【軍議】
「軍議を開く。」
ウィルド王太子の結婚式という特別な事情もあり、アムロード家の王都屋敷には普段はランドンにいる家令のマリスを始め、家中の主だった者が全て集結していた。
エドルは彼らを一堂に集め、今起きている事を説明する。
エドルの説明を聞いた家臣たちからは予想通り反発の声が上がった。
「それにしても王家の態度は虫がいいにも程がある。我らに助力を求めるのであれば、国王が直接頭を下げるのが筋であろう。」
一方マリスは感情的な反応を控えて、冷静に状況を分析する。
「しかしレラン高原が公国に奪取されるのは、王国の防衛にとって大きな痛手となります。それは長期的に見れば当家にとって不利益となるでしょう。」
エドルは家臣たちが自由に発言する事を許していたが、出兵に否定的な意見が多数を占めていた。
そこでエドルはアランが切り札として用意した条件を明らかにする。
「実は出兵の見返りとして、王家よりある提案を受けている。」
エドルの思わせぶりな発言を受けて、全員が彼に注目する。
「我らがレラン高原に出兵するなら、サアラの行動の自由を認めるそうだ。」
「!」
それは事実上の人質として王都に縛り付けられているサアラが、その境遇から解放される事を意味している。
「なるほど、それなら悪くない。」
「そうだ、好機を逃すべきではないぞ。」
「向こうの気が変わらないうちに進めるべきだ。」
家臣たちの意見は反対から賛成へと一気に傾いた。
王都から離れる事が出来ず、いわば軟禁状態にあるサアラの境遇に心を痛めていない者は、この場にはいなかったからだ。
ここで家臣を代表してマリスが立ち上がり、エドルに裁可を求める。
「皆の意見も出揃いました。何卒ご裁可願います。」
エドルは大きく頷くと、自らの考えを述べる。
「此度の王家からの出兵要請だが、こちらからも二つほど条件を出した上で、この話を受けようと思う。」
「その条件とは?」
「まずレラン高原への出兵には王家も加わって頂く。具体的にはウィルド殿下にご出陣願う事になる。」
「ウィルド殿下にとりましては初陣となりますな。」
「5年ほど戦が無かったからな。」
「二番目の条件は?」
「レラン高原への遠征部隊を率いる役目はアーサーにやってもらう。」
「それでは・・・」
「そうだ。儂は今回出陣しない。これにより当家は出兵はするものの、完全に納得している訳ではない事を示す。ただし出兵の規模は今まで通りだ。縮小はしない。」
「承知しました。私はこれからランドンに戻り、出兵の準備を進めます。」
「頼んだぞ、マリス。」
「お父様。」
話がまとまりかけたところで、それまでおとなしく座って軍議に口を挟まなかったサアラが初めて発言を求める。
「何だ?」
「私の行動制限が解かれるというのであれば、私もレラン高原に同行させていただけないでしょうか。」
サアラの爆弾発言に対し、その場の全員が絶句した。
エドルは頬をピクピクさせながら言葉を発しようとする。
「だっ、だっ・・・」
「だっ?」
「・・・駄目に決まっておるだろうが!!」
次回「サアラ参戦」は、10月15日(日)20時頃に公開予定です。




