表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Doragonia ・ ORB  作者: 燬酒烏
2/2

ー2ー

 授業は何が起きる訳でも無くいつものように普通に行われ、帰りのHRを迎える。帰りのHRも取り分け特別なこと言われず、ただ。

「帰りは気をつけて帰れよ。」

 としか言われなかった。僕は部活への準備をして教室を後にしようとしていた。

「なぁ!阿月ィ!」

 そこにやって来たのは元気になった中井君と木場君だった。

「部活終わりにファミレス行こうぜ!誕生日!お前の誕生日だし!」

 肩を組まれてバシバシと強く叩かれる。

「それは明日でも良いかな?」

「おぉん?なんでだよ?」

「先約があるからさ。」

「ぬぁ〜、仕方ねぇなぁ〜。折角、お前の好きな滝本さんも来るって言うのに〜。」

 ヘラヘラと笑いながら中井君は肩をすくませて首を横に振る。

「う〜ん。僕は別に滝本さんには…。」

「まぁたまた!そんなこと言ってよぉ!」

 ゲラゲラと笑いながら更に僕の肩を中井君は叩いた。

「おい、良いだろ。明日にしてやれば良いだろううが。このバカ。」

「んだよ!バカってよォ!バカってよォ!」

「良いから俺らも部活行くぞ。んじゃ、後でな阿月。」

「う、うん。じゃあね。」

 中井君の襟首を引っ張って木場君はその場を去って行った。その後に僕も学校内設置された剣道場へと向かった。剣道場に着き、男子ロッカーで荷物をしまい、胴着に着替えたようとした時だった。

「よ、阿月。」

 そこに入ってきたのは与野稜君だった。彼は僕よりも少し身長が高く中立的な顔立ちをした小学生からの付き合いの友達だ。しかも、中学時代には一年から全国出場、二年三年と全国優勝をはたし、高校一年からレギュラー入りし、インターハイでも優勝している。

「やぁ、稜。」

 稜は既に胴着になっており、薄らと笑ってこちらを見る。

「今日の練習メニューだが、筋トレ三十分後に素振り五百回、打込みの後に、学年関係無しに闘わせて個人で合計百本取るまで帰らせないってさ。」

「うわ〜。試合が近いからってえげつないメニューを考えるね〜…。誰の?」

「笹木先輩。」

「あ〜…。やりかねないね。」

 少しだけではあるが自分の身体から血の気が引いて行くのが分かった。

「ま、百本取っちまえばそれで終わりらしい。まぁ、良いじゃねぇか。」

「けど、それ連戦だろ?」

「そうみたいだな。」

「げぇ〜。」

 考えるだけ疲れてくる感じがした。僕も胴着に着替え終わり、道場へと向かった。道場には先輩数人と後輩が既に筋トレを開始していた。

(ま、頑張ろっか。)

 そんなことを思いながらもやはり百本取りはかなりキツく、早い人は18時ぐらいには上がり、僕は19時が過ぎた位でやっと上がれた。

「お疲れ、阿月。」

「ん。お疲れ、稜。」

 疲れた顔を見せながらも二カリと稜は笑ってくれた。それに僕も笑みが零れてしまう。

「さ、さっさと着替えて帰ろうぜ。お前のお仲間さんもお待ちだろ。」

「そうかもね。」

 僕はクスクスと笑い、一緒に男子ロッカー室へと向かった。

「にしても、キツかったな。」

「そんなこと言って。稜は結構早くに上がっていただろう。」

「だとしてでもだよ。」

 汗でビショビショになったTシャツを脱ぎながら、お互いに長めの吐息を出した。

「つーか。お前、踏み込み少し甘くないか?」

「え?ホントかい?」

「うん。もうちょい強めに踏み込んでも良いかもな。」

「分かったよ。」

 そんなことを話ながら僕達は着替え終わるとロッカーを後にして、校門へと向かった。校門に着くと木場君と中井君の二人が既に待っていた

「お、やっと来たかよ。」

「やぁ、お待たせ。ゴメン、すぐ戻るからもうちょっと待ってて。」

 僕は自転車を取りに行き、直ぐに三人がいる所へへと戻った。

「うし。んじゃ、行くか。」

 僕達は校門を出て二人が使う最寄りの駅まで向かって歩き出した。

「そいやさ。こないだ発売したFPSゲーめっちゃ楽しかったんだけどさ。今度ウチに来てやらね?」

「あ〜、今度な。」

 木場君が溜息混じりに言い放つ。

「んだよ〜。志人〜。」

 ジリッと中井君は木場君の方を見た。

「まぁまぁ。面白そうじゃないか。俺は予定が合えば行くよ。阿月は?」

「そうだね。僕も予定が合えばかな。」

「よっしゃ!んじゃあ、志人も来いよ〜。」

「ッチ…。大体こうなるんだからよぉ…。」

 木場君は眉間に皺を寄せてぶつくさと文句を言うがこの後には結局来るのが木場君のいい所である。

「んでさ!そのゲームってのがさ!」

 そこからは中井君のゲームの話で持ちきりだった。

「んじゃあ、僕はこっちだからまた明日ね。」

「おぅ。じゃあな。」

「じゃぁなぁ!」

「じゃあな、阿月。」

 僕は三人に短く手を振ってじいちゃん達が待つ家へ帰った。

「ただいま。」

 家に戻ると既に料理の美味しそうな匂いが立ち込めていた。

「おや、おかえり。もう料理は出来てるからね。」

「うん。荷物だけ置いたらすぐ行く。」

 僕は自室へ荷物を置きに行った後、早足になって居間の方へと向かった。

「お待たせ。」

 居間の襖を開けると天ぷらやおじいちゃんのつまみになりそうな物、煮物が並んでいた。

「おぅ。阿月、おかえり。」

 じいちゃんは先にビールを飲んでいたみたく出来上がり始めている。

「それじゃ、食べましょうか。」

「うん。いただきます。」

 やはりばあちゃんの作った料理はとても温かく、煮物はいい具合いに味が染み込んでいた。こんな料理を食べれるだけで僕は幸せを感じることができた。

「ふぅ〜。ご馳走様。」

「そうだ。阿月、アナタに渡しておく物があるのよ。」

 そう言うとばあちゃんは台所の方へと消えてしまった。

「誕生日プレゼントは大丈夫だって言ったよ?」

 そしておばあちゃんが持ってきたのは一つの茶碗が入りそうな箱を持ってきた。

「これはね…。アンタの死んだお父さんからのだよ…。」

「……。」

 言葉が出なかった。喉に何かが詰まり、五臓六腑を全て何かに掴まれた様な気分だった。気味の悪い感覚だ。今にもさっきまで食べていた物が出てしまいそうだ。だが、僕はそこを何とかグッと堪えて、おばあちゃんの持っていた箱を震える両手で受け取る。その箱の中には小さな紙と、チェーンの付いた指輪が入っていた。

「ご…、ゴメン……。ちょっと部屋に行ってくる…。」

 ふらつく足取りのまま、僕は自室へと向かっていた。

「あの子にはまだ早かったんじゃないでしょうかね?」

「……。まぁな。でも、鋼太朗の頼みだ…。漢の約束を違える訳にはいかんさ。」

「ですが…。」

「だとしてもだよ。」

「……。」

 僕は部屋へと今にも口から出そうな物を必死で抑え込む。そして、その必死さを遮ろうとするフラッシュバック。工房に散らばった道具と血。ぐったりとうつ伏せで倒れ土気色して無と化した父。襖を閉め、首を横に振り、その場に座り込み扉に寄りかかる。

 少し前迄の話になる。母親を早くに無くした僕は元々僕の父親は工具屋兼修理士として働いていた。地元では名の知れた人で周りの人からは結構頼られていて、自分には剣道を教えてくれたりもした。誰にも恨まれることも無い人で、惨殺のされ方を見て警察の人は、

『どれだけ恨まれたらこうなるんだ…』

 とボヤいているのを聞いた。そして、今の父さんのおじいちゃんの家に引き取って貰えたのだ。

「なんだよ…。今更…。」

 僕は箱を開け、折り畳まれている紙を取り出した。そこには父親の汚めな文字で書かれた物でああった。

『よぉ。阿月。コイツを読んじまってるってことは俺もう死んでるってことだわな。』

 ここの文を見ていると気さくに大きく笑う父親の顔が浮かんでくる。それを思い、僕は深く溜息を吐いた。

『さて、本題に入るとしようか。さっきも言ったがこれを読んでるってことは俺はもうお前の隣には居ないな…。いや、このことは箱に一緒に入れたであろう指輪を持った時点でその覚悟は少しはあったさ。』

 その文字を見た後に僕は箱の中にある指輪を見た。よく見ると指輪店で売られている様な指輪とはまた違う空気感が漂っている様な感じがした。そして、僕はもう一度手紙へと目を移した。

『この指輪はな。とても特別な指輪なんだ。とある物が中に入っていてだな。本当は俺の手からお前に渡してやりたかったんがな…。生憎、俺を殺した奴は強かったようだな…。まぁ、あまり父さんは強くは無かったがな。話がそれたな。危険ではあるがこの指輪は何があっても離すな。お前のことだ。指輪は学校に付けてくのはいけないなんて言うだろうからそのチェーンを付けといたぜ。まぁ、制服の中に隠しておけば問題無いだろ。だが、一つだけ覚悟をしといてくれお前も俺みたいに誰かに狙われて殺されるかもしれない。だからこそ、これを付けるならその覚悟をしといてくれ。まぁ、また別にコイツを探してる奴もいるだろうからソイツに会えたらラッキーだろうな。まぁ、お前のことだ大丈夫だろ。何とかなるさ。じゃあな。

父さんより』

「何なんだよ…。全く…!」

 勝手に涙が出ていた。懐かしくも少しだけムカつく手紙だった。箱の隣に手紙を置き、中に入っていたチェーンの取り付けられた指輪を取る。それはネックレスの様になっていた為、自分の首にかける。

「……。」

 特にこれと言って変わったことはないが、さっきのあの感覚はなんだったんだろうか…。

「阿月君。お風呂沸いたわよ。」

「うん。分かったよ。」

 とりあえずは、身に付けたいじょうは外さない方が良いだろう。僕はそのまま指輪を服の中にしまい風呂場へと向かった。シャワーを浴び、身体を洗う。身体を洗い終え、湯船へとゆっくり浸かる

「ふぅ〜…。」

 いつもだったら無いはずの指輪を手の上に乗せて、まじまじと見た。

「こんなもの。欲しがるヤツなんて本当に居るのか…?」

 後ろへと凭れ掛かり一息吐く。暫く十数分浸かり、身体の水分を拭き取り寝間着にしている甚平を着込む。僕はそのまま自室へと戻り、布団を出し、電気を消して布団の中に入る。そして、直ぐに眠りの中に入った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ