【親書Ⅰ】
王族の結婚式において、他国の代表が親書を渡すタイミングには特に決まりがあるわけではないが、早いタイミングで渡すのが一般的だ。
しかしビショップ宰相が親書を提出したのは、三日間に及ぶ結婚式の最終日、新郎新婦の披露パレードが行われている最中だった。
親書を王国側に渡す事により、時限爆弾のセットは完了した。
爆発すれば自身に追手がかかる恐れは否定できない。
だからそうなる前に逃げ出すだけだ。
親書を担当者に手渡したビショップは王宮の外に待たせてあった馬車に乗り、そこからはオルドリッジ子爵の屋敷に立ち寄る事も無く王都を出ると、そのまま国境を目指して走り去った。
筆頭秘書官のアランがデール公国からの親書の報告を受けたのは、ウィルド王太子の夫妻の披露パレードが終わり、少し落ち着きを取り戻した時だった。
『デール公国から? 届くのが妙に遅いな・・・』
その事に違和感を感じたアランは、実際の親書を持って来させる。
「こちらがデール公国からの親書になります。」
次席秘書官から親書を受けとったアランは、それを注意深く観察する。
『これは!・・・』
国王宛の親書と言っても、王族の結婚式に送られる親書は、定型文のような祝辞が並ぶだけのものに過ぎない。
デール公国からの親書は、それら他国の親書に比べて、明らかに厚みが異なっていた。
まだ親書の内容を見た訳ではない。
それでもアランはこれが単なる祝辞でない事を確信する。
「あの、アラン様・・・」
ただならぬ表情で黙り込んでしまったアランに対して、親書を持ってきた次席秘書官が心配そうに声をかける。
「ジョセフ、私の午後の予定は全て中止だ。私は今から国王陛下にお会いする。」
アランは駆けだす様にして国王の許に向かった。
次回「親書Ⅱ」は、10月12日(木)20時頃に公開予定です。




