甘党ドラゴン 精霊と会話する
「お主……樹精霊か。滅多に人前には出てこないはずじゃが?」
『えぇ、ですがあなた様が来られた以上出てこないのは礼節を欠くと思いまして』
一見、人のように見える彼女の肌は所々木のような肌になっていて茶色の髪はしなびて艶を失っていた。
「お主、儂の正体を知っていると?」
『はい、私たちドライアドは精霊の一種ですので魔力で何となく』
(精霊は魔力で構成された自然の化身……あながち嘘でもなかろう)
「で、本題はなんじゃ?わしがお主の思う存在だとして何をさせたいんじゃ」
ドライアドはわざとらしく困ったような表情をすると自身について話し始めた。
『この森は昔から私が育て守ってきました。ですが最近ここ一体の魔力が乱れているのです。恐らく龍脈が干渉されていることが原因かと』
「龍脈に干渉なぞそう簡単にできるものではないが……犯人の見当もついておるんじゃろ?でなければ儂を犯人とでも考えるだろうしの」
『はい、ここから少し進んだところに【アースドラゴン】が住み着いてしまって……この土地から魔力を吸い取っているのです』
(アースドラゴンか……確かに奴らなら地面に埋まっている龍脈にも干渉は可能じゃ。しかし、その理由がわからん。奴らとしても周囲の魔力が乱れ枯渇することは避けたいはず……)
「よし、同族の不始末じゃ。何とかするのじゃ!が、ただというわけにはいかないのぅ?わしがここに来た目的はお主の実らせる果実なのじゃ、もし解決したら」
『はい、喜んで差し上げます!と、言いたいところなのですが魔力が乱れたせいで果実が一つもないのです……』
「それを早く言うのじゃ!!」
フィメルはドライアドの元で一晩を過ごし休息をした。あれほど追いかけまわしてきた魔物たちがやってこないのは、ドライアドが長年収めてきた森なだけあって森にすむ者たちが寄ってこない聖域のような場所なのだろう。
フィメルは十分に休息をとったことで体の疲れも取れ、万全の状態で起きた。
「それじゃ、行って来る!約束の品頼むぞ~」
フィメルはドライアドから教えてもらったアースドラゴンがいるであろう場所までやってきた。
そこはドライアドがいたような緑あふれる場所ではなく、岩が露出した岩石地帯だった。すり鉢状に広がる岩石地帯の真ん中にそれはいた。
岩のような鱗にモグラのような土を掘り返すスコップ上の爪、フィメルのように空を飛ぶことのない翼は退化しておりおおよそ飛べるような形はしていない。
「おった……!」
真ん中にとぐろを巻くように身体を丸めているアースドラゴンはフィメルの方を見て警戒はするものの、身体を起こして攻撃してくるような様子はない。
「おい!龍脈をいじるのを止めるのじゃ!何故、そのような自殺行為をする!?」
龍脈とは世界を巡る魔力の源泉。ときたま噴き出すそれは周囲を様々な環境に変化させるがそれを弄るということは狂った魔力の本流を一身に浴びるリスクがある。
それはフィメルであってもただでは済まないほどに。
「答えないか……交渉で済めばよかったのじゃがしょうがない」
フィメルはすり鉢を小さな足で降りていく。
そんな彼女を大きな影が覆った。
『ゴァアアアアアアアアアッ』
「こ奴……っ。番か!」
フィメルの小さな体を中心にいるアースドラゴンより二回り大きい個体が威嚇する。
鬼気迫る様子に訝しげな表情をするフィメルだがそんなことはお構いなしとオスであろう個体が右足を振り上げてフィメルを踏みつぶしにかかる。
「まずっ」
フィメルは雑に皮防具に頼ることなく回避を選択した。ハニーベアが吹き飛ばなかったことを学習し、それよりも重そうな一撃を耐えられないと考えたからだ。
「ど、どうする……儂の吹っ飛ばしではこ奴にみじんもダメージなど与えられないし……」
ジリ貧になることを感じた両者は膠着状態に入った。フィメルは攻撃には当たらないが攻撃することができない、対してオス個体は攻撃はできるが鈍重なせいで当たらない。
しかし、その膠着状態はすぐに崩壊した。
オス個体から魔力が立ち上り周囲に岩の塊が浮かび上がった。魔法だ。
かつてのフィメルのような無詠唱ではなく唸り声をあげて唱える形で発現した岩礫はフィメルに狙いを定めて一斉に発射された。
鈍重なアースドラゴンと違い、魔力によって操作された岩礫はものすごいスピードでフィメルに直撃した。
立ち込める土煙の量がその破壊力を物語る。ありったけを込めて発射した岩礫はアースドラゴン自身でさえ致命傷になりうる威力だった。
それを見て自身の役目は終わったと感じたオス個体は愛する妻のもとに駆け寄ろうと踵を返した。
その瞬間
土煙が爆ぜる!
純白の魔力が立ち上り、天まで届きうるその正体はフィメルの魔力だった。