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追放ルートを目指します!  作者: 天空ヒカル
第1部 悪役令嬢の追放
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【怨霊と怪鳥】

「フゥー、なかなか上手(うま)くいかないものね・・・」


使用人たちが寝静まった深夜、サアラは今日も寝室で悪役令嬢の必殺技である「高笑い」の練習にいそしんでいる。


ゲーム中のサアラ・アムロードが何度も披露(ひろう)していた見事な高笑い、ところが今の彼女には()()()再現できない。


プロの声優ではないのだから多少の妥協は許されると思うのだが、本物のサアラ・アムロードのくせに高笑いが出来ないというのは、彼女自身、どうしても納得がいかなかった。


だからサアラは毎晩深夜に喉が枯れるまで秘密特訓を繰り返していたのだ。


だがその特訓の成果が出る前に、思わぬ問題が発生する。


「お嬢様、折り入って相談がございます。」


いつもは明るいマーサが、その日に限って深刻な表情をしている。


「どうしたの、一体」


「はい、お嬢様は最近屋敷内に奇妙な噂が流れている事をご存知でしょうか。」


「噂?」


「それが・・・毎晩深夜に怨霊(おんりょう)の叫び声が聞こえるというのです。」


「おっ、怨霊(おんりょう)!?」


「はい、あれは怨霊(おんりょう)ではなく怪鳥(かいちょう)の鳴き声だと断言する者もおります。いずれにしましても複数の者が屋敷内で人間とは思えない()()()()()声を聞いたと証言しています。」


「へぇー、そうなの・・・」


表向きは何とか平静を(よそお)ったものの、サアラは怨霊(おんりょう)の正体を瞬時に見破った。


『それ、私じゃん・・・』


ここでマーサはグッと身を乗り出し、ここからが本題だと言わんばかりに声をひそめる。


「しかも怨霊(おんりょう)の叫び声の出処(でどころ)が、お嬢様のベッドルームがある二階だと申す者がいるのです。」


サアラは名探偵に追い詰められる犯人の気分を味わっていた。


「お嬢様に何か心当たりはございませんでしょうか?」


「さぁ~、私は聞いた事無くてよ・・・」


本当は心当たりがありまくりのサアラは、冷や汗がダラダラ流れる思いである。


「もし犯人が怨霊(おんりょう)であるなら、エクソシストが出来る司祭様をお呼びした方が良いのではないかと・・・」


『司祭様呼んじゃダメー!原因知ってるから、無駄足になるから!』


そんなサアラの内心など知らないマーサはさらに(たた)()けてくる。


「最近、ミラン司祭と言う方が凶悪(きょうあく)怨霊(おんりょう)をたった一人で打ち払ったと王都中の噂になっております。この際、ミラン司祭にエクソシストをお願いしたらいかがでしょう?幸いにもミラン司祭に伝手(つて)をもつ人物を知っております。お嬢様にお許し頂ければ、すぐにも手配いたしましょう。」


『まずい・・このままでは私の秘密特訓のせいでミラン司祭が来てしまう。』


大事(おおごと)にしたくない彼女はマーサを何とかなだめようとする。


「まだ犯人が怨霊(おんりょう)と決まったわけではないし、もう少し様子を見た方が良いのではないかしら。まだ実際に被害を受けた人はいないのでしょう?」


「それはそうですが、もしこれが怨霊(おんりょう)仕業(しわざ)となれば一刻を争う事態です。犠牲者が出てからでは手遅れです。」


「でもミラン司祭も本物の怨霊(おんりょう)退治(たいじ)でお忙しいでしょうから・・・」


「えっ!?、本物?」


「いやいやそうではなく・・・えーっと、そう! 実は見たのよ、怪鳥(かいちょう)


「えぇっ! 本当でございますか?・・・しかし先程は心当たりなど無いとおっしゃっていたような・・・」


「きっ、急に思い出したのよ!そう、あれは凄かったわ。」


「お嬢様は怪鳥(かいちょう)の姿をご覧になったのですか!?」


「ええ、見たわ・・・怪鳥(あれ)は私の背丈の5倍はあったわね。」


「5倍!?」


マーサはゴクリと唾を飲み込む。


怪鳥(やつ)の眼は緑色で羽は金色(こんじき)に光っていたわ。」


「それでお嬢様はご無事だったのですか?」


「ええ、何とかね・・・怪鳥(やつ)は『オーッホッホッホッ』と甲高(かんだか)い鳴き声を上げた後に、南の空へ飛んで行ったから、もう戻ってこないと思う。とにかく運が良かったわ。」


「まさかそんな事があったなんて・・・お嬢様が怪鳥(かいちょう)に食べられなくて本当に良かった・・・」


「まあ()()()()わけだから、エクソシストは無用よ。」


「分かりました、それでは怪鳥(かいちょう)警戒(けいかい)だけにいたします。」


『えっ!?、怪鳥(かいちょう)警戒(けいかい)するの?』


何とか無事に収まったと安心した直後の予想もしなかった展開に、サアラは激しく動揺した。


だがそれを止めようにも、彼女には()()以上マーサを説得する材料は残っていない。


「ええ、必要よね・・・怪鳥(かいちょう)警戒(けいかい)


「もちろんでございますとも!」


「・・・ありがとう、心強いわ。」


「万事このマーサにお任せ下さい!」


マーサの動きは素早かった。

彼女はサアラの警備を理由にして完全武装した重装(じゅうそう)歩兵と弓兵(きゅうへい)を領地から呼び寄せ、24時間体制で王都屋敷の警備に当たらせたのだ。


さらにアムロード家から怪鳥(かいちょう)目撃の報告を受けた王宮も王都全体の警備強化に乗り出した。


『これはとんでもない大事(おおごと)になってしまった・・・』


王都屋敷の庭で繰り広げられる兵士たちの訓練を見下ろしながら、サアラの心は申し訳なさで一杯だった。


こうして彼女の秘密特訓は、周囲に多大な迷惑をかけた(すえ)に中止となった。

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