【運命の使者】
『これはまた大変な賑わいだな。』
デール公国宰相のビショップは、想像を遥かに超えた王都の騒乱に目を奪われていた。
結婚式を2日後に控えた王都は諸外国の賓客を始め、普段は領地にいる貴族が大集合し、さらに国中からこの一大イベントを一目見ようと集まった人々で溢れかえっていた。
おかげでまだ午前中だというのに王都の中心部は馬車と人、荷車でごった返しており、ビショップを乗せた馬車は、なかなか目的地に着く事が出来ない。
既に王都の宿屋という宿屋は全て満室になっていたが、王都でのビショップの滞在先は、王都駐在の公国貴族であるオルドリッジ子爵の屋敷であるため、宿の心配は無い。
この世界では他国と正式な国交を持った場合、互いの国に貴族を駐在させる事で、正規の外交ルートを確立するのが慣習となっている。
そのため駐在貴族の屋敷は、現代で言うところの大使館の役割に極めて近い。
当然ながらデール公国の公都にもクロスリート王国の貴族が駐在している。
両国は互いを仮想敵国として認識しているが、戦争状態では無いため通常の外交関係が維持されているのだ。
そしてビショップ宰相は、両国の外交関係をぶち壊すような親書を摂政クリストファーから託されている。
これは外交的には「爆発物」とでも言うべき代物であり、相手に渡したら最後、戦争は避けられなくなる。
そのため取り扱いには細心の注意が必要である。
今回の王国訪問におけるビショップ宰相の最大の目的は親書の受け渡しだが、それ以外にもクリストファーからいくつかのミッションを与えられている。
一つはウィルドと面会して、どのような人物かを確認する事。
もう一つは追放から戻ったアムロード家の娘と接触して、面識を得る事。
これらは王家とアムロード家の関係を探るうえで、いずれも欠かせない情報になる。
王家に最後通牒を突き付けるのは、その後の話だ。
結婚式で多忙を極める王子と個別で面会するのは事実上不可能であるため、二日目に行われる結婚披露の夜会がウィルドと接触する最大のチャンスとなる。
その時にアムロード家の娘とも接触できれば申し分ない。
王国に激震をもたらす運命の使者は、その準備を着々と進めていた。
大変お待たせ致しました。
ようやく準備が整いましたので、本日より毎日連載を再開します。
これから第5部の「結婚式編」と第6部の「戦争編」を休み無しに一気に
両国の戦争終結まで描き切ります。
基本的にアクション要素は少なめの本作ですが
第6部ではアクション要素が盛り沢山となり、淡々と進んでいた物語は
これまでで最大の盛り上がりを迎える事になります。
次回「聖なる誓い」は、10月2日(月)20時頃に公開予定です。
よろしくお願いいたします。




