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よろしくお願いします。

 ここは魔の森に程近い冒険者の街。駆け出しからすでに一流の呼ばれる冒険者達が集まる場所でもある。そして人が集まる場所には光と闇が存在する。光は冒険者家業に成功し名声と財を手にした者達。そして闇は、冒険者家業により命を落とした者、怪我をし復帰ができず生活そのものが荒れてしまった者、親が帰ってこず子どもだけで生活しなくてはいけなくなってしまった者達。


 街自体がそういう者達を救済しようと動き出してはいるが、何分数も多く手が回らない現状があった。



***



 いつもと同じように仕事が終わり帰路についた、冒険者ギルド受付担当のエリザベス。同僚達に誘われて、屋台で夕食を済ませようとしていた。


「はぁ、今日も疲れたねー……」

「ようやく休みだよ……」

「あのいっつも尻触ってくるやつの頭の毛むしってやりたい……」

「いいねぇ。まだらにしようよ」

「やるにしてもわからないようにしてよね!?」

「えー、薬使う?」

「薬は高いし見つかると面倒だから、記憶が曖昧になる花がなかった?」

「あったあった!依頼する?」

「「いいねぇ!」」


 エリザベスは時々皆の頭の上の方を見る癖があった。何か見えているのか二度見したり、じっと見たりすることもあるが、大抵はふっと何気に周りに気付かれないように見ていることが多いのだが。


 彼女の目には人の本質が映る能力が宿っていた。これは生まれ持ったものであり、神からの祝福『ギフト』とよばれていた。


 『ギフト』には様々な種類が存在している。人を惹きつける魅力、誰からも憎まれない感情の操作、剣の腕が立つ、何故かラッキーなことが多い、探し物がすぐに見つかる等々、大きい物から小さな物まで様々なものが存在している。


 ギフトは持っていても人に言わないことが多い。言えないことが多いと言い換えても構わなかった。人に自慢できるような物ではないことが多いからだ。


 エリザベスもその内の一人だった。エリザベスは自分のギフトを厄介なものだと思っていた。何故なら、エリザベスのもつギフトは、真実の姿がわかるというものだった。


 実際、冒険者ギルドの受付嬢として働くエリザベスの同僚達の頭には、『救う者』『賢い者』『女王様』『犬』『作る者』と見えていた。ものによっては動揺してしまうものもあったりするが、相談を受けると何となく頭の上に何がかかれているかを見て答えると、相手が自然に答えを見つけることが多いように感じていた。


 そのエリザベスの目線の先には2人の子どもがいた。兄妹のようであり、二人はゴミ箱を漁り食事を探しているようだった。ようやく、肉がわずかについた骨を見つけそれを妹に食べさせ、兄はまたせっせと残飯を探し始めていた。その兄の頭には『英雄』、妹の頭には『聖女』、それが見えてしまった。頭の上に見える文字なんて所詮文字。未来のことなんてわからない。エリザベスはそう考えていた。だが相手はゴミ漁りをしている子どもである。


 元々この2人の兄妹は、ここら辺で最近見かけるようになった2人だった。子どもは真っ先に保護の手が入るのだが、彼ら2人にはそれがまだ来てはいなさそうで、エリザベスは気にしていたのだった。そしてなんとなしに2人の子どもが居ても、養えるだけの稼ぎがあると今日計算したばかりだった。


「あ、また見てるね、ベス。気になる?」

「うーーん、ちょっとね。もう5日になるから……」

「拾っちゃう?届ける?」

「わからないけど、どうしようかなって……」

「ねー、みんな。ベスが子ども拾うか届け出るかどっちにするか賭けようよ!私、拾うほう!ビール一杯!」

「ちょ、ちょっと賭けなんてやめてよ」


 同僚がエリザベスの顔を見てにやりと笑う。


「私も拾う方にビーーーール!」

「……私も」

「えー!賭けにならなくない?拾うに一杯」

「これまで散々な顔して届けてたもんね。今日こそ念願の拾うに一杯!!」


 エリザベス自身も親が冒険者であったが、ある日物言わぬ遺体となって帰ってきた。その遺体も損傷がひどく、エリザベスは両親の遺体を見ることが叶わなかった。その後両親と仲の良かった冒険者に拾われ、彼女にさまざまなことを教えてもらった。その彼女もエリザベスが独り立ちして早々に、帰らぬ人となってしまった。


 エリザベスのような身の上、この街には珍しくもなく数多く存在した。今楽しく話の花を咲かせている彼女達も、その半数以上はエリザベスと同じような身の上だった。


 だからエリザベスはあの兄妹を見捨てることはできなかった。これまで彼女が目にしてきた子ども達は、担当部署へ報告、通報しながら子ども達の生活、生命を守っていた。


 エリザベスは自分の生い立ちが生い立ちなので、引き取ることに抵抗があった。自分が養い親のようになれるのか、本心を言うならばそうなりたいと思う。ただ子どもの人生が自分の肩にかかっているとなると、尻込みをしてしまうのもまた事実だった。


 そしてエリザベスが決断を下せず、うんうん唸っている間に、同僚の1人が兄妹に話しかけて連れてきてしまっていた。食事処には入れない格好なので、すぐそばの窓の下に来ていた。  


「……お姉さん、僕たちを引き取ってくれるの?」

「え?」


 同僚達のほうを振り向くが誰も目線を合わせない、合わせてくれない。


「えーと……、そこまで裕福じゃないけどうちに来る?」

「……どうする?」

「……いってもいいの?」


 こてんと首を傾げた妹の姿に胸を撃ち抜かれたエリザベスは、皆んなから祝いの言葉を貰い2人を連れ帰った。



***



 兄と妹は、アランとエリスという名前で親はなく、時々冒険者が面倒を見てくれていたという。


「でももう一月も帰ってこなくて……」

「たべものないし、みじゅもないの」

「まあ……」


 もしかしたらその世話をしてくれていたという冒険者は亡くなっているのかもしれない。そんなことは2人には言えなかった。


「仕事が長引いているかもしれない。よく頑張ったね」

「うん。エリスは僕が守らないといけないからね」

「わたちもまもるの」

「じゃあ2人は私が守るね」


 3人は顔を合わせて笑い合った。


 エリザベスは家族ができたようで嬉しくて仕方なかった。エリザベスの住まいは、小さなアパートで、リビングキッチンに部屋が一つだけだが、3人で暮らすには十分な広さだった。2人は歳よりも大人びており、アランは8歳、エリスは4歳ではあるが、同年代よりも明らかに頭も回り、身体の動きも良かった。


(これが『英雄』と『聖女』の能力なのかな)


 なんてエリザベスは思ったりもしたが、子どもは可能性のかたまり、たかが頭の文字に振り回されるのは愚の骨頂。そのまま様子を見ることにした。




***



 もうそろそろで仕事が終わるという夕刻時、彼は来た。


「おい!!ここにアランとエリスはいるか!!」


 いきなり駆け込んできたかと思いきや、怒鳴り始めたのはここら辺を根城にしている冒険者で、名はライリー。クラスはA級で銀髪を後ろでまとめた優男風な印象のある男だった。その風貌と整った顔立ちから女性が放ってはおかず、いつも違う女性が隣にいたが、彼は少し乱暴者としても有名だった。何も知らない冒険者からはその顔で舐められ、喧嘩を売られては倍返し以上で相手をのして、さらには心を折りにいく男だった。無闇矢鱈に暴力は振るわないが性格はあまり良いとはいえない、そんなライリーが怒鳴り込んできたので、冒険者ギルドの受付やそこにいた馴染みの冒険者達は何事かと驚いた。


「おい!アランとエリスだ!ここにいることは知ってる!出せ!!」

「……ライリーさん。いきなり怒鳴りこんでは困ります。アランとエリスはここにいますが、貴方とはどう言った関係ですか?」


 仕事が後少しでおわることを考えると、いないと誤魔化して裏口からこっそり帰りたかったが、どこからかアランとエリスがここにいるということが知られていた。ライリーもエリザベスと2人が関係があると知っているのか、エリザベスのほうから視線を外さずに怒鳴っていた。


 アランとエリスはエリザベスのところに来てから、石鹸で身体を洗い、頭に沸いていたしらみをきれいにし、しっかりとご飯を食べるようになってみるみるうちに変わっていった。2人とも見事なプラチナブランドの髪にエメラルドのようにキラキラとした瞳、いくら外にいても焼けない白い肌、しかも肌触りは陶器のよう。エリザベスはそんな2人に幾らでも貢いでしまうので、今ではちょっとした庶民の格好をした王子様とお姫様のようになっていた。


 そんな2人の噂を聞きつけて何かしようとしているのか、いやそんな非道なことはライリーはしないはず。これまでの噂では性格は悪いが、悪いことは悪いと言い切る切符のいい性格のはずだった。ただエリザベスは可愛がっている2人が性格の悪いライリーに引き合わせることはしたくなかった。何をされるかわからないからだ。


「……あのちっこいのの世話してたんだよ。面倒かけたな。……怒鳴って悪かったよ」

「……そうでしたか。アラン、エリスおいで」


 少し遠くにいるので声を張って呼ぶと、裏の広場から2人が小走りでやってきた。


「ベスおばさん、どうしたの?買い物?ご飯は早いよね?」

「ベシュおばさん、わたしまほうおぼえたよ」


 以前の姿しか知らないライリーは、あまりの変わりように声もなく驚いていた。


「あ、ライリーさん、お久しぶりです。いつかはありがとうございました」

「ありがとうございました」

「…………………アランとエリスか?」


 2人は顔を見合わせてから、ライリーに向かって頷いた。


「おおおおおおおぉぉぉおお前ら!こんな美人だったのかー!!?」

「ベスおばさんのおかげです」

「ベシュおばさんだーいすき」


 エリザベスは既に胸がキュンキュンして堪らなかった。2人を抱きしめていい子いい子して好きな食べ物やお菓子を買って甘やかしたかった。ただそうするとアランが、「甘やかしたら駄目だよ。つけあがっちゃうからね」と諌めてくれた。エリスが残念な目で見るのも堪らなかった。そこでこっそりエリスに飴なんかをあげると天使のような微笑みを返してくれて、一気に昇天しそうになるが、何故かいつもアランにバレてしまいお説教をうけてしまっていた。


「……そうか。一ヶ月いなかったからな……」

「ゴミ箱漁ってましたよ」

「……そうか……」


 ライリーは反省するかのように項垂れてしまった。エリザベスは反省しているならと考えライリーに声をかけた。


「あの、お二人のことは私にお任せ下さい」

「はあ!?俺だって面倒みてたんだ。面倒見る権利くらいあるだろう!?」

「え?」

「あ?」


 正直ライリーには二人の面倒をみることは無理だとエリザベスは考えていた。ライリーはこの地域で5本の指に入る腕の立つ冒険者。苦手な依頼もなく、下位の依頼でも長期間張り出していると快く請け負ってくれる。そしてワーカーホリック。子どもの面倒より仕事を優先する。そして子ども達はゴミ箱を漁る羽目になっていた。エリザベスとしてはライリーにはアランとエリスを渡すつもりは毛頭なかった。


「仕事で長期間家を留守にする方に二人は渡せません」

「こ、今回はちょっと長引いただけだ。もう大丈夫だ」

「貴方が大丈夫でも周りが許しません。貴方は腕の立つ冒険者ですから」

「ま、まあな。だが二人の面倒は見れる!任せとけ!」

「一度の失敗で信頼を失うことがあります。これはその最たるもの。お渡しできません。いくら貴方が凄腕で優秀な冒険者であっても」

「いいや。二人は俺が面倒見る。なんだって稼ぎがいいしな」

「稼ぎなら私も二人を育てるには十分な稼ぎがあります」

「贅沢はできないだろう!?」

「ぐ……。贅沢などしなくても心豊かに過ごせます。何よりゴミ箱を漁るような生活はさせません」

「ぐぬっ……お前言うな」


 どこぞの子どもの親権を巡る離婚調停の様相だなと、周囲は感じているが、二人は一歩もひかなかった。エリザベスもライリーも、アランとエリスのことを考え、自分が育てた方が一番だと考えているからだ。


「ねえ、きりないから二人に選んでもらえば?」


 この不毛な争いに同じ受付の同僚が決着をつけようとした。アランとエリスの将来にも関わるので二人に決めてもらった方がかどがたたないとの判断だった。


「二人ともいいでしょ?」

「はい、構いません」

「はーい」

「じゃあ二人ともアランとエリスに自分の魅力をアピールして」


 アランとエリスは興味津々で二人のことを見ている。エリザベスはまずは自分からと踏み出そうとしたところ、ライリーに先を越されてしまった。


「じゃあ、俺からだ!!俺は稼ぎがいい!何でも買ってやれるし贅沢もできる!今回はちょっと考えなしだったところもあるが、次はない!同じ失敗はしねぇ!!二人とも安心して俺を選べ!」

「では、私は二人には温かな食事、清潔な寝床、安心できる家が提供できます。二人っきりにはさせません。私が仕事の時には一緒に来てもらって、帰ったら一緒にご飯食べてお風呂に入って一緒に寝ましょう」


 ライリーのときにはギャラリーからまばらな拍手があったが、エリザベスには盛大な拍手が聞こえてきた。


「な!?お、お前ら!!くそ!いや、がきどもがどっちを選ぶかだ!勝負はこれからだ」


 ライリーはギャラリーの反応に幾分か焦りを見せていた。周りからはやはり、子どもには家族のように安心と安全が提供されるであろうエリザベスの主張が胸に響いたのだった。


「僕たちはエリザベスと一緒に暮らしたいです」

「ベシュがいいー」


 どさっとライリーが床に倒れてしまった。


「でもライリーさんとも一緒に過ごしてもいいです」

「ベシュがいちばんよー」

「お、お前ら優しいなぁ……」


 ライリーは優しいアランとエリスに感動していたが、エリザベスとしては邪魔者にはさっさと帰宅してほしかった。


「ライリーさん、要件がもうなければお帰り下さい」

「おいおい、まだおわってねぇだろう!?二人は俺とも一緒に生活していいって言ってたんだ!」

「ふふ、おかしいことを。それは情けというもの、社交辞令という言葉ご存じですよね?」

「はぁ!?情けぇ!?社交辞令なんてしらねぇし!!」

「はぁ!?二人とも聡い子達です。世話になった貴方を無碍にはできないのですよ?」

「はぁあ!?おい、子どもがそんな気の使い方すんな!!」

「させているのですよ。貴方が」


 エリザベスはライリーに最後通牒とばかり止めを刺しにきた。このまま葬り去ってしまいたかったが、アランとエリスの前である。そこまで滅多刺しにはできなかった。


「くっそーーー!わかったよ!じゃあ夕食は俺が担当する!!」

「え?」

「なんだ?不服か?」

「いえ、不服というか何というか……。話が通じないというか」

  

 そういえばと、ライリーの頭の上を見るとそこには『不屈の勇者』とあった。『勇者』ではなく『不屈の勇者』。恐らく、正論では諦めないであろう何かがあるのをエリザベスは察した。


「あ?おまえどこ見てんだ!?」

「虫が飛んでいたので」


 うっかり頭の上を見ながら考え込んでしまった。だがこういうことは一度や二度ではない。もっと危ない橋も渡ったのだ。特にギルマスはひどい。わかってて確認をしているようらな気がしていて、その話を逸らすのがまた一苦労だった。だからライリーからのちょっとした突っ込みは軽くあしらうことできた。


「今日からな。じゃあお前たち何が食べたい?」

「お肉がたべたいです」

「にものー!おいもー!」


 今日から夕飯時は二人がいないことを考えると寂しくなってしまう。今日の仕込んだものは明日の朝にでも回そうか、何時に帰ってくるのかライリーに確認して迎えにもいかないといけない。早めに返してほしいがそれは大丈夫だろうか、考えるだけでしんみりとしてしまうが、これが結論のようだからエリザベスがごちゃごちゃ言っても仕方がなかった。


「二人とも遅くならないうちに帰りなさい」

「あ?何言ってんだ?お前も来んだよ」

「……え?」

「あ!?一緒に来いって!……貸しは作らねぇ主義なんだ」


 少し照れた様子でどすどすと先に進むライリーがおかしいのか、二人の兄妹は顔を合わせてくすくす笑い、早く行こうとエリザベスの手を引いてその場を後にした。

読んでいただきありがとうございます。

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