甘党ドラゴン幼女化する
「ぅんん、いたた。変な体勢で寝たかの?体が痛いな。痛っ翼をどこかに引っ掛けた……か!?なんじゃこれはーーーー!?」
(いつもより我が家ば広いような気がしたがこ、これはどういうことじゃ!?)
「翼がない!?尻尾も爪も!魔力すらない!?この身体…まるで《《人間》》ではないか!!」
それからしばらく混乱していたフィメルも落ち着きを取り戻した。依然身体がこうなった原因はわからず落ち込んでいるが。
「どうするんじゃ……これでは、これでは……」
別に何か思い入れがあったわけではない。問題はただ一つ。
「魔力もないのにどうやってあの果実を取り出すのじゃぁぁあああああ!!!?魔力さえあればすぐ取り出せるというのに生殺しじゃーーーー!」
そう、魔法で開いていた異空間は魔法でないと開くことはできない。しかも。
「再び取りに行こうにも翼もないのでは取りに行けないではないかぁ、ぐすっ」
既に果実を食べるつもりでいたフィメルはまさに目の前にあるのに人参に届かない馬のようなもの。
「というか……魔力ってどうやって貯めるんじゃっけ?普段気にしたことなかったからわからんぞ!?」
フィメルは何千年と生きるエンシェントドラゴンだ。元から豊富な魔力を持ち、どれだけ使おうと枯れることのないまさに無限の魔力はすでに全くない。貯める方法など気にしたこともないし枯渇したことなど生まれてこの方一度もなかった。
「ん~~~~~ダメじゃあ浮かばん!まぁいつか戻るじゃろ。それより……あの子供の菓子美味しかったのぅ!何百年と人里には降りておらんがまさかここまで進歩しているとは。ちょうどよく人間になったことじゃし行ってみるか。それにあの子供に合えば何かわかるかもしれんしな」
フィメルは巣を出ていった。裸のまま。
「寒いっ!!に、人間とはここまで脆弱な種なのか!?」
違います。服を着ないからです。
フィメルは巣にしまってあった布を纏って人里に降りて行った。
そして数分後。
「なんでじゃあああああああああああああ!?」
幼女と追いかけっこする緑色の不審者たち。しかもフィメルの魔力があったというのにここを縄張りとするまさにゴブリンエリートともいうべき強い者どもである。
「儂ドラゴンじゃぞ!?あんな汚いゴミカスに負けそうになって逃げてるんじゃああああ!?」
裸足のまま逃げるフィメル。追いかけるゴブリンたち。
逃げながら考えるのはお菓子のこと。人里に降りれば美味しい菓子があると信じているからこそフィメルは頑張って走った。途中、布はつかまれ強引に引っ張ったせいでぼろぼろになってしまった。
「な、なんとか逃げ切ったか……なんで奴らはあんなに臭いんじゃ。……腹が減ったのぅ」
お腹の音が鳴り響くのだが周りに食べられるものは見えない。
「確か山の麓に村があったはずじゃ……そこまで行けば」
フィメルがそこまで言ったところで右から気配を感じた。
茂みをかき分けるような音とともにそれは現れた。
「ハティかぁ。脅かせおって。もしや儂の匂いをたどってやってきたのか?」
茂みをかきわけて現れた狼たち。ハティはフィメルの庇護下に入るためにやってきたものたちだ。ここの番犬的な者たちである。
『ぐるるるるるるるるッ』
「なんか嫌な予感が……」
『グオォォオォォォオオオ!!!!』
「なんでじゃああああああああああ!?」
(もしや、人間になって匂いが変わったのか!?)
「た、たまに美味しいもの持ってきてくれるから倒すのも忍びない……!逃げる!!」
そもそも貧弱な幼女のため敵わないのだが。そこはドラゴンのプライドか言わなかった。
それから様々な困難にぶち当たりながらもフィメルは甘いものを求めて頑張った。
ハティから逃れるため、においを消そうと川で体を洗おうとしたらそのまま流されたり、悪名高い服だけを溶かす不定形モンスターに襲われたりなどあらゆる困難が彼女を襲った。ドラゴンの時は気にも留めなかった者たちに為す術もなかった彼女は少し泣いた。
その末にフィメルは人里にたどり着くのだった。