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領地の人達が仲良くなるには?


「おはようございます、お嬢様」


「おはよう、アイリス」

 

 うーん、日常が戻ってきた感じ。メイド生活も悪くなかったけどね。


 私がクリスティナだとばれた後、使用人を集めてレオン様は今までのことをもう一度話した。

 そして使用人一同と一緒にもう一度謝って下さった。


 ケイトとコニーは青い顔をしていたので私は彼女たちのところに行った。


「あ、あの、あの、侯爵さまのお嬢様だとは知らずに……」


「ケイト、コニー、あなたたちと友達になれて嬉しかったわ。難しいかもしれないけど、これからも気軽に声をかけてくれると嬉しいわ」


 二人の手を握りながらそう言うと二人は泣きそうな顔をしてぶんぶんと頷いてくれた。




 身支度を整え朝食に向かうと、ダイニングルームではレオン様とノア様が談笑していた。


 二人は立ち上がり、レオン様がエスコートして私は席に着いた。


「クリスティナ嬢、昨日はよく眠れたかな?」


「はい。……あの、話し方を『ティナ』の時のようにしていただけませんか?

 その方が気が楽なんです。呼び方も『ティナ』でお願いします」


 私の言葉にレオン様は息を吐きだした。


「ありがとう。俺も堅苦しいのは苦手なんだ」


「俺も『ティナちゃん』って呼んでいいの?」


 とノア様が言うので「もちろんです」と返事した。


 レオン様は「お前は少し遠慮しろ」とブツブツ言っていた。


「ティナ、今日はちょっと遠出しないか?景色のいいところがあるんだ」


「はい!楽しみです。馬車で向かうのですか?」


「いや、君が嫌でなければ馬で向かいたい。もちろん俺が一緒に乗るよ。落としたりしないから安心してくれ」


 レオン様の嬉しい提案だが、私はかぶりを振った。


「私、馬に乗れます」


 そして、部屋の隅に控えたアイリスを振り返った。


「乗馬服は持ってきた?」


「もちろんです、お嬢様。お嬢様ならきっとじっとしてはいられないと思いまして」


 なんか失礼なことを言われたが……私はレオン様ににっこり微笑んだ。


「馬をお貸しいただければ一人で乗って行きたいです」


「……後で厩舎に案内しよう」


 レオン様は少し残念そうだった。





 久しぶりの乗馬は心地よかった。

 私が借りた馬は栗毛の牝馬で、おとなしい性格だという。名前はエレン。私は一目で彼女のことが気に入った。

 相性が良ければ私の馬にしてもいいらしい。



 レオン様は最初はゆっくりめに馬を走らせた。私が付いてこれると知ると徐々にスピードを上げ、私とレオン様、ノア様の乗った三頭の馬は辺境の地を駆け抜けた。


 領都バトレンゼを離れると辺境の地は広大な原野が広がっており、ちらほら見えていた畑も見えなくなった後は大自然の中を駆け抜けた。風は少し冷たい季節だが火照った肌に心地よく、私は久しぶりの乗馬を楽しんだ。


 道は次第に上り坂になり、小さな村を通り過ぎてやがて小高い丘の上に出た。

 レオン様はそこで馬を降りた。



 丘の上は一面秋の花が咲き乱れ、眼下にはうっそうとした森が広がっていた。


 私もエレンから降り、括り付けていた水筒から水を与えるとその辺の草を食んでいた。


 私は丘の上の景色に眼を奪われていた。花の絨毯のような丘の上と眼下に広がる広大な森。見事な風景だった。


「気に入ってくれた?」


 レオン様の言葉にただただ頷く。


「この季節のこの丘の上の風景は見事だろう。ほかにもゴットフラムの領地には素晴らしい場所が沢山ある。君に見せたいものが沢山あるんだ」


「はい。レオン様、沢山見せてください。私はこの領地のことも、あなたのこともたくさん知っていきたいです」


 二人で見つめ合っていると


「はいはーい、邪魔するのは野暮だと思うんだけど昼飯にしないか~?」


 一瞬ノア様のことを忘れていた私は真っ赤になってしまった。


 

 ノア様の馬に括り付けていたサンドイッチと紅茶でお腹を満たし、私たちは丘を後にした。





 丘の麓の村に差し掛かった時だった。


 何やらもめ事が起こっているようだ。

 村の広場のようなところで複数人が二手に分かれ言い合いをしている。

 やがて片側の人達はふんっというように踵を返し男の子の手を引いて去っていった。


「何があったんだ?」


 レオン様が訊ねると村長が答えた。


「またあいつらですよ。あいつらは村のやり方に全く従わねえんだ。この時期は収穫を終えてみんなで共同作業をする時期だってぇのに……へっ!自分勝手な奴らだ」


「もともと敵国の奴らだからな。油断しねえ方がいい」


 別の者が答えた。周りもうんうんと頷いている。


「彼らもこの国の人間だよ。私にとっては大切な領民だ」


「けどもレオン様——」


「俺が彼らと話し合ってくる。君たちも彼らを受け入れてあげて」


 私は彼らの横に立っている泣きそうな女の子に気が付いた。

 そっと手を引いて彼らから少し離れ、しゃがみこんで女の子と目を合わせた。


「どうしたの?」


「あのね、あのね、おとうさんがタクルにあっちゃいけないっていうの」


 タクルとはさっき手を引かれて去っていった男の子だろうか。


「どうして会っちゃいけないの?」


「タクルはもともとてきのこどもだからって。でもタクルはミアがかわにおちそうになったときたすけてくれたの。とてもやさしいの」


「ミアちゃんはタクルが好きなのね」


「うん。だーいすき。でもおとうさんが……」


「大丈夫よ。タクルたちと仲良くなれるようにレオン様が頑張ってくれているわ。もう少し待っていてね」


 私はミアちゃんの頭を撫でた。


 それからレオン様とノア様と一緒にタクルたちのもとへ向かった。



 

 道々レオン様が説明してくれた。この辺りはもともと隣国の領地で、先の戦争で隣国に勝利した際に割譲された土地なのだ。我が国の領土になって以来、新しく領民が移り住み村を作った。土地を開墾し収穫を上げるまでになった。

 もともとこの地に住んでいた隣国の者たちは森林での狩猟を生業としている者が多く、住居も簡易住居で転々と移り住んでいるらしい。

 ゴットフラム領の領民となった彼らは区分上は先ほどの村の住民だが、もと敵国同士に加え、生活スタイルの違いもあって全く相容れぬらしい。

 辺境のこの領地にはそういった土地がまだ何カ所かあるということだ。


 レオン様はそういったマイナスの要素も私に隠さずに教えてくれた。



 タクルたちの集落は村から少し離れた森の入り口辺りにあった。

 木や石で作った住居ではなく、木で組んだ枠組みに厚手の布を幾重にも被せたような住居だ。

  バオというらしい。


 我が国は比較的気候が温暖で冬も雪がちらつく程度だ。それでも布を被せたような住居は寒いのではないかと思ったが、中に入ると予想外に暖かかった。


 レオン様は集落の人達と話し合いをしていたが、なかなか折り合いがつかないようだ。


 私はそばにいた女の人に話しかけた。


「この家はとても興味深いですね。様々な色の布を使っていてとてもおしゃれだわ。それに中に入ると暖かくてとても居心地がいいわ」


 彼女は嬉しそうな寂しそうな複雑な表情をしながら教えてくれた。


 国境にあるこの地は昔から幾度となく戦禍にさらされてきた。彼らの祖先も属する国が何度も変わった。戦争があるたびに家を焼かれたり追われたりする彼らの祖先は定住することをやめた。

 そして戦争が始まったら家ごと持って逃げられるように簡易式の住居に住むようになったらしい。


 我が国が大勝利して戦争が無くなって数十年。定住してもいいのだが、いや、若い世代は定住したいのだが、上の年代はこの伝統の住居を無くしたくないし生活スタイルを変えたくないのだという。


 彼女はほかにも集落で作っている工芸品などを見せてくれた。

 狩猟を生業としている人たちならではの動物の牙や骨、鳥の羽根などを使った工芸品はとても私の興味を引いた。

 私が感激していると、彼女は腕輪を一つ差し出した。革ひもで作られた腕輪で小さな飾りがいくつか紐に通されている。その一つ一つは骨で作られた鳥や花でとても緻密な細工だった。


 値段を聞くとお金はいらないという。いつも親身になって相談に乗ってくれるレオン様の婚約者に差し上げたいと言ってくれた。


 私は彼女の手を握り「私も皆が仲良く暮らしていけるように努力します」と誓った。


 レオン様たちの話し合いは尽きず、後日また来るからと私たちは村を後にした。



 私がこの地に残ったのはレオン様と向き合うためだった。書類上は婚約者だけど、レオン様と婚約している実感もなかった。

 でも今私はこの領地の将来を考えている。ここに暮らす人々がどうしたら皆幸せになれるだろうかと考え始めている。


 私の意識が変化し始めている。どうしてこうなった?




 



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