ー1ー
それは僕の身に起きた。というよりかは、降り掛かったというてものな気がする。いや、もしかしたら決められていたことなのかもしれない出来事なのである。
『ヂヂヂ…!ヂヂヂ…!』
「……ん。んん〜。」
畳張りの布団の上で激しく鳴る目覚まし時計で目を覚ました。そして、自分の頭の上で五月蝿く騒ぎ立てる目覚まし時計を少し乱暴に止めた。
「ふぁ…、あ〜っあ〜〜。」
身体をゆっくりと起こした後に一つ伸びをした後にまた平凡な一日が始まるのを感じながら立ち上がり洗面所へ向かう。洗面所で顔を洗いそのまま居間の方へ向かった。居間に向かうにつれて味噌汁と焼き魚の香ばしい匂いが漂い始め、自分の空腹なのを自覚する。
「おはよ。」
襖を開けると目の前の大きめなちゃぶ台の上にはご飯に味噌汁、焼き魚と漬物の入った小鉢が三人分置かれていた。
「おう、おはよぉ。阿月。」
最初に声をかけたのは僕のじいちゃんだった。読んでいた新聞を下げて朗らかな顔をこちらに向けた。
「そう言えば。阿月、今日が誕生日だったな。」
「あら、そう言えばそうでしたっけ。」
台所の方から緑茶の入った湯呑みを持って来たおばあちゃんはニコリと笑いながら入ってきた。今日で僕は17歳の誕生日を迎えるのだ。
「おはよ、阿月ちゃん。夜は何が食べたい?」
おばあちゃんはその笑顔のまま僕の方を見た。
「なんでも良いよ。ばあちゃんの料理だったらね。」
「まぁ。またそんなことを言って。良いわ、とっおきなのを作っておくわ。」
「うん。ありがと。」
ばあちゃんの柔らかい笑みに僕も同じように笑って返した。僕は朝ご飯を手早くして学校へ行く為の身支度を済ませる。
「それじゃあ。行ってくるよ。」
「おぉう。行ってらっしゃい。」
玄関の引き戸を開けて、二人の家を出て自転車に跨り自分が通う高校へと自転車を走り出させ、風をその身に受けながら向かった。学校への通学路の途中にある高身長めの男子高生の背中が見えた。僕は出していたスピードを緩めて、その人の後ろから声をかけた。
「おはよ。木場君。」
「おぅ。阿月か。はよ。」
木場君は僕の方を見て短く笑った。僕は自転車から降り、木場君の隣を歩き始める。
「そう言えば、中井君はどうしたの?」
この中井君とは僕のもう一人の友達で、いつもは木場君と話しながら登校している筈なのだ。
「さぁな?寝坊でもしてんだろ。連絡入れたが音沙汰ねぇよ。」
「あぁ…。そうなんだ…。」
僕はその話を聞いて半笑いになってしまった。
「つーか。学校ダリィ。」
「まぁ。そうだけどさ。」
木場君とは裏腹に僕としては学校をダルいとはあまり思ったことは無い。まぁ…。分からなくもなくはないが…。
「おぉぉぉぉーーーーーーーーーいいッッッ!!」
その大声に驚いて木場君と僕は後ろを振り向いた。するとそこには全力ダッシュでこちらに向かってくる中井君の姿が見えた。
「な、中井君!」
「ハァ…。ハァ…。お、おはようだぜ。」
「お、おはよう。」
肩で息をつきながら前のめりになる中井君を僕は少し動揺気味に挨拶を返した。
「よぅ。」
そんな僕とは逆に木場君は淡々と挨拶を返した。
「んじゃ、とりあえず。学校に行こうぜ。」
「ちょっと待て…、もう少し休ませろ…。」
そんな中井君の言葉を聞かずに木場君は既に歩き始めた。
「学校で休めば良いだろ。」
「んにゃろ〜…。はっ倒す…。」
ぶつくさ文句を言いながらも中井君も歩き始め、僕はその隣を歩いて行った。学校に着き、僕は自転車を駐輪場に置いた後に二人と教室へ向かった。教室にはもうそれなりに中には僕達以外の生徒が居た。僕の席から木場君の席は近くなく、中井君の席はかなり近くにある。僕達はお互いの荷物を置くと、木場君が中井君の席の方へ行くが中井君は座るとほぼ同時に寝付いてしまった。
「早ぇ〜のコイツ。」
中井君の頭頂部めがけて木場君はデコピンを放つが中井君はピクリともしなかった。
「あはは。大分疲れているのかな?」
「全く、やれやれだね。」
「おっはよ〜。志人君、阿月君。」
そこへ入ってきたクラスメイトで友達の奥村夏奈だった。
「おぅ、奥村。」
「おはよ、奥村さん。」
「むぅ〜。何よ、木場君のその顔〜。」
木場君の薄い反応に奥村さんはむくれて見せた。
「てか、二人とも聞いた?」
「あ?何をだよ?」
木場君は眉を顰めて奥村さんの顔を見た。
「それはね。変死体が隣街でも出たんだって。」
「え…ッ!?」
僕は奥村さんのその発言に絶句をし、木場君は呆れた様子を示した。この変死体事件と言うのが、死体は所々溶かされていたり、腐食していたり、黒ずんだり、時には泡を吹いたまま死んだ死体などがあるということがここ最近報道だったりネット情報の方に出回っている。
「あ〜、夏奈怖いなぁ〜。」
そんなことを言いながら奥村さんはこちらの方をチラチラと見てくる。
「ま、自分の身は自分で気をつけるわな。」
「もぉー!ホンットに志人君ってつれないわね!」
あっさりとした木場君の態度に奥村さんは思いっきり憤りを見せて僕は苦笑した。
「おはよ、みんな。」
そこへ来たのは僕の中学からの付き合いがある滝本槙さんだった。
「おっすー。」
「おはよ、滝本さん。」
「おはよぉ、マキ。もぉー、聞いてよ!志人君ってばホントつれないんだよぉ?こんなか弱い少女も守ってくれないなんて。」
むくれたまま奥村さんは滝本さんの方を見た。
「アハハ。なら、阿月君に守って貰えば良いじゃない。」
「え…。」
「え〜。隈武君じゃ頼り無いな〜。」
「えぇ…。」
とんでもなくメンタルを削られた様な気がするが気にしない…。気にしないのが一番だ。
「そんなこと無いよ?阿月君、剣道もやってるんだし。」
「でも、見た目はひ弱そうじゃない?」
「うぐっ…。」
まぁ、確かに僕は剣道をやっているがガチ勢の人達みたいな強さは無いけど、そこまで言われると結構心に来るものはあるよ…
「おいおい、奥村。それは言い過ぎだろ?コイツはコイツでかなり強いぜ?」
木場君、今その言葉かなり僕の心に来るんだ…。でも、ありがと。
「ふ〜ん、そ。」
奥村さんは素っ気ない態度を取りつつ僕の方をジトッとした目で見る。
『キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン』
朝のHRを告げる鐘がスピーカーの方から流れてくる
「あ、鳴っちゃったネ。戻ろ、マキ。」
「うん。」
「んじゃ、俺も戻るわ。」
「うん。」
奥村さんの合図で三人はそれぞれ自分の席へと戻った。そして、そこにちょっと遅れて担任の教師が教室へと入ってくる。
「全員席に着け〜。米内〜。いつまでだべってんだ〜。」
先生はダルそうに米内君ののことを叱りつける。米内君もテキトーな返事をして、自分の席へと戻る。
「うし、んじゃ。HR始めんぞ。」
「起立、礼、着席。」
学級委員長である滝本さんの合図にみんな動くが、中井君だけワンテンポ遅れて立ち上がった。先生は一つ席を入れると話を始めた。
「えぇ〜。お前達も知ってるだろうが、最近隣町で変死体が発見された。帰る時は充分気をつけて帰れよ。それから帰る時は一人で帰るんじゃあないぞ。以上。」
それだけ言うと先生は教室を後にしてしまった。そして、また今日と言う日が始まった。