゼの街の教会の神父様がステージに上がってきた。
レオン様は神父様に向かい誓いの言葉を述べる。
「私、レオン・ゴットフラムはクリスティナ・アルフォードを妻とし、健やかなるときも病めるときも、喜びの時も悲しみの時も、妻を愛し敬い助け合いその命ある限り真心を尽くすことを誓います」
そして集まった人々に向かって言った。
「私レオン・ゴットフラムはクリスティナ・アルフォードと共にこのゴットフラム領で暮らす人々と寄り添い、ともに悩み、笑い、皆が少しでも多くの幸せを得られるように尽力することを誓います」
私も皆に誓った。
「私は皆さんが、この地が大好きです!私、クリスティナ・アルフォードはレオン・ゴットフラム様と健やかなるときも病めるときも、喜びの時も悲しみの時も、愛し敬い助け合いその命ある限り真心を尽くすことを誓います。
そしてレオン様を支え皆さんが少しでも多くの幸せを得られるように尽力することを誓います」
広場は歓声に包まれた。
多くの祝福の言葉が投げかけられる。それが落ち着いてきたところでノア様が言った。
「それでは誓いのキスを」
えっ!?待って?キ、キ、キ、キス?
真っ赤になってしまった私を見てレオン様は小声で言った。
「ティナ、頬にだから」
あー良かった。ほっぺにチューか。
レオン様が私の肩を抱いた。
「あ、そうだ、レオン様———」
私がレオン様に振り向くのとレオン様がキスするのが同時だった。
Chuーーーー
私はファーストキスを領民の皆さんの前で披露してしまった。
どうしてこうなった?
———(おしまい)———
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