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甘党ドラゴン拾い食いする

 【異世界】を知っているだろうか。

 知らない者でもエルフやドワーフ、獣人などは知っているだろう。では、その中でも最強の存在と言われてあげるとしたら何だろうか?

 エルフの豊富な魔力?ドワーフの天才的な鍛冶能力?獣人の桁はずれな身体能力?はたまた多種多様な進歩の可能性を秘めた人間?

 

 違う。そのすべてに秀でた存在が存在する。【ドラゴン】である。

 豊富な魔力、あらゆる知恵、不死のごとき長寿、硬い鱗にことごとくを吹き飛ばす膂力。


 そんな規格外な存在のさらに頂点の存在が今、飛び立った。



「ふんふんふ~ん、楽しみじゃの~!そろそろ実る頃合いじゃ!」


 真っ白な雲の上をそれよりも純白な羽をはばたかせ鼻歌交じりで飛んでいく存在が一つ。仄かに体全体にまとう光によって神秘的な外見の正体はドラゴン。

 その中でも神のように扱われる【エンシェントドラゴン】のフィメルは一直線にある場所へと向かっている。


 雲一色の中で一点、まるで布を縫う針のように飛び出した山が見えてきた。そこにはフィメルでさえ小さく見えるような巨木がそびえたっていた。


「あったあった!むふぅ~~~!ここはいつ来ても豊潤の匂いが香ってくるのぅ。さて、実はあるかの?」


 フィメルは枝の付近まで接近すると甘い匂いを頼りに果実のもとに向かった。そして純白の輝きを放つ果実を見つけた。


「ぉおおおおお!これまた美味しそうな果実を実らせたのぅ、ん~~~!いいにおいじゃ。よし、さっそく巣に持って帰るとするか。えい」


 フィメルは果実を傷つけないよう細心の注意を払いつつ、てきとーに枝から切り離した。

 もっとも、これは彼女だからできることだ。

 恐らく魔法に長けたエルフであろうと何人集まったところで切れ込みすら入らない。何十年と儀式を行い命がけでやっと切れ込みが入るくらいのことを行ったのだ。

 そもそもとして魔法を無詠唱で行っている時点で人間ならば賢者やら大魔術師と呼ばれるのだが。


「いやぁ儂が育てたとはいえ凄いおいしそうじゃぁ、少し味見しても……いかんいかん。この前それで落としたばかりじゃった」


 落ちてきた果実を魔法で異空間に収納し安全な我が家で食べることにしたフィメルは巨大樹を後にする。この巨大樹はフィメルが植えたものでありここも一応では彼女の家と呼べるのだが、以前滑らせて落としてから滑ってもいい場所で食べることにしている。


 再び飛ぶこと数分。

 人間では霊峰と呼ぶ我が家に到着した彼女は魔法でくりぬいた巣に入っていった。

 そこは特段特別なものはおいておらずただ広くのびのびとした空間。

 つまり、リビングであり食事場である。


 普段、フィメルの身体から放出される魔力で巣に侵入するものは《《ほぼ》》いない。


「またか。今度はなんじゃろ。エルフか、獣人か?それとも人間かのぅ。エルフだとええの~あ奴ら果物をきれいに剥いてくれるから少し分けてしまうんじゃよなぁ」


 フィメルが下りようとした瞬間、中にいた人影から火の玉が飛んできた。が、フィメルに当たる前に消滅した。彼女が無意識に放出している魔力に阻まれたのである。

 現れたのは男女三人。黒髪で年は16くらい。


「人間かぁ。こいつら人の家荒らしに荒らして何にもできんから邪魔なんじゃよなぁ」

「おい、トカゲ野郎。俺のためにハントされてくれや」

「うわぁ、綺麗なドラゴン……って俊!こんな強そうなドラゴン勝てないわよ!?あなたの魔法効いてないじゃない!逃げるわよ」

「あぁ!?俺の魔法があの程度なわけねぇだろうが!!なぁメガネ」

「う、うん!そ、それに僕の魔法も使ってないしね。………このドラゴン女体化しないかなぁ。ファンタジーなんだしドラ娘とかアリでは?」


(何やらいつもと様子が違うのぅ。それに子供ではないか。しかし……黒髪とは珍しい。てきとーに追い払って果実を楽しむとするか)


「何用で我の住処にやってきた。すぐに立ち去るというのなら危害は加えん」

「行くぜオラァァァ!」

「強化するよ!」

「あぁもうしょうがないわね!」

「はぁしょうがない。埃は立てたくなかったのじゃが」


 フィメルは三人が死なない程度に魔力を込めて咆哮を放つ。


(これで逃げてくれるじゃろ。これから至高の時間じゃというのに血なんぞ見たくも溢しても欲しくないからの)


 フィメルはいつものように追い払うための手加減した咆哮だけして子供たちから意識を果物に向けた。が、いつもの侵入者と三人は違った。


「開幕咆哮とかドラハンやってりゃ甘え行動なんだよぉ!オラァ!」

「何!?」


 子供たちは怯むどころか殺意をたぎらせて向かってきた。特に短髪の子供は剣に魔法を纏わせて攻撃してくる。


「ん~~?変な子供たちじゃ。年の割に強いし無詠唱まで……どこから来たんじゃお主たち」


 フィメルは再び三人に興味を向けた。が、三人とも返事どころかこちらの意図すら伝わっていないようだった。


「めんどーじゃのう。そろそろお腹もすいたし追い払うとするかの」

「おい!腹からゴロゴロって音がする。ブレスが来るぞ!」


(いや、腹が減っただけじゃが。)


 フィメルは今度こそ意識を飛ばすつもりで咆哮をした。ブレスが来ると思って身構えていた短髪男とメガネの二人はもろに喰らい倒れこむ。

 唯一後ろにいた女だけまだ意識があるようだった。といっても体が思うように動かず同じように倒れているが。


「俊!江口君!まずい気を失って……ひっ」


 殺されると思っているのか女は震えてフィメルを見ていた。


「別に何もしないんじゃが、というか意識があるなら二人連れて帰ってくれんかな~ん?なんじゃ嗅いだことない匂いがするの。この娘の荷物からか?」

「あっ……」


 フィメルは倒れる女の荷物から小包を取り出した。そして中のものを取り出してみる。


「ほ~綺麗じゃな。これは食べ物か?どれ」


 奪った《拾った》食べ物を遠慮なく女の断りもなく食べたフィメルは硬直した。


「今なら逃げれる!確か砕けばいいのよね。えい!」


 女が青色の石を砕いた瞬間、三人は巣から姿を消した。


「はっあまりの美味しさに放心しとった!なぁ娘!もう一つ、ない、の、かって居ない!?しまった放心しとる間に逃げられたか……惜しいことしたなぁ。少し眠い。起きたら果実を食べるとするか………」


 フィメルは眠りにつく。少しすると彼女の身体がいつも以上に輝き始めたがそれに気づくことはなかった。

 

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