甘党ドラゴン冒険に行く
行商に行ったあと、女将に言われた食材を買い忘れたフィメルは珍しく怒られた。
泣くことはなかったが流石に年長者としてお菓子に目がくらんで忘れていたのは恥ずかしくて落ち込んだ。
が、買ってきた果物を女将がスイーツを作ってくれたのを見た途端目を煌びやかせているところを見るに元々、精神年齢は低かったようだ。
その後も行商に通っては甘いものを食べ歩いていたフィメルだったが、ついに行商がこの町を去ることになった。
「も、もう行くのか?もう少しここにいても……」
「いや、そろそろ行かないとな?商品を仕入れに行かんと」
「そんなぁ~」
「嬢ちゃんの顔は覚えたからまた今度珍しいもん持ってきてやるよ!」
「ほんとか!?うむ、楽しみにしとる!!元気でな」
「切り替えはえーな……」
「オルクルも元気でな~」
「おう」
こうして行商達は旅立っていった。
それからしばらく
「飽きたのじゃ」
「急にどうした、フィメルちゃん」
「いやなに、この町の甘いものは美味しい。女将のスイーツも絶品じゃ。だが、流石に食べ過ぎて飽きてしもうたのじゃ!」
「行商達もあと半年は来ないからなぁ」
「そうなんじゃよぉ~」
「あ、そうそう。狩り仲間から聞いたんだけどよ、少し遠くの森に馬鹿でかい木が合ってよ。そこに見たことないくらい綺麗な実が実ってたって聞いたぞ?」
「その話詳しく」
酔っ払い曰くこの街から少し離れたところにある森の中に大樹があり、たまたま見つけたが取ろうとしたら森に阻まれたらしい。
(もし、取ってきたら女将にスイーツにして貰おう。最近、腕を上げたみたいじゃし)
野郎ばかりの酒場だが、フィメルが頼むので何度も作るうちにスイーツ作りの腕が上がっていった女将は行商から聞いた知識でさらに進化する。
(しかし、この身体だとその森に行くのにかなりの日数がかかるのぅ。流石にそこまで空けるわけには………)
「フィー、これ持ってきな」
「女将、これは………」
フィメルの研ぎ澄まされた鼻は袋を開けることなく中身を感じ取った。
「もしや、これは……!」
「行商から聞いたやつを作ってみたんだよ。行きたいんだろ?その森」
「良いのか……?」
「なぁに、看板女将がいれば問題ないよ!なぁ!?」
「「えぇ〜女将だけぇー?」」
「私だけで良いよ、な?」
「「ひゃいぃぃい」」
女将のどこから出ているのかわからないくらいのドスの効いた声にビビった酔っ払いは首を縦に高速移動する。
「ありがとう女将!じゃあ行ってくる!ぐぇ〜っ」
今すぐに森に向かおうとするフィメルの服を掴む女将。女将の屈強な腕力にフィメルは引き止められた。
「そんな服装で魔物もいる森に行けるわけないだろ………ほんとに行かせて良いんかな」
「ほら、フィメルちゃんこれ着ていきなァ」
「防具屋の」
防具屋の親父は皮で出来た防具をフィメルに手渡す。よく見るとかなり上等なものをわざと中古感を出している。
「私からはこれね!」
魔道具店の女店主からは疲れ軽減の靴と重量軽化のバックをもらった。
他にも色々な人がフィメルのために準備していたようだった。
「フィメルがここを離れた時のためにってみんなが作ってたんだよ」
「そうか……ありがとう」
フィメルは街の皆に背を向ける。ドラゴンは泣かない。いつまでも1人だったドラゴンは今日、初めて甘い雨を食べたのだ。
「じゃ、行ってくる!」
街のみんなに見送られてフィメルは歩き始める。
だが、ここで見送りに来た1人が一言。
「おーい、森は反対だぞ〜!」
フィメルはりんごになって帰ってきた。
「そ、そんなこと知ってるのじゃ!」
(か、顔があつぅい!今なら口から火を吹けそうじゃ!!)
三度目の正直、今度こそフィメルは冒険の旅に出かけるのであった。