【大夜会Ⅱ】
元々の顔立ちは地味なのに、きっちりメイクをすると別人のように変身する、いわゆる「化粧映え」のする女性というのはどこの世界にも存在するが、ソフィアはその極致とでも言うべきタイプだった。
どちらかと言うと吊り目で派手な顔立ちのサアラが同じ真似をした場合、変身どころか単にけばけばしくなるだけなので、夜会の席でもナチュラルメイクが基本だ。
サアラとソフィアは、大混雑している会場から、人目の少ないバルコニーに逃れた。
本来であれば夜会の主役であるソフィアは途中で席を外す事など許されない。
しかし今まで緊張の連続だったはずのソフィアには適度な息抜きが必要と考えたサアラは、あえて彼女を外に誘い出したのだ。
だからサアラとしては短時間で会場に戻るつもりだ。
「それにしても大変身ね、一瞬誰かと思ったわ。」
「私も今回初めて知ったのですが、王宮には女性王族のメイクをする専門の担当者がいて、私は今や彼女の実験台になった気分です。」
「そんな人がいるなんて、私も知らなかったわ。」
「彼女が言うには、今夜のメイクは『会心の出来』なのだそうです。ただウィルド殿下も最初私が誰だか分からなかったらしくて、後で大変驚かれていました。」
美女の正体がソフィアである事に気が付かなかったのが自分だけではないと知って、サアラは少し安心した。
「彼女によればメイクとは無地のキャンパスに絵を描くようなものなので、素材は地味な方が良いのだそうです・・・私、怒ってもいいですよね!?」
「さあ、どうかしら。」
サアラはけらけらと笑いながら答える。
一方のソフィアは真剣な表情でサアラに意見を求める。
「サアラ様はこのメイクをどう思われますか?」
「とてもお似合いよ。」
「そうでしょうか? 私だったらこうはしませんし、それ以前に自分では出来ません。」
「気に入らないの?」
「気に入らないというか、自分が自分でない感じがして居心地が悪いですね。」
「慣れの問題もあるでしょうから、しばらくすれば気にならなくなるかもしれないわね。」
「そうだと良いのですが・・・」
「それよりもそろそろ戻りましょう? あまり長く殿下をお一人にするのも良くないわ。」
「そうですね。」
短い休憩を終えた二人は夜会という名の「戦場」に戻っていった。
次回「大夜会Ⅲ」は、10月5日(木)20時頃に公開予定です。




