【祝賀パレードⅤ】
「よりによってこの場所なの?・・・」
自身が置かれた状況に、サアラはすっかり困惑していた。
パレードの準備はすっかり整い、後は出発を待つばかりである。
それは良いのだが、問題は彼女の移動先だ。
そこは王太子夫妻が乗る馬車から2メートルと離れていなかった。
このままではサアラとソフィアは普通に会話できるほどの至近距離でパレードに臨む事になる。
『近すぎる・・・』
この状況に嫌な予感を覚えたサアラは相手に見つからないように他人のふりをしているが、ソフィアの方は騎乗したサアラを穴が開くほど見つめている。
『気付かれたか?』
サアラの懸念は現実のものとなった。
「サアラ様ですよね。」
隣にはウィルド王太子がいるにもかかわらず、ソフィアは普通に話しかけてきた。
『こんな所で何言い出すんだこの子は!!!』
ソフィアの問いかけに対してサアラは無視を決め込んだが、その事がかえってソフィアの確信を深めてしまう。
馬車の中でソフィアはニヤニヤと笑い出した。
その表情をチラ見したサアラは、悪い予感が予感で済まない事を確信する。
『この子、絶対に変な事を考えてる。』
サアラは今すぐこの場所から逃げ出したい誘惑に駆られるが、こうなってしまってはもはや手遅れだ。
「ソフィア、先程から落ち着きがないようだが、どうかしたのか?」
「申し訳ございません殿下。私、急に楽しくなっていしまいまして。」
「そうか。私たちが国民に直接触れ合う機会は少ないからな。私も楽しみだ。」
完全に悪ノリモードに突入しているソフィアに対して、ウィルドの反応はあくまで生真面目だ。
「出発!」
指揮官の号令と共に、隊列はゆっくりと動き出す。
パレードが始まると、ソフィアは観客に手を振るふりをして、ニヤニヤしながらサアラにしつこく何度も手を振ってくる。
『この状況で私が手を振り返せるわけないでしょう? あんたはアホか!』
サアラが反撃できないのをいいことに、ソフィアの悪ノリはさらにエスカレートする。
「サアラ様、観客の方々にも手を振ってあげて下さいな。きっと喜ばれますよ。」
『ウィルド殿下、お願いですからあなたの妻の暴走を今すぐ止めて下さい!』
サアラの願いも空しく、ソフィアの暴走は止まらない。
「サアラ様、そんな恰好で暑くは無いですか? 兜を取ればきっと涼しくなりますよ。」
『取ったら大騒ぎになるでしょうが! あなた分かってて言ってるよね。』
サアラは心の中で一生懸命反論するが、完全にスイッチが入ったソフィアの方はノリノリだ。
「サアラ様、大変です! 謎の不審者がこちらに・・・」
『不審者!?』
反射的にソフィアを見たサアラに、ソフィアの変顔攻撃が炸裂する。
不覚にも彼女の変顔をまともに見てしまったサアラは、笑いをこらえるのに必死だ。
馬上でプルプル震えるサアラを見たソフィアは、勝利の笑顔を浮かべながら、さらにイジってくる。
「あれぇ、そこのあなた笑ってませんか? 不謹慎ですねえ。 王家の晴れ舞台なんだからもっと真面目に仕事をしてくださーい。」
『こんのぉー!!』
サアラは自分がかぶっている兜をソフィアに投げつけて、彼女の減らず口を閉じさせたい衝動に駆られるが、それをしてしまうと自分の令嬢人生も閉じてしまうため、ひたすら我慢するしかない。
『悪夢だわ・・・』
こうして最初から最後までソフィアにいじり倒されるという、サアラにとって苦行のようなパレードが終わった。
次回「親書Ⅰ」は、10月11日(水)20時頃に公開予定です。




