【隣国の摂政Ⅲ】
「まずは動員兵力につきまして・・・」
「2,000で出兵する。」
出兵の規模を即答する摂政クリストファーに対して、ビショップ宰相が窘めるように反論する。
「お待ちください、レラン高原攻略に兵2,000は少なすぎます。最低でも5,000は連れて行かなければ勝負になりませんぞ。」
「しかし5,000の兵を動かすとなれば、それだけ出費もかさむしね。もちろん5,000で首尾よく攻め取れれば、それに越した事はないけれど、今回は失敗しても構わないから2,000で十分だよ。」
「失敗しても構わないとは・・・それでは一体何のために行かれるのですか?」
「最初に言った通りさ。戦を通してウィルドの人物像が分かれば良い。それに王家とアムロード家に亀裂ありというこちらの見立てが正しいとすれば、アムロード家は戦に参加しないかもしれないぞ。そうなれば兵2,000でもこちらに勝ち目が出てくる。まあそのあたりは実際に攻めてみれば分かるはずだよ。」
「本当にウィルドは出てきましょうか?」
「確かにそれがこちらの最大の懸念ではある。戦になったからといってウィルドが確実に出てくる保証は無い。ウィルドが王都に引きこもる可能性だってあり得る。ウィルドを戦場に引っ張り出すための手立ては考えてみるが、それでも出て来ないようであれば、まあその程度の人物って事だよ。」
「仮にウィルドが出て来なかったとしても、目的は果たせると申されますか?」
「そういう事。相手を揺さぶる事で、何らかの答えは出てくるはずだよ。」
「分かりました。それでは直ぐにも出兵されますか?」
「いや、慌てる必要は無い。半年後の結婚式には予定通り出席してくれ。その時に向こうの祝賀気分が吹き飛ぶような親書を突き付ける。そうなれば戦争は時間の問題だ。お前は親書を渡したら、さっさと戻る事。長居は無用だよ。」
「御意」
『名君と謳われたグレミス二世と、何かと評判の良くないユリウス四世・・・私からの結婚祝いを受け取ったウィルド王太子はどう動くかな? 半年後が楽しみだね。』
クリストファーは不敵な笑みを浮かべる。
今やデール公国の命運は、この年若い摂政の双肩にかかっていた。




