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追放ルートを目指します!  作者: 天空ヒカル
第1部 悪役令嬢の追放
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【悪役デビュー】

王都を震撼(しんかん)させた怪鳥(かいちょう)騒動(そうどう)もようやく(おさ)まり、人々が落ち着きを取り戻した頃、王都では重要なイベントが開催されようとしていた。


ウィルド王太子の誕生パーティーである。


これはゲーム序盤(じょばん)の重要なイベントであり、サアラが策定したロードマップでも、失敗が許されないマイルストーンとして記載されている。


『来週はウィルド王太子の誕生パーティーね。ここでヒロインは誕生日プレゼントで手作りのお菓子を渡そうとして、サアラがそれにケチをつけるのよね。』


本来のゲーム展開からは少し遅れてしまったが、これが彼女にとって、悪役令嬢としての実質的なデビューイベントになる。


『何度プレイしても、ここは胸が高鳴るシーンだったなぁ。イベントが台無しにならないように頑張らなくちゃ。』


サアラがイベント成功のための準備に明け暮れるうちに、あっという間にパーティー当日がやってきた。


好天に恵まれたため、開催場所は王宮中庭でのガーデンパーティーとなった。

これはゲームの設定通りだ。


王宮に到着した彼女は気合十分だった。


『いよいよ悪役デビューね。さぁ、今日から張り切っていじめますわよー!』


サアラは心の中で「ラストロマンス」のプレイボタンを押し、いつものテーマミュージックが流れ出す。


パーティー会場には、既に多くの貴族が集まっていた。


サアラに気が付いたアムロード家に関係の近い女性貴族が、早速声をかけてくる。


「聞きましたわよ、凶暴(きょうぼう)怪鳥(かいちょう)をお一人で退治されてしまうなんて、私驚いてしまいましたわ。本当に勇敢(ゆうかん)ですのね。」


「いえ、あれは怪鳥(かいちょう)の方が勝手に飛び去って行っただけで、私自身は何も・・・」


「まぁーご謙遜(けんそん)を、それで怪鳥(かいちょう)退治には魔法を使われましたの?」


『・・・そんな物騒(ぶっそう)な魔法は使えません。』


困った事に王都に流れている噂では、なぜかサアラが怪鳥(かいちょう)を追い払った事になっている。


女性貴族からの称賛(しょうさん)の言葉に対して曖昧(あいまい)に返答しながら、サアラの意識はターゲットを探す事に集中していた。


ソフィアがウィルド王太子にプレゼントを渡してしまう前に、何としても彼女を見つけ出さなければならない。


『あっソフィアさん、いたいた。』


しばらく歩き回ってようやく目的のヒロインを見つけたサアラは、祈るような思いで彼女の手元を確認する。


『良かった、間に合った・・・』


ソフィアはゲームで何度も見たお菓子の包みを手に持っていた。


気合を入れたサアラはヒロインに近付くと、今日まで散々も練習したセリフを口にする。


「お待ちなさい!」


「ミス・アムロード・・・ご無沙汰しております。」


「その手に持っているものは何?」


「これは殿下への誕生日プレゼントです・・・」


「あなたが殿下にプレゼントですって!? 一体何を渡すつもり?」


練習の成果もあり、本番でもセリフがスラスラと出てくる。


「あの、それは・・・」


「中身は何かと聞いているのよ!」


「お菓子・・・手作りのお菓子です。」


サアラは()()()とばかりに眉を吊り上げてヒロインを糾弾(きゅうだん)する。


「ソフィア・ランストン、身分をわきまえなさい!、王太子殿下への誕生日プレゼントが手作りのお菓子だなんて、常識を知らないにも程があるわ!殿下はあなたのお友達ではないのよ!」


そう言うとサアラはお菓子の包みを強引にヒロインから奪い取り、地面に投げ捨てる。


「こんなもの!」


「あっ!」


容赦(ようしゃ)ないサアラの仕打ちに、ソフィアは今にも泣きだしそうな顔になる。


「何事だ!」


ドンピシャのタイミングでウィルド王太子の登場だ。


『殿下、完璧です!』


サアラは心の中でウィルド王太子に拍手を送る。


型通りの挨拶を済ませた彼女は、事の次第を殿下に報告する。


「ここにいる元・平民が身分もわきまえず、殿下に手作りのお菓子を渡そうとしていたのです。この私が無礼者をたしなめていたところですわ。」


「・・・事情は分かった。ミス・アムロード、どうやら誤解があるようだ。手作りのお菓子は私が所望(しょもう)したものだ。だから彼女を()めないでやってくれ。」


「殿下、そのような嘘をおつきにならずとも・・・」


「嘘ではない。」


そう言うとウィルド王太子はサアラが投げ捨てたお菓子を拾い上げ、包みを開く。


「殿下! 一体何を!?」


ウィルド王太子はサアラの制止を無視してお菓子をつまみ上げると口に入れる。


それから殿下はソフィアに向かって優しく語りかける。


「美味しかったよ、ミス・ランストン。ありがとう。」


「殿下・・・」


ヒロインは目を(うる)ませながら殿下を見つめる。


『キャー!!!! 何なの()()(とうと)すぎるシーンは!ゲームで何度もプレイしたシーンが、リアルに目の前で展開されているんですけど。これが全て無料ですか?課金しなくていいんですか?』


テンション爆上がりのサアラは、不覚にも自分の顔がにやけている事に気付いてハッとする。


『いけないいけない、お二人の前なのよ。真面目にやらなくては。』


サアラにとって、二人だけの世界に入っているヒロインたちに自分のにやけ顔を見られなかったのは幸運だった。


彼女は急いで表情を整えると、最後まで自分の役目をしっかり果たす事に集中する。


「ふん! 覚えてらっしゃい」


ヒロインへの捨て台詞を残して、悪役令嬢は退場していく。


『よし! ミッションコンプリート』


ヒロインたちから表情が見えなくなったサアラは笑顔になり、小さくガッツポーズした。

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