【祝賀パレードⅢ】
パレード開始の1時間前、サアラは事前にソフィアに指定された場所で自分が入れ替わる相手を待っていた。
そこは人通りが少なく、しかもパレードの出発点にも近いため、今回のような秘密の待ち合わせにはもってこいの場所である。
儀仗兵用の鎧を身に付けたサアラは顔を隠すために兜をかぶっているので、たとえ誰かに見られたとしてもパレードの出発を待っている儀仗兵の一人にしか見えないはずだ。
そして待ち人は時間通りに姿を現した。
「ミス・アムロード、お待たせしました。」
彼は自分の兜を取ると笑顔で自己紹介する。
「私はアンディと申します。ソフィア妃殿下より話は全て伺っています。」
「協力に感謝します。」
「いえ、こちらこそこんな愉快な計画に誘って頂き、感謝しております。」
「それで準備の方は?」
「計画通りです。後は私と入れ替わってパレードに参加して頂くだけです。」
彼は一枚の紙を取り出した。
「こちらがパレードの配置図です。」
そこには王太子夫妻を乗せる馬車の位置と、それを取り囲むように警護する儀仗兵の配置が記されていた。
「赤い丸が書かれた所がミス・アムロードの位置になります。」
自分が配置される場所を確認したサアラは、そこがそれほど目立つ場所でなかった事に安心する。
「ここを真っ直ぐ進んだ先の突き当りを左に曲がった所に儀仗兵が集合しています。
出発直前という事もあって、現場は相当慌ただしくなっていますので紛れ込むのは簡単です。」
「本当に見つからないかしら?」
「ミス・アムロードと私は体格もそれほど変わりませんし、兜を被った状態で別人と見破る人はまずいないはずです。」
「でもさすがに声はごまかせないでしょう?」
「それも手を打ってあります。私は今日、のどの痛みで声が出せない事にしておきましたので、話しかけられる恐れは少ないかと思います。万一話しかけられましたら身振り手振りで答えて下さい。」
「万一の時はそれしか無さそうね。」
「それからミス・アムロードがパレードで騎乗される馬には一目で区別が付くように鞍の鐙に赤いリボンを結び付けておきました。」
「とても助かるわ。ところでどんな馬なの。」
「赤毛の牝馬です。まだ若いので元気は有り余っていますが、素直な性格なのでミス・アムロードであれば問題なく乗りこなせるでしょう。」
「分かったわ、では行って参ります。」
「どうぞお気を付けて。成功をお祈りしております。」
「ありがとう。」
不安を振り払うように深呼吸をしたサアラは、教えて貰った集合場所に向かって歩き始めた。
次回「祝賀パレードⅣ」は、10月9日(月)20時頃に公開予定です。




