【落馬と引越しⅤ】
『いくらなんでもあれはひどいわ。早く何とかしてあげなくては。』
王都屋敷に戻ったサアラは早速行動を開始した。
「ただいま、マーサ。」
「お帰りなさいませ、お嬢様。」
「お父様はいらっしゃるかしら?」
「はい。先程お戻りになられましたので、今は執務室におられると思います。」
「そう、ありがとう。」
サアラは外出着のまま執務室に向かった。
マーサの言う通り、エドルはそこに居た。
「サアラか、何か用か?」
「はい。お父様に折り入って相談がございます。」
「何だ? 言ってみろ。」
「当家が所有する王都の西にある屋敷ですが、あそこを使われる予定はあるのでしょうか?」
「『西の離れ』の事か?あの屋敷は広いだけが取り柄で建っている場所は不便だし、建物自体も老朽化しているから今のところ使い道は無いな。それがどうした?」
「ええ、実は住む場所を探している貴族がおりまして、その方々にあの屋敷をお貸し頂けないかと。」
「住む場所を探している貴族とは誰だ?」
「モントレイ子爵家です。」
「王国儀典官のモントレイ家か?しかしあそこは王都の中心に立派な屋敷を持っているはずだぞ。なぜ引っ越す必要があるんだ?」
「モントレイ家は既にその屋敷から郊外に移られています。さらに言えばモントレイ卿は病のため王国儀典官の職を辞されています。」
「・・・なるほど、おおよその事情は分かった。西の離れは取り壊すにも金がかかるから放置してあるが、今のままでは物騒だし、けしからん連中のアジトにされても困る。ちょうど何とかしたいと思っていたところだ。管理人代わりに住んでくれる人間が居るならタダで貸しても良い位だ。」
「無料で貸していただけるのですか!?」
「モントレイ家があれを王都屋敷として使うというなら、きちんと管理してくれるだろう。だからタダで貸してやっても構わない。その代わり屋敷の維持と補修にかかる費用については向こう持ちだ。」
「承知しました。その条件でモントレイ家に打診してみます。」
「それにしても他家の事情にはあまり首を突っ込みたがらないお前がこのような頼み事をするとは珍しいな。」
「当家の味方は増やしておくに限りますから。」
「そうかそうか、お前にもようやく高位貴族としての自覚がでてきたようだな。結構な事だ。」
エドルは上機嫌となり、サアラの交渉は無事に成功した。
次回「落馬と引越しⅥ」は、9月10日(日)午前7時10分頃に公開予定です。
どうぞお楽しみに。




