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なぜネイサムが?


 私は茫然と立ち尽くした。コルセットとパニエ姿のままで。


 前回も今回も、彼女は何がしたいのだ。私を閉じ込めるのが趣味なのか?笑えない。


 王城の休憩室だ。何日も閉じ込められることは無い。扉の外は人通りもあるだろう。大声を出せば聞こえそうだ。ただ、私は下着姿なのでばつの悪い思いはするが。


 ちょっと落ち着いて考えようと私は部屋の奥にある応接セットまで歩いて行ってソファーに座ろうとした。



 誰かいる!!


 今まで気が付かなかったが誰かがソファーで寝ていたのだ。


 恐る恐る近づいて顔を確かめる。


 ローレンス第一王子がソファーでスヤスヤと眠っていた!!!



 え?ちょっと待って、ちょっと待って?どうしてローレンス王子がここに?


 と同時に私は非常にまずい状況であると気が付いた。

 助けを求めるどころではない。踏み込まれたら困るのはこっちの方だ。

 下着姿でローレンス王子と二人きりで部屋の中にいるのだから。



 夜会などの際、疲れて休憩したい者や、私のようにアクシデントでドレスを着替えたり、または二人きりになりたい恋人同士のために複数室休憩室が設けられる。

 今日は大夜会なので普段より多くの休憩室が用意されていた。

 多数の休憩室は間違えないように各部屋名前が付けられている。私が入ったのは〝牡丹〟だった。


 半ばパニックになりながら私は窓に近づいた。


 この休憩室は二階にある。飛び移れる木がないかと探したのだ。

 窓を開けて顔を出すと少し離れたところに飛び移れそうな木があった。

 だけど、この部屋からでは届かない。その木は隣室の窓の近くに立っていた。

 この窓から外へ出て、外壁を伝って隣室の窓近くまで行くしかない!


 決断すると私は窓枠に足をかけ窓の外に身を乗り出した。

 パニエがあまり膨らんだデザインでなくて良かった。

 そして王城の外壁が凝った造りでよかった。装飾が多いため手や足を掛ける場所が沢山あったからだ。


 外壁を伝い隣室の窓近くまで行った時、偶然室内が見えてしまった。


 うげっ!!


 そこには抱きしめ合い、イチャイチャするネイサム王子とルルーチェ男爵令嬢の姿があった。


 何とか動揺を鎮め木に飛び移る。そこからは簡単で、するすると木を降り地面に立った。



 そしてこれからがまた大変である。私はなんとか人に見られないようにしてレオン様やノア様にこのことを伝えなければならない。


 茂みをそろそろと移動しテラスの見える位置まで来た。レオン様かノア様がテラスにやってこないだろうか?


 しばらく茂みに隠れてテラスを観察する。来た!!


 レオン様がテラスに出てきたのだ。


 レオン様はテラスをきょろきょろと見回している。きっと私を探しに来たのだ!


 私は小さな石をレオン様に向かって投げた。

 一つ目……二つ目……三つ目にようやくレオン様の近くの手摺に当たり、コンっと小さな音を立てた。


 レオン様はハッとしてテラスから身を乗り出す。もう一度石を投げる。

 ようやくレオン様は私に気づいたようだった。


 レオン様はテラスからこっそり庭園に下り私のもとにやってくるとギョッとしたように立ちすくんだ。


「ティナ、どうしたの?誰かに何かされたの?」


 無理もない。私は下着姿だ。

 私は手短に侍女に飲み物をかけられて休憩室に閉じ込められたこと、その侍女はマルゴットだったこと、休憩室にローレンス王子が寝ていたことを伝えた。


「わかった。少しここで待ってて」


 レオン様は素早かった。どこからか大きなマントを調達してきて私をすっぽり包むと私をとある場所へ抱きかかえて行った。


 とある場所とはローレンス王子の妃、シンディ様の部屋で、私はシンディ様にドレスを借りることができた。


 私が着替えている間にシンディ様の部屋に数人の人がこっそりと集まってきていた。


 レオン様、ノア様、もともとシンディ様の部屋にいたおじ様、それにお父様、お兄様!


 彼らはひそひそと相談していたが、レオン様が「ティナを罠にかけた奴らは絶対に許さない!」と言っているのが聞こえた。


「お父様、お兄様」


 私が声をかけると二人は私のところに来て抱きしめてくれた。


「ティナ、元気そうでよかった。レオン殿と仲良くやっているようだな」


 再会を喜び合ったが今は時間がない。


「アルフォード侯爵、夜会が終わったら改めてご挨拶に伺います。ノア、ダイラス、急ごう!」


 レオン様は急いで部屋を出ようとする。


 あ!思い出した私は隣の部屋にネイサム王子とルルーチェ男爵令嬢がいたことも伝えた。


 それを聞くとニヤッと笑ったレオン様は


「ティナ、貴重な情報ありがとう」と言って部屋を出て行った。


 少ししてお父様が


「ティナ、お転婆もほどほどにな。今回は助かったが……」と渋い顔をしながら部屋を出て行った。


 その後、私はおじ様と部屋を出る。


 シンディ様にドレスを貸していただいたお礼と騒がせてしまったお詫びを言うと


「私はワクワクしたわ。ローレンス様とお父様が過保護で部屋から出してくれないのですもの」


 と微笑んだ。


 そうだ、シンディ様は辺境で育ったんだ。見た目は大人しそうでたおやかな御方だけど意外とたくましい方かもしれない。


「今回の騒動はローレンス様の王太子問題が原因だと思うわ。むしろ巻き込んでごめんなさいね。

 クリスティナ様、落ち着いたらゆっくりお話ししましょう。あなたとは仲良くしたいわ。未来のお義姉様」


 私は力強く頷いて、部屋を出た。


 おじ様は護衛騎士たちに「くれぐれも注意を怠るな。しっかり第一王子妃を守れ」と言って部屋を後にした。






 

 



 ホールにレオンと従者が入ってくるのが見えた。

 何やら気ぜわし気にきょろきょろと辺りを見回している。

 王妃はタイミングを計って席を立ち、二人に近づいた。侍女に耳打ちする。

 念のためレオンと顔見知りのマルゴットは下がらせている。

 侍女はレオンに話しかけた。


「レオン・ゴットフラム様、王妃様がゆるりとお話でも、と仰られています」


 レオンはチラッと王妃を見た。


「申し訳ありません、連れを探しておりまして。見つかりましたら後に王妃様のもとに伺わせていただきます」


「まあ!連れがいなくなったのか。それは大変。私の方でも探してしんぜよう」


「あ、いえ、お手を煩わせるわけには……」レオンは遠慮したが


「よい。ゴットフラム大公家とは親戚筋。遠慮などいらぬ。その連れの特徴を申してみよ」


 王妃は特徴を聞き出す。扇の下に笑みを隠しながら。


 少し待つと侍女が報告を持ってきた。


「王妃様、その令嬢は人目を避けるように休憩室の一室に入っていったそうです」


「なんと!気分でも悪くなったのかもしれん。レオン、急ぎ参ろうではないか」


 王妃は多少強引にレオンを誘導した。 周囲の人々は何があったのかと興味津々で王妃たちの様子を観察している。


 休憩室に向かって歩き出すと一人の男が声をかけてきた。ダイラス・アルフォードだ。


「王妃様!レオン!失礼します。お二人はローレンス殿下がどこに行ったかご存じではありませんか?」


 王妃はタイミングの良さに笑いが止まらなかった。


「ローレンスは休憩室で休んでくると言っていたはずだ。私たちも休憩室に向かうところだ。そなたも一緒に来るがいい」


 ダイラスを一行に加え、皆で休憩室に急ぐ。

 王妃、ゴットフラム大公の令息に加え、第一王子の側近まで加えた一行はひどく人目を引き、一行の後ろを多数の貴族たちが付いてきた。


 休憩室が並んでいる区画に着いた。侍女が「〝牡丹〟の部屋です」と言い、担当者に鍵を持ってこさせた。鍵が開けられる寸前、「何の騒ぎだ?」と声がした。


 王妃が見ると国王とアルフォード侯爵が怪訝な顔をして立っている。

 皆が道を空けた。王妃の元へ来ると国王は問いかけた。


「サリアーナ、何の騒ぎだ?」


「陛下、大したことではないのです。レオンの連れがいなくなったそうで、休憩室で気分を悪くしたのではないかと見に来ただけですの」


 あまりに上手く役者がそろうので、王妃は笑いを隠すのに一苦労だ。

 担当者の「鍵が開きました」の声に一同室内に足を踏み入れた。





 室内は薄暗かった。明かりの消された室内でソファーで絡み合う人の姿がかろうじて判別できた。


「誰だ!!」絡み合った人影が二つに分かれ、一方から鋭い誰何(すいか)の声がとんだ。

 急ぎ室内の燭台に明かりが灯され、二人の姿があらわになった。




 王妃は室内に踏み込んだ時、ソファーで絡み合う人影を見て、なんて願い通りの展開なのだ!と自身の勝利を確信した。ティナとかいう平民はローレンスを誘惑していたのだ。もうこれで第一王子の陣営はガタガタだ。


 明かりが灯される。ソファーから起き上がった人物は……



「ネイサム!!!」


 王妃の悲鳴が響き渡った。


 な、なぜネイサムが?ここにはローレンスがいるはずだ。

 肌もあらわな令嬢を見るとルルーチェ男爵令嬢だ。


 王妃は頭が真っ白だった。なぜ?なぜ?ネイサムが?そのことだけがグルグルと回っている。


 どうしてこうなった?









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